第83話

週末の休みのうちに細々した買い出しもできたし、とりあえず家は暮らせるようになった。

バイロンさんも引っ越してきたので、賃貸関連はバイロンさんにおまかせだ。


今日からは授業が始まる。

事前に購入していた道具や教科書を持って学園に通う。

今日の授業は、午前に初級魔法学と社会学そして午後には体術もある。


授業開始の鐘がなるとすぐに先生が入ってきた。

「私が初級魔法を担当しますジェンナ・ウィスコットです。

この中でスキル鑑定を受けていない人はいますか?

皆受けてますね。大丈夫ですね。

では魔法を先生について習ったことある方は?

結構。

この授業の目的は、魔力コントロールの精度を高めること。

習ったことのない4分の1の人は難しいかもしれませんが、魔法を使うのに必須の技能ですし、コントロールが良ければそれだけ精密な魔法を使うことができます。

ある程度形になってきたら、生活魔法を教えます。

生活魔法はスキル関係なく、努力によってできる魔法ですからね。

頑張って習得してください。

さ、授業の説明はこれくらいにして、まずは…どれだけ今貴方たちが魔力をコントロールできているか確認しましょうか。

あなた、これを配ってくれる?」


なにやら小さな水色の紙が回ってきた。

紙には何も書かれていない。


「今配りましたのは、浮遊紙です。

魔力を込めれば誰でも使えるものです。

今後の授業でも使いますから、紙に名前を書いて授業のたびに持ってきて下さいね。

さぁ。名前を書き終わったら手のひらの上に紙を置いて、ほんの少しだけ魔力を込めてみて。」


手のひらに紙を置き、魔力を込める。

「わっ!」

紙が目の高さまで上がってきた。


周囲を見回すとみんな同じように紙を浮かせていた。

その高さはまちまちだけれども。


「皆うきましたか?

よろしい。

では手のひらの上で上下に動かしてみてください。

自分の魔力を上に向かってあげたり、下げたりするのです。

手のひらから少し暖かな感触がわかりますか?


いいですね。ジョン上手です。

アビーもう少し自信を持って!ふらふらしてるわ。

テルーもお上手よ。」

ウィスコット先生は、机の間を通りながら、一人一人の出来をチェックしている。


「はい。では今から呼ぶ人はそのまま上下の練習して。

その他の人はこの的まで飛ばしてみて。」


5人ほど名前が呼ばれ、その他の生徒は紙を先生が張り出した的へ飛ばす。


途中で落ちる人、別の方向へ行ってしまう人、近くの人にぶつかってしまう人、的から少し外れた人もいたが、7人の生徒が的まで飛ばすことができた。

私もできた。

意外と難しくない…これは7歳からずっと魔力コントロールの練習していた成果かしら?

独学だったけど実を結んでるってこと?

やったー!


「7人ですか…Cクラスにしては多いですね。

ではできた7人は浮遊紙を持って前に来て。

できなかった人は的当ての練習を続けて。

あ、疲れた人はすぐ休みなさい。

魔力が消耗しすぎると倒れますからね!

で、7人はこのジグザグのコースを通って私のところまで浮遊紙を飛ばしてくださいね。

途中のコーンに当ててはいけませんよ。」


ジグザグコースは難しいらしい。

4人終わったが、まだ誰もできない。

できるかな?できそうな気はするのだけど…

でもみんなできてないなら難しいのかもしれない。


5人目は第1コーンを周り、第2コーンを回ろうとしたところでコーンに当たってしまった。

6人目は第1コーンを回っているところで落ちてしまった。


そして私の番になる。

手のひらに紙を乗せ、魔力を込める。

10センチほど上がったところで前に進ませる。

右に回って第1コーン、そのまま進んで左に曲がり第2コーン、第3、第4と進んで、先生の手のひらの上で着地させる。


「よくできましたね!テルー。

例年Bクラスでもできるのは5人程度なのですよ。

この調子で頑張れば、次の試験でクラスアップも可能でしょう。」


やったー!

