第65話
ザク、ザク、ザク…
あれ?今私…
「あ、テルー!目が覚めた?
もう少しでテントまで着くからね。
それからたっぷり話は聞かせてもらうわよ。」
「ごめん…なさい…
あ、重いよね!
もう歩けるからおろして。」
「ダーメ。高山病だから安静にって言ってたでしょう?
なのに急にいなくなるんだもの。
心配したわ。
こう見えて結構怒ってるのよ。」
「ごめんなさい…」
洞穴の結界に入った。
イヴは焚き火の前に私を下すとナランハ湯を作ってくれた。
ほっと一息つく。
少し魔力も回復してきたところで、助けた女の子に意識が向く。
結界の効果で汚れもすっかり取れた彼女のドレスは一目で高いとわかるくらい上等なドレスだった。
彼女自身も白い肌、なめらかな金髪に、透き通った青い瞳。
これは…「え?お姫様?」
びっくりした。
「先程は助けていただいてありがとうございました。
私は、アイリーンと申します。」
寸分の隙もない完璧なカーテシーにやはりお姫様かと納得する。
「ふふふー。テルー、アイリーンはお姫様じゃないよ。
結構近いけれどね。」
「え?イヴの知り合いですか?」
「知り合いというほどでもなかったけれど、王宮の夜会で何度かね〜」
王宮?夜会?
「お姫様でなくとも、王宮の夜会に出るようなお嬢様がなんでこんな山奥に?」
「どう話せば良いのか…
私は今でこそただのアイリーンですが、少し前まではアイリーン・メンティアと名乗っておりました。
これでも一応侯爵家の者ですの。
歳の頃も良かったのでしょう。
私が7歳の時、ハリスン殿下の婚約者となりました。
それから5年間、燃えるような恋はありませんでしたが、互いに大変な王妃教育や帝王学を励まし合いながら、頑張っていました。
殿下が変わってしまわれたのは、12の頃。
学園に通い始めてからですわ。
彼はずっと王宮で暮らしていたので、解放感を感じたのでしょう。
とてもイキイキ楽しそうでしたわ。
男女ともに、身分関わらず分け隔てなく接する様に私も含め多くの者が好感を抱いたものです。
13になり、学年が一つ上がると、1人の女子生徒が転入してきました。
その方はチャーミントン男爵令嬢で、学園では聖女候補ではないかと言われておりました。
可愛らしく、表情のコロコロ変わる彼女に惹かれた男性は多く、殿下もよくお話しされていました。
それが段々ご学友というにはいささか親しげになり、私も距離が近すぎるのでは?と苦言を呈したこともございましたが、殿下もチャーミントン男爵令嬢も身分が下だからそんな酷いことを言うのかと話が通じず…
ついに先日の卒業パーティーで、私がチャーミントン男爵令嬢を虐めたというありもしない罪で婚約破棄され、国外追放になったのですわ。」
「えっと…」
「嘘でしょー?そんな話ある?
虐めただけで国外追放だなんて、しかも人目のあるパーティで言うなんて。
しかもしかもいじめられたのが王族ってわけでもない、ただの男爵令嬢でしょ?国外追放なんて普通にないわよ。
それ本当だったらハリスン殿下だってタダじゃ済まないと思うんだけど、なんであなたはそのまま国外追放されて、殺されかかっているのかしら?」
そう!そんな話ある?
「現在陛下は隣国にご訪問されておりますから、今この国で身分が一番高いのがハリスン殿下なのです。
ここからは想像ですが、陛下がおられればこんな茶番にならなかったはずなので、陛下がいないうちにとパーティ会場からそのまま騎士に捕縛させ、馬車に押し込んだのかと。
人目につかないところまで来たら殺せばいいですものね。
まぁ、それでも陛下が帰ってくれば、罰せられると思いますが…」
うわ、怖い。権力怖い。
「んーまぁ。そんなことするなんて!
誘拐事件といい、最近のトリフォニア酷いわね…
で、あなたこれからどうするつもり?」
「故郷にもう未練はありませんし、むしろ王都に戻れば陛下に叱責された殿下に付き纏われるかもしれませんし、このまま国外追放されてやろうと思っていますわ。
お二人も国外に行かれるのですよね?
そこでとっても図々しいお願いなのですが、私も一緒について行っても良いでしょうか?
パーティからそのまま追放されてしまったので、このドレスを売れば少しはお金になると思うのですが、食料もすぐに使えるお金もないのです。
どこかドレスを売れるような街まででもいいですから、ご一緒させていただけないでしょうか。
こう見えて学校では成績優秀だったので、ある程度腕は立ちます。
お二人の足手纏いにはならないようにいたしますから。」
「んーどうする?テルー?」
「私は面倒見てもらってる側なので、わがまま言えませんが、イヴが良ければ一緒に行ければと思っています。」
「なら決まりね!
私も狩の間とか、見張りの時とかテルー1人にするの心配だったし、見張り要員が増えたから睡眠時間が増えるわー!
睡眠不足はお肌の大敵なんだから。ふふ。」
「そうですね。ふふ。改めて、私はテルーと申します。
私たちはクラティエ帝国の帝都に行く予定です。
よかったら帝都まで一緒に行きましょう!
これからよろしくお願いいたします。メンティア侯爵令嬢」
フードを脱ぎ挨拶をすると、目を見開いていた。
うん。わかってる。
出るところ出てない体つきだから(8歳だから仕方ないと思うの!)ローブ被ってる時は少年に見えるのよね…切ない…
「ええよろしくお願いします。
私のことはアイリーンって呼んで。
もう今はただのアイリーンですもの。」
「そうよ!テルーはすぐ敬語使っちゃうから。
それじゃアイリーンもテルーも平民の中で浮くわよ。
いいところのお嬢様です。攫ってくださいって言ってるようなもんなんだからね!
2人とも言葉遣いに気をつけるように!
あとアイリーンは私の服を貸すわ。
そんなにいいものじゃないけど、ドレスよりマシでしょ?」
「着替え助かります。
ありがとうございます。
テルー様…あ、テルーも貴族なのですか?
なぜこんな山の中に…」
「え?あぁまだ話していませんでした。
私はテルミス ドレイトと申します。
私…ライブラリアンなの。
だから…ね。」
アイリーンがハッと息を飲む。
「危険はありませんでしたか?
え?ライブラリアン?
しかし、先程見事な魔法を…」
「ご心配ありがとうございます。
誘拐されかけましたが、なんとか助かりました。
見事なんて、そんなことないですよ。
あれは魔法陣がベースなんです。
私はスキルでの魔法が使えませんから。」
「そうですか…それはお辛い経験を…
え?魔法陣?魔法陣なんて描かれてるそぶりなかったような気がしたのですが?」
「あぁ。4大魔法はずっと練習してきたからか急に頭に魔法陣が浮かぶようになって、陣がなくても発動できるようになったんですよ〜」
「なんてことないように言うけど、やっぱりすごいことよね〜」
「ええ。魔法陣については分かりませんが、私たちスキルで発動する魔法でも訓練を重ねることで詠唱をなくすことができます。
ただし、無詠唱の使い手は今は国に2名いるだけだと記憶しています。
テルーの魔法陣なしの魔法とは、スキルで発動する魔法で言うところの無詠唱と同等の技量なのではないでしょうか?」
そんなこと…ないと思うよ?
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