第54話 【閑話】マリウス視点

冒険者登録からテルミスは外へ出られなくなった。

王都から帰ってきたアルフレッドの情報によると王都ではさらに11人行方不明者が出ていて、ドレイト領と王都の間にある領でもついに1人目の行方不明者が出たそうだ。

山一つ挟むとはいえ、隣の領に行方不明者が出たのは衝撃で、危険レベルがまた一つ上がった気がした。

その報告を重く見た父様が外出禁止を決めたのだ。

とはいえまだ7歳のテルミスにはスキル狩りのことを話していない。

だからあの手この手で屋敷に引き留めているのだ。

その引き留め作戦の一つに、アルフレッドと僕と3人で魔法の訓練をすることもあった。

魔法陣を用いる魔法の使い方も教えてもらったが、なかなか難しい。

こんなの独学で学んでいたのか。

有名冒険者のイヴリンが我が家に来たのは、偶然だったがナイスタイミングだった。

父様は事情を説明し、しばらく滞在してもらえるよう頼んだようだ。

エルフの彼女にとって1年などすぐのようで、二つ返事で了承してくれた。

あっという間に冬になり社交シーズンになった。

人の出入りが増え、不審者が紛れるといけないのでテルミスは自室待機だ。

イヴリンが護衛がてら日参している。

最終日のパーティは逆に、皆パーティホールにいるので部屋は人の目がなさすぎるし、パーティの方に護衛が割かれるので、部屋にいた方が危ない。

パーティ中は僕もアルフレッドもイヴリンもそれとなく警戒していたが何事もなく終わった。

それでちょっと気が緩んでいたのかもしれない。

父様と母様が王都へ向けて出発し、イヴリンが何やら緊急事態で呼び出された。

護衛はいつもより少ないが、屋敷内なら自由に動き回って良いことにした。

領内の冬の社交も終わり、テルミスを自室待機にする理由がなくなったし、ずっと引きこもっていたから庭くらい行かしてあげたかった。

それが間違いだった。

庭へ行ってしばらくして、テルミスが行方不明だと聞いた。

護衛も共に行ったはずだが…なぜだ。

なぜ行方不明に?

ついて行った護衛は誰だ?

くそっ!

「とにかくイヴリンとアルフレッド、父様たちにも早馬で連絡を!

あと念のため孤児院にも。

万が一自分でどこかに行ったとしたら孤児院だろうから。

各門の門番にも出て行く馬車のチェックを強化するよう言ってくれ!

その他のものは街に出て捜索だ!」

イヴリンとアルフレッドは屋敷に飛んで帰ってきた。

イヴリンの緊急招集は他の冒険者でも対応可能な案件だった為蹴ってきたらしい。

「あれくらいの魔物で呼び出すなんて…テルミスちゃんを攫った犯人のせいかしら?」とドス黒い空気を出しながら言っていたが、魔物の情報を知らせたのは、街の平民だった。

その男も徹底的に洗ったが何も出てこなかった。

孤児院にもテルミスはおらず、攫われた可能性がグッと高くなる。

一つ不可解なのは時を同じくして孤児院の職員レアもいなくなっていることだ。

テルミスが消えてから、孤児院に行ってみると孤児院の子達はレアの捜索でおらず、ひっそりしていたものだ。

なにか関係があるのだろうか…

何も手掛かりがない中時間だけが過ぎていく。

夕闇が街を覆い辺りが暗くなった。

冬は暗くなるのも早い。

まだ5時なのに、外は真っ暗だ。

テルミス…どこにいる…

その時、窓の外で男の子が走り込んでくるのが見えた。

もちろん護衛に止められている。

「おい!待て!坊主!」

「構わん!通せ!」

窓から声を張り上げる。

あの子は孤児院で見たことがある。

「はぁっはぁっ。マリウス様。

テルミス様は?ここにいる?」

「どういうことだ?」

子どもたちはレアを捜索しに行っていたから、テルミスの行方不明を知らないはずだ。

「実は今朝からレア姉ちゃんがいなくて、俺ら街の中を探してたんだ。

ずっと探してだけど、見つからなくて街の端まで行ってたら、ネイトがテルミス様の声が聞こえるって。

助けてって聞こえるって言うんだ。

ネイトは身体強化だから集中したら遠くの声まで拾えるから、レア姉ちゃんの声が聞こえないかと耳を覚ませてたんだけど…

聞こえてきたのがテルミス様の声で。

しかも助けてって言ってるから…

もちろん人違いかもしれないんだけど、でももし本当だったらと思って確認しにきた。」

!!!

ネイト…あのきのこパーティでテルミスを守ってた子か。

「それでネイトは?

