第64話
うぁ〜気持ち悪い。
頭もいたいし、全身がだるい…
もう一歩も歩けない私は今日一日ロバのお世話になっている。
食欲もないが、全く食べないのも体に悪いので、作り置きしているスープを温めて飲んでいる。
イヴはそれに加えて自分で肉を焼いて食べている。
こんなに体調が悪いなら、今日は一日動かずにいようと思ったのだが、空の様子が芳しくなく、雨が降りそうだ。
どうせ休むなら洞窟やせり出した岩の下で雨を避けながら休みたいと少し歩いているのだ。
昼を挟み、夕暮れが近づいた頃ようやく洞穴を見つけた。
中に入ると少し暖かい。
「テルー。見つけるのに時間かかってごめんね。
大丈夫?」
「大丈夫…じゃない。
気持ち悪い〜。回復かけちゃダメなの?」
「こればっかりはね…標高の高さに体が慣れてないだけだから、回復かけてもあんまり意味はない。
ちょっと気持ち悪さは軽減すると思うんだけど、不快症状なくなっちゃうと身体が慣れたかどうかわからないし…そんな中動き回ったら、最悪命落とすからね。」
「はぁい…」
「だから今日、明日はここでゆっくりしよう。
ここからは標高が上がる度にまた体に負担かけちゃうから、体を慣らしながらゆっくりね。
それに…そもそも身体が重くて動けないだろうし。」
「イヴはなんともないのに…足引っ張っちゃってごめんなさい。」
「そりゃテルーの方が身体も小さいし、数ヶ月前までほとんど運動もしてなかったんだから、早めにダウンするのは当たり前よ!
そんなこと気にしなくていいから、ゆっくりして。」
せめて結界は担当しようと結界の魔法陣を洞窟内に描く。
結界の中ただひたすらゴロゴロする。
調子が悪いときはただただぐったりして、調子がいい時は本を読んでいる。
そんな日を2日過ごした。
だいぶ慣れてきたのか、まだだるさはあるものの気持ち悪さや頭痛は薄れてきていた。
イヴはこの時間出かけている。
鍛錬がてら魔物退治に行っているのだ。
だから1人でお留守番。
最近は結界があるから、少し出かけて狩りや鍛錬をしに行くことも増えた。
今まであっという間に狩りを終わらせていたのは、もちろんその技量があるからだが、1番の理由は少しでも私を1人にしないためだったのだと気づく。
まぁ…実際モースリー相手にもギリギリだったわけだしね。
ちなみに魔獣はまだ倒せていない。
というのも前世も今世も獣は、倒すべき相手と思っていなかったからだ。
豚肉は豚を殺したものだとわかっているし、猪が出たら駆除するなんて話も聞いたことある。
けれどどれも知識として知っているだけなのだ。
実際に命のやり取りはしたことがない。
私の周りにいた獣に類するものは、ペットや動物園の動物であり、倒すべき対象じゃなかったのだ。
だからどうしても躊躇いが生まれてしまう。
実は魔獣と闘う機会は今日までに2度ほど機会はあったけれど、殺すまでできなかった。
拘束まではしたのに…イヴにはトドメを刺さないと危ないと怒られてしまった。
その点虫は…前世も今世も退治したことがあるから、倒すことに躊躇いはない。
とても怖いけれども。
そして今私の魔力感知に引っかかる反応が6つある。
これは…魔物か?…もしかして人?
こっちに向かっているみたいだけど…人ならばなんで?
こんなに高い山の上だよ!?
とりあえずちょっとだけ様子を見に行くことにする。
何があっても今の私ならクロスアーマーのおかげで防御ばバッチリだ。
はぁっはぁっ…
だいぶ気持ち悪さがなくなったとはいえ、ちょっと歩くだけでも息が切れる。
カラヴィン山脈はまだまだ高い場所もあるけど…私大丈夫かしら?
少し歩くと、ようやく見えてきた。
茂みに隠れてそっと伺う。
走ってきたのは、豪華なドレスを着た若い女性だった。
え?
なんでこんなところに?ドレス姿の女性が????
とにかく女性は走っている。
あれは走りにくそうだな…
どうしよう?
よくわからないけど関わらない方がいいのかしら?
ドカッ!
え…?
女性は背中に何かが当たったらしく、前に倒れた。
そうだ!魔力反応は6つあったんだった!
女性が走ってきた方向を見ると騎士が5人、剣を抜いて迫っていた。
あ!これ絶対関わっちゃダメなやつ!
騎士と敵対したら、私も罪人になっちゃう?!
でも……
誘拐された時のことが思い出される。
あの時ネイトたちが助けに来てくれなかったら…私もどうなっていたかわからない。
そう思うとダメだった…
ごめんね。イヴ…厄介ごと連れて行くかも。
フードを深く被り、茂みから出る。
まだ騎士たちは私に気づいていない。
「
誘拐犯の時と同じように、騎士たちを土の手で捕縛する。
「なっ!」
「誰だ!」
「こんなことして、いいと思っているのか!?」
正直騎士に歯向かうのは、よくない気がしている。
けれど…誘拐された時、自分より圧倒的に力の強い男の人に追いかけられるのって怖かったのよね。
だから…
「失礼。ただ訳は知らないが騎士ともあろうお方が、若い女性1人に5人がかりとは恥ずかしくないのか?」
子どもだと思われたら負けだ。
なるべく低い声で答えた。
「その女はな、国外追放の罪人だ。
殿下の婚約者でありながら、嫉妬から聖女候補の女性に嫌がらせをしていたのだ。」
は?
え?よくわからない。
嫌がらせって…国外追放になるほどの嫌がらせって何?
どんな嫌がらせしたら国外追放になるのよ!
それにしても…きつい。
動くのも辛いけど、魔法もいつもより辛いわ。
早く洞穴に帰りたい。
「そうか。では私が責任持って国外に追放しよう。
こんな山奥で殺害することが罰ではないだろう。
では。」
「は?ちょっと待て!」
1人が火を放つ。
ちゃんと拘束できてなかったのか。
「
水の壁で相殺し、もう一度拘束する。
そして拘束したまま、とにかくできる限り遠くへ運ぶ。
「うわぁぁぁぁ!!」
下山…とまでは行かなかったけれど、山の中にある集落の近くまで運んだから死ぬことはないはず。
はぁっ。きつい…
もうちょっとね。
女の子の方を向く。
ごめん。キツすぎて優しい言葉はかけられそうにないや。
とにかく洞穴まで連れていけば治療もできる。
洞穴まで行けば。
「ついて…」
「よかった無事?急にいなくなったら心配するでしょ!」
後ろから聞こえた安心する声にホッとして。
「イヴ…ごめん…な…」
そのまま意識を手放した。
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