第67話

「ちょっと待って。これはみんな採っていくといいよ。」

「これは…なんだっけ?

本で見た気がするのに、思い出せないな」

「ヤローナ草では?」

「そうよ!ヤローナ草。

テルーは主に食べられる植物ばかり覚えてたものね〜!

これはポーションに使う草なの。

あ、傷に使うポーションの方ね!

ギルドでもよく採取の依頼が出てるし、なくてもギルドが買い取ってくれるから、冒険者には馴染みの草なのよ。

もう少ししたら一度街に出るし、せっかく見つけたから採取していきましょ〜

ほらアイリーンも服や防具買わなきゃだし…あ!アイリーン…あなた冒険者登録なんて…してないわよね?」

「大丈夫です。

登録なら学校でしましたし、カードもドレスの隠しポケットに入ってます。

なんだか嫌な予感がして、身分証明になるカードとメンティア侯爵家の家紋入りの指輪はずっと持ち歩いてたんです。」

「よかった。流石だわ!

出国できないかとハラハラしちゃった。

それなら実績作りも兼ねて、この大量のヤローナ草採取していきましょう!

これは根っこも使うから、根ごと引き抜くの!」

イヴのお手本を見て、ヤローナ草を抜いてみる…抜いてみる…抜いて…抜けない!

数分格闘したのだけど、抜けなくて、挙句すっ転んだ。

その様子を見ていたイヴとアイリーンにより、私は見学が決まってしまった。

体力もないから、どうせ抜けないのだし、体力温存しておこうというわけだ。

うーん。ロバももはや私専用だし、戦わないし、体力使う面では役に立たなさすぎでは?

あ、いいこと考えた!

「イヴ!アイリーン!ちょっと下がってー!

いいこと考えた!『ティエラ』」

私の近くに生えてるヤローナ草の下の土がモコモコと動き出す。

「えいっ!

コレどうかな?」

尻餅をついたけど、私にも抜けた!

地魔法で土を動かし、柔らかくしたのだ。

「根も傷ついてないし、楽に抜けていいわね!」

お墨付きをもらえたので、ヤローナ草がある辺り一面の土をほぐしていく。

私が抜くのは危ないからということで、結局私はスポスポ抜く2人を見るだけだった。

その夜、見張りの間に勉強するのはポーションの作り方だ。

確か付与魔法を最初に勉強した時、ポーションは付与魔法だと書いてあったのだ。

えっと確かこの本だ…

「付与魔法とは、対象物に魔法効果を持たせることである。

その方法、性質は大まかに2つ種類がある。

1つは適切な素材にウンタラカンタラ…(長いので中略)

また、ポーションも適切な素材と魔力を調和させた飲み物であるため、製作者の力量次第で品質が変わる。

なおポーションに消費期限があるのは、素材そのものに魔力が付与されているため、素材が劣化するほどに魔法効果も共に消失してしまうからである。」

やっぱり!付与魔法だった!

ポーション私作れるかも!

ってことは…結界も、怪我や病を治す魔法陣もどれも4大魔法全てを扱って発現する魔法だった。

今調べているがポーションもきっとそうだろう。

聖魔法とは1つの魔法の種類ではなく、4大魔法を組み合わせた技術だったということかな?

つまり頑張って4大魔法を使いこなせるようになったら、聖女じゃなくても、聖魔法使いでなくても、結界作れるし、ポーション作れるし、治療もできる?

逆に聖魔法使いの人は、ある程度4大魔法を使いこなせる優秀?バランスの良い?使い手ということ。

そりゃ聖魔法使いだけ少ないはずだわ。

これは父様に話してみよ。

初めてメッセージを送るようになってから、時折父様が魔法の質問をしてくるようになった。

今マリウス兄様と魔法陣による魔法の訓練をしているようだ。

父様もマリウス兄様も魔法のセンスがいいから、魔力コントロールまでできるようになったとか。

次は実際に魔法陣を起動してみる段階だ。

父様は結界に興味を持っていたけれど、できるようになるのはきっと4大魔法の魔法陣を使いこなせるようになってからね。

ふと大きめの魔力を感じた。

来る!

姿を現したのは、茶色の大きな熊だった。

熊はまさにこちらに襲い掛かろうと走り込む。

どこからか大小多くの石が現れ、私に向かって飛んでくる。

熊はあの手この手で攻撃してきた。

もちろん結界があるから、その攻撃が届くことはなかったんだけど…

「ひっ!」

怖かった。

害されない、攻撃が届くことはないと分かっていても、死に物狂いで襲われるのは怖かった。

それに、怖い、退治しなくては…と頭ではわかっているのに、行動できない私も心底嫌になった。

音に気づいて、アイリーンがテントから出てくる。

熊を一目確認すると、アイリーンはなんのためらいもなく結界から出て熊に相対する。

風刃ウィンドカッター

一瞬のうちに熊は半分に分かれて、消えてしまった。

アイリーン…強い。

「大丈夫?」

「ありがとう…」

「テルーなら…ううん。なんでもない。

怖かったでしょ?魔獣は苦手?」

「苦手というなら…虫の方が苦手なんだけど、今まで獣類を殺したことなんてなかったから…

どうしても尻込みしちゃって…」

「そうか。

テルーはずっと冒険者をするわけではないんでしょう?

苦手なら戦わなくてもいいわ。

私もイヴもいるんだから。

けれどこれだけは忘れないで。

たとえ貴方が魔獣を殺したとしても、それは守るためだって。

自分の身を守るというのはもちろんだけど、魔物と私たち人間はどうしても相容れないわ。

ロバや馬のように人間社会で生きていけないの。

彼らは私たちを見ると必ず襲うから。

ここでテルーが生かしても必ず次会った人間を襲うわ。

次会う人は強い冒険者かもしれないけれど、道に迷った子供かもしれないわ。

貴方が魔獣を倒せばその子は魔獣と出会わない。

貴方はその子どもを守ったことになるのよ。

もちろん自分の身を守るのが一番大事だけどね!」

その夜は交代の時間までポーションの作り方を学んでいたけれど、なかなか頭に入らなかった。

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