第75話

翌日無事に退院し、みんなと合流する。

ちなみに昨日ひょっこりやってきた黒猫のネロも一緒。

朝起きた時はもうどこにもいなくて、やっぱりいなくなっちゃったか…猫は自由気ままっていうもんなと思っていたのだけど、退院して病院から出るとどこからともなく現れてついてきたのだ。

増えた旅の仲間はネロだけではない。

同じ時に国境を越えた眼鏡のお兄さんだ。

私の入院中に助けてくれたお礼を言いにきたのがきっかけとのこと。

その時の話から両者共に帝都に行くことを知り、一緒に行こうということになったらしい。

お兄さん…改めバイロンさんは、私たちと一緒に行くことで護衛を雇わなくていいし、私たちもバイロンさんの馬車に乗せてもらえるからウィンウィンだ。

こうやって誰かと気軽に旅ができるのも追われてない、逃げてない状況だからこそ。

あぁ…帝国って自由だ!

馬車の中では何をしているかと言いますと、外の景色を堪能するでもなく、バイロンさんに帝都のことを聞くのでもなく…絶賛詰め込み学習中です。

誘拐からバタバタと帝国目指して旅をして、旅の間は食べられる植物を覚えることや結界を習得することや聖魔法を勉強することに一生懸命になっていて、帝国の公用語であるナリス語の習得をすっかり忘れていたのだ。

100歳オーバーであちこち旅をしているイヴはナリス語もペラペラ、王子妃教育を受けていたアイリーンもペラペラ。

バイロンさんはもともと帝都がご出身のようで当たり前にペラペラ。

私1人喋れないので特訓なのです。

「私 テルー。9歳 です。」

「惜しいね。接続語が抜けてるからすごくカタコトだし、9歳になってるよ。

8の発音はこう。

1から10まで数えてみようか」

「はい。1、2、3、4……6?、7、5、8、9、10!」

「残念でした。次は5、6、7が間違い。」

これはバイロンさんが教えてくれた時。

食事の時は、アイリーンが食材の単語を教えてくれたり、問題を出してきたりする。

「テルー『これはなんでしょう?』」

「えっと…『じゃがいも!』」

「では『これはなんでしょう』」

「…『さ かな?』」

「残念。『肉』です。」

「『いただきます。』」

「『ご馳走様』でしょ?ふふふ。」

夜は懐かしの音読だ。

もちろんナリス語で。

イヴが時折発音を直してくれる。

「テルーだいぶスラスラ読めるようになってきたわね〜。

でも、『霧』はちゃんと語尾をあげないと『雨』にも聞こえるわ。

もう一回よ〜!」

こんな調子で馬車で1週間ほど進めば、国境の街ラキアカ以来の街が見えてきた。

「わぁ〜大きな街〜!」

「ラキアカよりは大きいけれど、ここはまだ中規模の街だよ。

ここで大きいって言ってたら、きっと帝都はびっくりすると思うよ。」

「はぐれないようにしなきゃね!ネロもちゃんとついてこなきゃダメよー」

「にゃ〜」

「ここは酪農も盛んでね。

チーズに牛乳、ヨーグルトが名物。

日持ちしないものばかりだからここでしか食べられないものも多い。

いつもこれを帝都にもって行ければ…と思ってるんだけどね。

空間魔法くらいなきゃねぇ。

僕のおすすめもいっぱいあるから、案内するよ。」

まずは宿屋。

バイロンさんおすすめの宿が空いていたのでそこに決める。

それから腹ごしらえにレストランへ。

「☆♪○¥×#@?」

早い…早すぎる。聞き取れない。

ちょっと1週間みっちり勉強してきたけれど、当たり前だが全く歯が立たない。

は、早くナリス語覚えなきゃ。

仕方ない。メニューを読んでみよう。

「えっと…

1.鶏 焼く トマト、じゃがいも

2.へび?きのこ、熱い

え?へび?熱いってなんだ?」

「へび?どのメニュー?

ははっ。これはスパゲティだよ。

きのこの辛みソースがかかってるんだって。」

ちなみにメニューの半分以上がどんな料理か全くわからなかった。

まだ覚えた単語の数が少ないから仕方ないが、言語の壁…高い。

逃げる必要のない自由で楽しいはずの帝国で、ちょっぴりホームシックになった私は、その夜たわいない話からテルミス商会のプリンと靴の事業についてや、さらにさらにナリス語が難しいという愚痴までマリウス兄様に存分に手紙を送った。

すぐさま優しい返事をくれた兄様はやっぱり優しすぎると思う。

商会について思い出し、オーナー変更できてないのでは?と聞くと、お母様から変えるつもりはないとのこと。

せっかくなので帝国に支店を広げましょ!なんて言っている。

サリーとルカも「お嬢様の専属ですから!」と帝国に行く気満々なんだとか。

うそ。泣きそう…

サリーとルカには王国でサリーとルカの代わりができる人材を育ててから来るように伝えておく。

あと、本当は今すぐにでも来て欲しいけど、専属だからといって無理しなくていいよとも。

行けないと返事が来るまではサリーたちが来る前提で暮らそう。

そしたらがんばれる。きっと。

さぁ、そうと決まればサリーとルカが来るまでにナリス語習得して、拠点作りでもしなきゃ!

事業展開考えなきゃ!

マリウス兄様に慰めてもらって、サリーとルカと商売頑張る!と目標ができたことで、ホームシックで落ち込んでいた気持ちも幾分回復した。

よし!頑張ろう!

翌日はバイロンさんおすすめチーズ屋巡りをした。

モッツァレラとかクリームチーズとか…確かに今世で見ないチーズがあってたくさん買い込んでしまった。

これでカプレーゼ作れる!チーズケーキ作れる!

そうかハードチーズしかないと思っていたら、生だからだったんだ。

移動手段が馬車だから輸送中に腐るようなモノは他の都市では売れないものね。

ちなみにバイロンさんがいつも帝都に持って帰りたいと言っていたのはモッツァレラチーズだったようで、いつものお礼に私のポシェットに入れてあげることにした。

大層喜んで10個買い込んでた。

ヨーグルトも美味しかったので、たくさん買う。

帝都では手に入らないのだろうか?

そう思ってバイロンさんに聞くと、手に入るがかなり高額とのことだった。

よし、いっぱい買っておこう。

雑貨屋で白サルヴィアの葉を買い足す。

入国の時の魔物の大群でせっかく買った白サルヴィアの葉を使い切っていたのだ。

変な声は聞こえたけれど、いつもの結界より魔力消費は少なかった。

だからこそあれだけ長い時間、いつもより大きな結界を維持できたのだ。

やっぱり聖魔法は付与魔法だったんだなぁ。

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