第66話
「イヴ!ちょっとストップ!
あれきっとクランベリー!!!ナランハ以来の甘味です!
いっぱいとってジャム作りましょう!」
「それは大事ね!収穫しましょう。
カゴ渡して!」
「はい!お願いします!
では、『
馬上…いやロバ上から風魔法を使って、イヴの持つカゴにクランベリーを入れていく。
うんうん。
お菓子が気軽に食べられない今、ジャムの種類が増えるのは心の潤いが増えること!
大事大事…
「あ!イヴ!なんとレモンです!
今日はクランベリーに加えてレモンまで収穫できるなんて!」
「今日のパーティが一層楽しみね〜♪」
「ふっふふふ…ふはっ!」
振り返るとアイリーンが笑っていた。
「ごめんなさい。
なんかおかしくって!
私は婚約破棄されて、追放されて、挙げ句の果てに殺されそうになって…あのパーティ会場からずっと悲劇のどん底のような気持ちだったの。
昨日もうダメだって時にテルーが助けてくれたけど、それでもここは山の中でしょう?
だからちょっと不安で。
でもあなたの話を聞いた時、こんな小さくて可愛らしい女の子が誘拐なんて、さぞ怖かっただろうって…
それなのに前を向いて頑張ってる。
見習わなくちゃ、こんな小さな子でも唇噛み締めて頑張ってるんだからって………そう思ってたんだけど…本当に楽しそうなんだもの!
こんな楽しい逃亡ないわ!
私の追放も楽しくなりそう!
ふふふふ。ふはは。」
「わかるわ〜
私も最初は泣いたり、ふさぎ込んだりすると思ってたのよ!
しっかり慰めてあげなきゃってそう思ってたの〜
そしたらね、出発2日目には簡易的な台所作って、とっても美味しい料理作ってたの!
でね3日目には〜」
「わー!!!イヴ!ストップストップー!
なんか恥ずかしいです…」
「恥ずかしいことなんてないのに。ふふふ。
でもこんなに楽しいのはきっとテルーのおかげよ。
ちゃんと文化的でおいしいご飯に、夜は結界があるから、見張りもすごく楽だし。
ちゃんと食べて、ちゃんと寝れる。
それだけで人は精神が安定するのよ!
アイリーンも楽しみにしてて!
テルーの料理は、山の中とは思えないほど美味しいんだから!」
「イヴ…それは、イヴが毎回干し肉だけだったからでしょ。
ハードル上げないで!」
「楽しみにしてますわ!」
そんなこんなで昼になり、適当な場所を探して昼休憩だ。
今日私は一歩も歩いていない為元気だ。
まだ本調子じゃないことと、私が歩くと遅いので、全行程ロバに乗って進んでいる。
(あまりにお世話になっているので、最近このロバはイーヨーと名付けて可愛がっている。)
こうして無理に距離を稼いでいるのは、一応昨日アイリーンを殺そうとした騎士が戻ってくるかもしれないと警戒してのことだった。
だからお昼はゆっくりしてられない。
(その割にクランベリーとレモンの収穫はしちゃったけれども)
ポシェットからお馴染みのベンチ2つだし、ストックのお肉を薄く切り、タイムと塩を一緒に揉み込む。
パプリカも薄く切る。
小麦粉と水、お塩を混ぜて薄く焼いて、なんちゃってトルティーヤ生地を作ったら(なんちゃってピザ生地でもある)、お肉とパプリカを焼いて、溶いた卵を少し流し込み、チーズもパラパラ。
そして、卵が固まる前になんちゃって生地を押し付けて…完成だ!
同じものを3つ作り、くるくる丸めてみんなに手渡す。
これは外でもすごく食べやすいからよく使っているメニューだ。
「おいしい…」
よかった。
手早く食べたらまた出発。
午後は何も収穫するものを見つけられず、黙々と歩いた。
私は終始ロバの上だったが、アイリーンとイヴは1日ずっと歩き通しだった。
イヴは冒険者だから慣れてるのか?と思っていたのだけど、侯爵令嬢だったアイリーンまでちゃんと歩けているのを見ると…私も体力つけなきゃと思ってしまう。
それに2人は高山病にならないのだろうか?
