第45話

あっという間に春が終わり、夏になり、秋になり、そして寒い冬が近づいてきた。

実はマリウス兄様、アルフレッド兄様と一緒に冒険者登録してから1度も屋敷から出ていない。

毎週通っていた孤児院すら行けてないのだ。

なぜかとても忙しかった。

春から夏にかけてはお母様とサリーやルカの4人で決めることが多くて孤児院に行けなかった。

夏の社交の時に初めてプリンを売るので、価格や販売数量、売り先などなど詰めることが多かったのだ。

ついでにお母様は王都の商人にラインキーパーを紹介してくるからと言うので、ルカは実物を10個ほど作り、私は私で、販売価格、使用方法、効果、効能などなどを1つの紙にまとめて、商人用企画書とお客様用のパンフレットを作ることになった。

各20部ずつ。

この世界に印刷なんてものはないし、字は綺麗に書かねばならないしで、かなり時間がかかってしまった。

プリンは1度でも食べれば広がるのは早いと思うけれど、ラインキーパーはちゃんと売り込まなきゃダメだと思うのよね。

そんなこんなで忙しく、土日の自由時間だけでなく、木曜日の孤児院の時間も返上で働くことになったの。

そのおかげで?、夏の社交は大盛況。

プリンはお母様のお友達のウルマニア公爵夫人が大量購入してくれた上、それを全ての夜会、茶会の手土産として配ってくれたので社交会で一気に広がり、用意していた6000個のプリン全て売り上げた。

ラインキーパーに関しても上々で、王都で昔から続く老舗の商店、今勢いのある新興商店など合わせて5店に営業をかけた結果、3店から色よい返事がかえってきた。

そうして夏の社交が落ち着いたから、孤児院に行こうと思っていたのだけど、アルフレッド兄様が少ない休みの間に戻ってきたので、お兄様たちと一緒に魔法の訓練をするため行けず。

お兄様たちと訓練するのは初めて。

今まで女の子だからか、歳が離れているからか、ライブラリアンだからかわからないけれど、一緒に訓練したことはなかったのよね。

お兄様たちは本当に強いから…確かに私が入っても足手纏いなのだけど。

それが一緒にしようと誘われて嬉しくないわけがない。

それに、教わるばかりじゃなくて、私が魔法陣を教えることもあったの。

ちょっと嬉しい。

それにしてもこれだけ強いのに、まだ強くなろうとする二人。

マリウス兄様はもちろん、アルフレッド兄様だってまだ10代の子供なのに、なんでこんなに努力できるんだろう?

偉すぎる。

それに比べて…私は…メリンダに見ててもらわないと怠けちゃうからな…。

二人のそのモチベーションはどこからくるのだろうか。

アルフレッド兄様はそれから2ヶ月に1度位帰ってきたので、その都度一緒に訓練をした。

みんなでやれば成長も早いのか、私はゆっくりだけど兄様が打ち出したファイアーボールを水で消すことができるようになった。

つまり、的を狙えるようになった。

これはなかなか練習しようがなかった上、私が運動音痴だから当てるのはとても難しかったのだ。

今でも早く放たれると全く対処できないが、一歩前進よね。

ちなみにマリウス兄様は魔力操作を一通りできるようになったところで、アルフレッド兄様は魔力感知も操作もあっという間に覚えてしまった。

さすがである。

次は実際に魔法陣を使ってみようと話をしているところだ。

話を戻そう。

屋敷を出られない理由だ。

サリーと新商品を考えるための時もあったし、最近マナーの先生から大量に課題を出されるのでそれをこなすための時もあった。

お陰様で、各領地の特産、地形、気候はバッチリよ!

ウルマニア公爵夫人とそのご子息がやってきたこともあった。

これでもまだ領主の娘ですから、マリウス兄様と一緒に庭を案内したり、公爵家の子供たちと遊んだり。

と言っても、マリウス兄様の一つ上の11歳と1つ下の9歳の男の子たちなので私は基本みんなで遊んでいるのをついていくだけだった。

しかし、流石公爵家の子供。

遊んでいる時も一番小さい私が疲れていないか、ちゃんとついてこれているかと気にしてくれて、私がおもてなししているのか、私が遊んでもらっているのかわからないほどだった。

そして今月やっと行ける!と思ったら、孤児院で流行病だからしばらく行ってはならないと言われてしまったのだ。

はぁ。タイミング悪かったな。

そんなこんなで、さつまいもを植えて以来孤児院に行けていない。

みんな…元気かな?

さつまいもももう収穫しちゃったみたいだし…

パーティしなかったのかなぁ。

呼ばれなかったなぁ。

最近行ってなかったから愛想尽かされたのかなぁ。

…さみしいな。

コンコン。

「お嬢様、お客様がお見えです。」

メリンダが呼びに来てくれた。

お客様…?そんな予定あったかしら?

応接室に行くと、お父様、お母様、マリウス兄様が勢揃いで一人の女性を囲んでいる。

とても親しげに話しているが…誰だろう?

「テルミス。来たか。

こちら有名な冒険者のイヴリンさんだ。

テルミスのひいじい様とは戦友でな、それで近くに来た際はいつも我が家に寄ってくれるんだ。

イヴリンさん。娘のテルミスだ。」

「お初にお目にかかります。テルミスと申します」となんてことないように挨拶したけれど、今変な言葉が聞こえたような…

ひいおじい様と戦友…この方は一体おいくつなのだろうか。

目の前に座るイヴリン様は、冒険者だからか身長は高く、細身ながらしっかりした体つきだ。

腰まで流れる輝くばかりの金髪は後ろで一つにまとめ、顔はたいそう美しい。

傾国の美女ってこういう人のこと言うのかしら?

年は…わからない。

アルフレッド兄様と同じと言われても納得だし、お母様と同じと言われても納得だ。

とてもひいおじい様のお友達とは思えないのだが…

そう疑問に思っていると、それが顔に出ていたのだろう。

「ふふふ。こんな見た目でひいおじい様と友達と言われても困っちゃうわよね。

私はエルフなの。

だから見た目よりずっとずっと長く生きてるのよ。

年齢は秘密だけど。

あなたのひいおじい様とは100年ほど前の戦争で一緒でね、実はあなたとも会ったことがあるわ。

ちょうど前回寄ったときにあなたが生まれたの。

初めて子供が誕生する場面を見て、感動しちゃった。

あ、そうそう。

これからしばらく泊めていただくことになったから、よろしくね♪」

「よ、よろしくお願いします。イヴリン様」

「そんな堅苦しくしないで、イヴリンでいいわよ、イヴリンで。親戚のお姉さんが来たくらいに思ってくれたらいいわ。」

「え、えっと…ではイヴリン…姉…様?」

「姉様!!!ほんとテルミスちゃん可愛いっ!

困ったことがあったらいつでもお姉さんに話してね!」

こうしてチャーミングなお姉様との暮らしが始まったのです。

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