できた!ナリス語が不安だから筆記は自信ないけど、実技はなんとかなりそうかも。

入学試験にも実技があったらよかったのに…


「平民の#○×…」

何か聞こえた気がして振り向くと、クラスの注目を集めていた。

何人かは睨んでいる気がする。

ちょっと…怖い。


「はい。皆さんの力はわかりました。

精度はこれからどんどんあげていけばいいですからね。

今日配った浮遊紙で練習してみてください。

さて、もう一つ配りますよ。

どうぞ食べてください。

これは、ただの飴玉です。

今日のように魔力を使うと、疲れます。

魔力というのは、生命エネルギーのようなもの。

枯渇すれば倒れますし、最悪死に至ることだってあります。

もちろん普段の生活で枯渇することは、ほとんどないでしょうが少しでも疲れたなと思った時は、休んだり、何か食べたりするといいです。

私は持ち運びも楽で、日持ちする飴玉を常備しています。

皆さんもこれから授業で魔力を使うことも多いでしょうから、何か口にできるものを用意してください。

多少の魔力消費には効きます。

この一年で魔力コントロールを学ぶ訳ですが、コントロールというのは、先ほどのように自在に動かせるというだけではありません。

自分の魔力量を知り、自分がどれくらいの魔法を使えばどれくらいの魔力を消費するのかを知ることでもあります。

そして飴玉1個でどれだけ回復するのか、回復にどれくらいかかるのか…もね。

同じ魔法を使ったとしても人によっては飴玉1個では足りず、しっかりフルコース食べなければ復活しきれない人もいます。

自分の魔力を知り、使いこなすことが大事です。」


「太りそう!ポーション飲んじゃダメなの〜?」


「危険な地域に行く際は持った方がいいでしょうが、常用は勧めません。

ポーションは効能が高いですが、耐性ができてしまうと効きにくくなってしまいます。

だからポーションはいざという時以外は使わないほうが良いでしょう。

さて、今日の宿題は浮遊紙の上下ができなかった人はそれができるようになること、的に当たらなかった人はその練習、最終的にはジグザグもできるようにたくさん浮遊紙で練習してください。

テルーはまた違うコースを次回するので、浮遊紙でいろんな動きを練習してみて。」


授業が終わり、先生が出ていく。

えっと、次は社会学か。

…わからない単語出ませんように!!!


話をする友達がいる訳でもないし、知らない単語があれば覚えようと教科書をパラパラめくる。

この単語は…えっと…あった。〈鉄鉱石〉か。

訳をメモしとこう。

これは…えーっと…


その時ふと目の前が暗くなる?

ん?

顔を上げるとデニスさんがいた。


げ!


「嘘ついたな。

お前魔法習ってただろ。

師は誰だ?言ってみろ!」


「いえ…だ、誰かに習ったことはありません。

本を読んだりして自分なりに練習はしましたけども…」


ちっ!


え?舌打ちされた!

「あまりいい気になるなよ!

貧乏平民のくせに!」

それだけ吐き捨てて帰って行った。


何もしてない…はずだけど…

彼には完全に嫌われてるなぁ〜。


「気にしなくていいわよ。

貴女は魔法の才があって、あちらはなかっただけの話。

こんな事を言うのはあなたに失礼かもしれないけれど、こんな小さな子に八つ当たりして恥ずかしくないのかしら?

貴女流石に12歳じゃないでしょ?」


隣からまさかのフォローが来た。


「ありがとう。

話しかけてくれて嬉しかった。

私はテルー。歳は9歳です。

よろしくお願いします。」


「!!!9歳!?

思ったより下だったわ…貴女本当に優秀なのね。

私はナオミ。

13なの。よろしくね」


これから…仲良くなれるといいな。

それにしても…優秀なのか私…。

私で優秀なら、兄様たちはどうなるんだろう?

超人?

ふふふ。

そういえばイヴが昔兄様とは比べちゃダメだって言ってたっけ。

やっぱり兄様たちすごかったんだ!

そう思い至ると、無性に誰かに自慢したくなった。

まぁ誰も兄様のこと知らないから…うん。帰ってネロに話そう。

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