第69話

「アイリーン!大丈夫?今助けるから!」

回復をかけるが、ほとんど効果がない。

魔力が足りないっ!!!

それになぜこんなに手足が真っ黒になるの?

物理的な損傷ではなく…毒?

でも、毒なら結界に入った時点で抜けるはず。

それでも治らないなんて!

「嬢ちゃんたち。とりあえず俺の村に来ないか?

戦闘前に狼煙をあげたから、村の奴らが今頃こっちに馬で向かってるはずだ。

それに合流できれば30分で村に着く。

この時期のウォービーズに効くはわからんが、ウォービーズの毒に効果がある薬草も村に戻ればある。」

回復が効かない今それしか頼るものはなかった。

一も二もなくその申し出に乗ると、ちょうど村の人らしき団体が来た。

「おい!詳しくは後だが、この人たちがウォービーズを倒してくれた。

その際、1人毒にやられている。

すぐ村に戻り、アマルゴンの葉の準備を!

お前とお前はこのロバ連れてきてくれ!」

そういうと、1人は薬草の準備のためか村へ急ぎ戻り、一番後ろにいた若い男の子2人はロバの横へ。

隊を率いてきたと思われる青年はアイリーンを抱え、一緒に戦った男性はロバ係の青年の馬を1頭イヴに、もう一頭に私をひょいと乗せると自分もまたがる。

「じゃあ行くぞ!」

馬は慣れた道なのか臆することなく山の中を走る。

山の中なので全速力ではないが、ロバよりも圧倒的に速い。

「あの…さっきこの時期のウォービーズの毒に効くかわからないと言っていましたが…毒も時期によって変わるのですか?」

「正直厳しい話になるが…

この時期でなければウォービーズの毒はそれほど恐れることはない。

刺された部位が赤黒くなり、ちょっと頭がボーっとして思考が緩慢になる。

まぁ、それだけ聞けば恐ろしいように思えるがな。

さっき言ってた薬草アマルゴンの葉を煎じて飲むと2、3日で元通りだ。

だからそれほど恐れることはない。

…だが、この時期は違う。

この時期は攻撃量が増すからなのか毒も強く、刺されたら5分〜10分で死に至る。

だから今彼女が何故生きているのが不思議なくらいだ。

即死に近い毒の為、今まで薬草を使ったことがなかった。

刺される時は戦闘中で、それどころではないからな。

まぁ…そういうわけで、薬草が効くかどうかはわからねぇんだ。」

回復も、薬草も効くかわからない…どうしよう。

戦闘後ということもあるけど、魔力が足りない…

もっと効率的に、少ない魔力で回復できないものか…

ん?

何かひっかかる…何か間違ってる気がする。

そもそも回復の使い方が違う?

魔力だけで回復させること自体が間違い?

回復は命の呪文を使う。

その効果は瞬く間に大きな傷が跡形もなく治る、欠損した腕が生えてくる…というものではなく、多分身体のいたるところの細胞や器官を活性化させ、自然治癒力を大幅に引き上げて怪我や病気を治すのだ。

だから小さな怪我や軽い風邪程度なら確かに瞬く間に治ってしまうが、大きな傷や大病は何度もかけたり、多量の魔力を使い、それでも治るまでに何日もかかるのだ。

だから誘拐された時、小さな怪我しかなかった私や子供達はさほど時間がかからず怪我が治っているが、怪我の程度が酷かったネイトとルークは翌朝には動けるようになったものの、出発する時になってもまだ傷跡は残っていた。

うーん…何に引っかかってるのだろう。

何か分かりそうで…わからない。

「嬢ちゃんもすごいな。

火を振り回した時もびっくりしたが、岩の周りに張ってたのは…結界か?

本人がいなくても発動するとはいい魔導具だな。

ん?でも…それにしては魔導具らしいものがなかったが…」

あぁ。魔導具と思われても仕方ないか。

結界なんてイヴみたいに聖女って思われちゃうし…このまま魔導具ってことにしとこうかな。

本当は岩に付与しただけなんだけど…

「あ!」

そうか。付与魔法なんだ。

まぁ私の仮説でしかないけど、聖魔法は付与魔法。

だから魔力を込めればいいわけじゃなかったんだ!

付与魔法の本にも書いてあったじゃない。

「付与魔法は、大前提として適切な素材を適切に処理する必要がある。 ため、この本では扱わない。」

魔力だけ注いでも効果が低いのだ。

じゃあ適切な素材ってなんだ?

多分そのアマルゴンの葉よね?というか、今の私にはそれしか思いつかない。

それを煎じて飲むというのだから、そのアマルゴンの葉に命の呪文を付与したらどうだろう?

アイリーンはほっておけば、死んでしまう。

やってみるしかない。

もっと聖魔法勉強していれば良かった…

そうこうしているうちに村についた。

ただそこは思っていた村ではなかった。

私はこんな山の中にある村なのだから、勝手に木の柵で居住区を囲っただけのような…そんな小さな村を想定していたのだ。

だが、ここはなんだろう?

村というには、いささか物騒すぎないか?

目の前の村はぐるっと石垣で囲まれ、四方には見張りの塔が建てられている。

村…というよりも…砦?

いろいろ気になることはあるけれど、今はただアイリーンを助けることだけ考えよう。

村の周りを囲っていた石垣は、ただの石垣ではなく、それ自体が部屋や浴室、簡単な調理場などを有した一種の居住空間になっていた。

その中の2部屋を私たちに貸してくれた。

アイリーンをベッドに寝かすと、バタバタと外から足音がした。

振り返ると勢いよくドアが開いた。

「はぁっはぁっ!アマルゴンの葉持ってきたよ」

「ありがとうございます。

これは普段は飲むものなのですよね?

お茶のようにお湯でしょうか?」

「いえ普段はこの葉をすり鉢で擦って、水の中に入れて一気に飲み干しますが…私もこの時期の患者はみたことがなく…」

「はい。承知しています。

それでもこれしかありませんので…

葉を分けて下さりありがとうございます。

なんとかしてみます。」

「いえ…お役に立てず…すみません。

ウォービーズを倒してくださったと聞きました。

本当にありがとうございます。

何か必要なものがあったら何なりと申しつけ下さい。」

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