野営の場所も決まり、イヴは狩り、アイリーンはテントの設営、私は夕飯の準備をしている。
今日はアイリーンの歓迎パーティだ!
いつもより豪華に作ろうっと!
まず、小鍋に洗ったクランベリーと砂糖をたっぷり入れてコトコトコト。
早速ジャムを作る。
せっかく収穫できたからパーティに使いたい。
そのまま同時進行で玉ねぎ、人参、セロリ、じゃがいも、キャベツを小さく刻んで、大鍋でコトコトコト。
高山病で数日ダウンしていたから、すっかりスープの素のストックがなくなってしまったのだ。
コトコトしている間にイヴが狩りから戻ってくる。
お肉は軽くタイムと塩を振ってシンプルに焼く。
ジャムとスープの素は今日使わない分を煮沸した瓶に入れて、ポシェットへ。
今日使う分のジャムには赤ワインと塩も足してソースに。
美味しいかしら?と一口舐めれば、んー!美味しい!
スープの素には角切りにしたトマトも加えて、塩で味を整えて出来上がり。
パンに野菜たっぷりトマトのスープ、お肉にはクランベリーソースをかける。
うん!美味しそう!
「改めてアイリーンこれからよろしくね!」
「こちらこそよろしくお願いします。
本当に会えたのがあなたたちでよかった。」
それから私たちはたわいもないことをいろいろ話した。
女が3人集まれば、やはり話は恋…とはならなかった。
まぁ8歳、15歳、100歳オーバー?の女子会だものね。
けれども何歳であろうと女子は女子!
アイリーンのドレスで大いに盛り上がった。
「アイリーン。あなたドレス売るって言ってたけど、アレ売るのもったいないんじゃなーい?
あれ?あなたあのドレス誰にもらったの?」
「そうですよ!
それに生地はもしかしてトンプスシルクですか?
ドレスで使うとあんなにも素敵なんですね。
初めてみたので感激です。
メンティアブルーも想像以上に綺麗な蒼でした…
何よりアイリーンに似合いすぎて…本当お姫様みたいで素敵だった〜
学校の卒業パーティーにはこんな素敵なドレスで参加するんですねぇ。
ちょっと行ってみたくなっちゃった!」
「アレは…最近悪役令嬢とか呼ばれてパーティにも行きたくなかった私が頑張れるように私が作ったドレスなんです。
まぁ、結局追放されているのだから意味はなかったんですけど。
殿下があんないいドレスくれるわけありませんわ。
チャーミントン男爵令嬢には贈っていたみたいですけどね!
大事にとっていてもあんまりいい思い出でもありませんから、追放されなくても売るつもりでしたし、売ることに全然躊躇いはないです。
どなたかがこのドレスでいい思い出作ってくれる方が嬉しいもの。
それに、ドレスってどれだけ質のいい物を使っていても、流行り廃りがあるので、大事にしまっておけば二束三文になってしまうんですよ!
売るならすぐ!です。
でも2人に褒められたから、頑張って作ってよかったわ。
よくトンプスシルクなんてわかりましたわね。
まだあまり出回っていないはずなのに。」
「一応これでも1年はマナーの講師つけてもらってましたから。
頑張って材料の産地や織り方、染色、宝石、着飾り方などなど覚えたんですよ。
発揮するところはなかったですけど。」
「8歳にしてはすごく進んだマナー教育ですのね?」
「そうなのですか?」
「テルーはお店があるから、会話ができるようお洒落の話題をたくさん教えたって言ってたわよ!」
「なるほど。そうだ!忘れてた!
歓迎パーティだから今日は特別デザート付きです!
ナランハ紅茶も入れるのでちょっと待ってくださいね!」
サリーからもらったプリンを今日は特別に3つだす。
まだあと2箱くらいあるけど、補充できないのが悲しいわ。
帝都に着いたら私も作れるよう練習しよう。
そんなことを考えつつイヴとアイリーンに紅茶とプリンを渡すと。
「キャー!
これプリンでは?
私これだけが心残りだったの!
パーティに話題のプリンを用意したと噂で聞いて、一度食べてみたかったのです。
でも、食べる前に追放されてしまって…
ここで食べられるなんて幸せ〜!」
え?そんなに?
そんなに喜んでくれるなんて!
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