テルミスの行方を探しているんだ。」

「っ!じゃあ本当に…

俺は連絡役でこっちに来ただけで他の奴らはみんな声の方に行った。

東門出たところにある森の方に向かったけれど、正確な位置はわからない。」

「森だ!すぐ出発の準備を!

助かった。教えに来てくれてありがとう。」

森へはイヴリンとアルフレッド、それからゼポットが騎士を連れて行った。

僕も行きたかったが、強くなったとはいえまだまだな上、未成年で、さらに次期領主だ。

領主である父様は王都へ向かったため不在で…まぁそれゆえ名ばかり責任者として残らされたのである。

ここからでも何かできることはないかと森の方に向かって魔力感知を展開してみる。

もちろんまだ教わったばかりの魔力感知で屋敷から遠い森の気配などわかるはずないけれど…

そう思いながら、森を眺め続けていると不意に森からぶわっと魔力が溢れるを感じた。

ここからでも森からたくさんの鳥が飛び去るのが見える。

もしかして…テルミス?

こんな遠くからでもわかる魔力なんて…どれほどの魔力量だろう。

知らなかったな。

それからしばらくして、アルフレッドがテルミスを抱えて帰ってきた。

顔や服に土がつき、血がつき、裾は破れているところもあった。

テルミス!!!

その後運ばれてきた孤児院の子たちも重症だった。

聖魔法をかけ、手当てをし、温かなごはんを出す。

くそっ!

テルミスを守る!そう言いつつ、俺は何をした?

結局何もできなかった。

安全な屋敷で待つことしかできない。

それに引き換えこの子達は…

剣術の先生がいるわけではない、満足な装備を持っているわけではないというのに。

夜、父様と母様が帰ってきた。

早馬で知らせを聞き戻ってきたのだ。

なんとかテルミスを助けられたことを知って、心底喜んでいた。

僕は留守を預かっていた者として、事件の報告する。

「よくやった。マリウス。

お前のおかげだ。」

そう父様に言われて、僕はどんな顔をしていたのだろうか。

「ねぇ。マリウス。

僕は屋敷にずっといたから役に立っていない…なんて思ってない?」

!!!

「今回マリウスは確かに孤児院の子達のように、テルミスを見つけたわけではないし、応援が来るまで戦ってテルミスを守っていたわけじゃない。

アルフレッドやイヴリンのように敵を制圧したのでもないわ。

けれど、あなたがいなかったら孤児院の子は少しも武術の心得なんてなかったからすぐにやられていたかもしれないわ。

あなたが孤児院で剣の指導するよう指示したのは知ってる。

孤児院長によると、毎日子どもたちは遊びながらも訓練した内容を復習していたそうよ。

マリウス様がくれたチャンスだって。

孤児院で何かを学ぶのはやっぱり難しいの。

だからテルミスが文字や計算を、あなたが剣術を学ぶ機会をくれたことをあの子達は心の底から感謝している。

あの子達だって手練れの男たちに敵うなんて思ってなかったはず。

そんな無謀と思える状況でもテルミスを守り続けたのは、テルミスが仲間なのもあるでしょうけれど、あなたに連絡すれば応援を出してくれるって信じていたからじゃないかしら?

あの子達がテルミスを守ってくれたのも、誰一人死んでいなかったのも、あなたが行動したからよ。

あなたはあなたのやるべきことをしたわ。

胸を張っていいの。」

「あぁ。マティスの言う通りだ。

それに先程ゼポットが報告に来たが、誘拐犯は夕方の門番の交代時間まで街から出られなかったようだよ。

交代のバタバタに紛れて通ったらしい。

お前が発覚してすぐ門の検問を強化したからだ。

それがなかったら今頃テルミスは山を越えていたかもしれない。

そうすれば助かる見込みはなかっただろうから、お前の指示が的確だったから守れたんだ。

剣を振って守るだけが守る方法じゃない。

お前はよくやった。」

役に立っていたのか…よかった。

娘が誘拐されかけようとも、王への謁見はキャンセルできない。

それが領主としての務めだからだ。

父様は、捕縛した犯人の扱い、領の警備、テルミスの今後をあれこれと方々に指示して翌朝早く出て行った。

母様も一緒だ。

母様は屋敷にいる間中、テルミスや孤児院の子達に聖魔法をかけていた。

お陰で孤児院の子達は重症だったルークとネイト以外は夜の内に回復し、二人も翌朝には動けるようになっていた。

テルミスは大きな怪我はなかったため、傷跡は母様の魔法であっという間になくなった。

ただし極限まで魔力を使った為魔力切れを起こしているらしく、まだ起きない。

結局テルミスが目覚めたのは3日後だった。

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