第74話
目が覚めると白い天井が見えた。
周りを見回しても誰もいない。
ここ、どこだろう?
コンコンとノックがあって、誰かが入ってくる。
「#/@*☆%?」
ちょっとくたびれた白衣を着ている初老の男性は医者だろうか?
何を言ってるか全くわからない。
言ってることが伝わらなかったとわかったのだろう。
手を口に持っていき、食べるジェスチャーをしてきた。
食べられるか聞いてるのかな?
とてもお腹が空いている私はコクリと頷いた。
男性はそのまま出ていき、パン粥にスープ、焼きリンゴを持ってすぐ戻ってきた。
美味しそうな匂いに、私のお腹はどんどん空腹を感じてくる。
私の目の前に置き、どうぞと示してくる。
だから私もニッコリ笑って「ありがとう」という。
伝わったかな?
温かく、お腹にも優しいご飯はするする胃に入っていく。
最後に焼き林檎を堪能していると、ドアが開かれた。
アイリーンとイヴだった。
「テルー!起きたの?
具合はどう?
ほんと…前から思ったのだけど、テルーは躊躇いなく魔力使いすぎ!
普通ね!倒れる程魔力を使う前に、怖くてキツくて、魔法止めちゃうのよ!
自己防衛本能よ。
なのにテルーは…もう何回限界超えるまで使ってるのよ!
私と旅にでたたった数ヶ月でも何回かみてるんだから。
もうちょっと自分を大切にしなさい。」
「イヴ、まだ起きたばかりですから。
その辺で。
でもテルー、心配したんですよ。
もう加減はいいのですか?」
「心配かけてごめんなさい。
でももう大丈夫!
すっごくお腹ぺこぺこで、今もらった食事もペロッと食べちゃったくらいなんだから。
で、ちなみにここはどこかな?」
「そうよかった。
ここは帝国側の国境の街ラキアカにある病院よ。
その様子だと大丈夫そうだけど、先生もあと1日はゆっくりした方がいいっておっしゃってたから、最低1日は入院ね。
もう3日も寝てたのよ。」
3日!?
誘拐事件の時も魔力切れ起こしてそれくらいかかったもんね…
どおりでお腹が空いてるわけだ。
その後警備隊の人と関所の人が来て、今回のことの聞き取り調査をされた。
みんなその場にいたから知ってるんじゃないかと思ったんだけど、一応全員に聞いて、齟齬がないか確認するんだそうだ。
ちなみに関所の人は通訳として来たらしい。
物売りが騒ぎ、逃げて、魔物の群れが来たと気づいたこと。
そのあとはひたすら後方でサポートしていたことを話して、終わりだ。
警備隊の人は帰って、関所の人だけが残る。
なんだろう?
「あの…改めてあの時助けてくれてありがとうございました。
貴女の結界のおかげで今私は生きています。
月並みな言葉しか出ないが、本当にありがとう。
それで…一つ質問なんだが…」
「いえ、見てらっしゃった通り私は戦いには足手纏いですから、後方で安全な場所を確保するくらいしかできないんです。
今回はすぐに警備隊が来てよかったですよね。
流石にあの量を4人で倒し切るのは難しかったと思いますし。」
「…そうだな。
あー、その…うん。
直球で聞くが、君は聖女なのかい?」
「いえ、違います。」
「…そうか。
ちなみに知っているかもしれないが、聖女とはトリフォニア王国で類い稀なる癒しの力を持つ人を指し、正式に教会で認定された人のことを言う。
しかし、それ以外でも聖女になれそうな魔力量を持った聖魔法使いは聖女
貴女はスキル判定で聖女候補とも言われたことがないかい?」
そうなんだ。
スキル判定で聖女を見つけてたんだ。
知らなかった。
「いえ、聖女とも候補とも言われたことはありません。
私はただの平民ですよ。
ほら
そう言って小さな土人形を作った。
なっ!関所の人が目を見開いた。
「☆○¥#@…」
「え?今なんて?」
「あ、すみません。
では入国も問題ありません。
ここからは私の独り言なのですが、もし聖女様、聖女候補様であったら王国側がどんな手を使っても返還を求めたでしょう。
帝国は聖女信仰がさほどありませんが、王国の信仰は強いですからね。
今回のことは国境沿いでのこと。
あちらも結界を見た可能性はあります。
我々から貴女を差し出すことはしませんが、重々お気をつけて。」
なんか喋り方丁寧になってない?
聖女じゃないって信じてもらえなかったかな?
まぁ入国できたから大丈夫…か?
関所の方が帰り、夕方になった。
早めの夕飯は、パン粥とオムレツ、そしてりんごだった。
美味しい。
美味しいけれど1人で食べる食事はちょっぴり味気ない。
残念に思いながら食べていると、ドアが少しだけ開いた。
ん?誰?誰もいない?
え…病院でそれは…ちょっとホラー。
足にちょっと重みを感じて目線を下げる。
「にゃー」
そこには真っ黒な猫がいた。
……!
「お前は、私が倒れる前に地面で蹲ってた子ね。
大丈夫?巻き込まれたの?
災難だったわねぇ。」
「ふふふ。撫でてもいいかしら?
よしよし。可愛い。
今夜は1人だと思ってたからちょっと寂しかったの。
きてくれて嬉しいわ。
あら?ここちょっと怪我してる?
ちょっと待ってね。猫に効くかはわからないんだけど…
多分人より小さいから少なめに塗ったほうがよさそうね。
これは私が作ったお薬なのよ。
きっと良くなるからね。」
薬を塗って、回復をかける。
「きっと明日にはいなくなっちゃうんだろうけど、今だけの間名前つけてもいいかな?
呼びにくいの。
んーなにがいいかな?
黒猫さんだしやっぱりジジ?
え?いや?じゃあうーんルナ?
ダメか。
あ、ネロはどう?
じゃあネロだね!」
「ねぇ、ネロ。
私聞こえたの。
魔物が結界に当たるたびに悲鳴みたいな声が。
苦しいって、助けてって、許さない、憎いって…
お母さんを呼ぶ声も聞こえたわ。
ねぇ、ネロ。
あの声誰も聞いてないみたいなの。
私の記憶が間違いなのかな?
あの声はどこからきたのかな?
なんか気になるの。
私には何もできないけれど…忘れられないのよ。
ねえネロどうすれば…い…い…かしら?ふぁぁ」
あ、急に眠くなってきた。
その夜私はネロを抱きしめたまま眠りについた。
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