第44話 【閑話】ウルマニア公爵夫人視点

私の名前はコーデリア・ウルマニア。

ウルマニア公爵夫人を務めています。

半島の先端にある領地を統治していますが、王都での社交も重要なため、基本的には引退した義両親が領地に籠り代理で領地経営をし、私たち領主夫妻は基本的に王都で暮らしています。

もちろん最終決定権は領主である夫です。

そのため夫は何もなければ夏と冬の社交シーズン以外は2ヶ月に1度領地へ赴き、あれやこれやと指示を出しています。

全く領地に戻らない貴族も多いので、領地が遠い割にはマメに帰っている方だと思うわ。

さて、今は夏の社交シーズン真っ盛り。

この時期公爵家では2、3日に1度はお茶会や夜会が開かれ、大変賑やかです。

今日は私の学生時代の友だちを中心に小規模なお茶会があります。

私だって「公爵夫人」としてじゃなく、一人の人間として会いたい人がいるのです。

まぁ、全く家の為にならない話をするのかといえば、そうではないのですけれど。

それでも、気心知れた友人との話は同じ社交でも楽しいものです。

そんなややプライベートに近いお茶会を毎年夏と冬に1度ずつ開いていましたが、その中でも今日は特別。

学生時代の友人マティスが来るからです。

彼女はドレイト男爵家に嫁いだ男爵夫人です。

身分的には天と地ほど違うのですが、ひょんなことから私と彼女は学生時代に友人となりました。

このプライベートなお茶会なら男爵夫人の彼女も参加しやすいかと招待状を送っていましたが、彼女は冬しか参加しません。

冬の社交以外は領地にこもっているのです。

それが今年は夏にも王都に来るという。

彼女が夏に来るのは初めてです。

何かあったのかしら。

チラリと心配しましたが、わからないことを悩んでも仕方ありません。

今は久しぶりにマティスに会えるのを楽しみに過ごしましょう。

お茶会の時間が近づきました。

マティスがやってきます。

初めて夏に来るマティスとしっかり話したかったのでお茶会1時間前に来てもらうことにしたのです。

久しぶりに見たマティスは学生時代と変わらず、美しいままでした。

あの流れるような藤色の髪に、キラキラと光るあのアメジストのような瞳に、何人の男子学生が見惚れたことでしょう。

私もあんな髪だったらと思ったことが何度あったことか。

久しぶりと一通り挨拶すれば、彼女から手土産を渡されます。

手土産は大抵王都で有名なパティスリーの新作ケーキか領地の特産品ですが、ドレイト男爵領はカラバッサやじゃがいもなどと言った農作物が特産なので、お茶会の手土産にはなりにくい。

マティスもそう考えているからかいつも王都で流行りのケーキと彼女自身が手がけた刺繍のハンカチを持ってきてくれます。

マティスの刺繍は本当にプロ並みで美しく、私も大好きでよく使っております。

今日は大きめの箱をマティスの刺繍入りの風呂敷で包んでいる模様。

やっぱりマティスの刺繍は素敵だわ。

白地の風呂敷の端に刺繍されたこの青い小鳥はきっとルリビタキね。

領地で時折見られると以前教えてくれた鳥です。

見ると幸せになれるんだそうです。

風呂敷を開けて中を見せてくれますが、何やら瓶がたくさん入っていること以外わかりません。

瓶は2種類あって、中には黄色い何かともっと濃い黄色の何かが入っています。

これは…なにかしら?

「ふふふ。

びっくりした?

私も初めて見た時びっくりしたもの。

初めて領地で作ったものをあなたにあげられるわ。

いつも王都に住むあなたに王都のケーキで、なんだか悪い気がしてたの。

今日持ってきたこれはね、プリンというのよ。

ケーキではないけれど、これもお菓子。

今までにない食感だから、食べたらきっと驚くと思うわ。」

お茶会前にマティスと食べれるよう侍女にお茶を入れ直してもらう。

!!!何…これ?

トロッとしているようなぷるんとしているような。

初めて食べるわ。

あっという間に一つ食べてしまいました。

あぁ、いくらでも食べれそう。

もう一つはカラバッサで作ったプリンなのだとか。

んー!!!濃厚!

どちらも美味しいけれど、私はこっちの方が好みだわ。

聞けば、今後売り出す予定なのだとか。

これなら今度の夜会の手土産にできるかも。

来週までに300ずつ用意できる?と問えば、「まぁ。そんなに買ってくれるの?」と目を丸くしていたわ。

急に300ずつなんて無理かしら?

来週に行う夜会が一番規模が大きかったから、できればそこの手土産としたかったのだけど…

夜会はまだ5回ある。

150人規模が2回と100人以下の小規模なものが3回。

いくつなら手配可能かしら?…と頭の中で組み立てている。

一番大規模の夜会には王族の方もいらっしゃるから、できればそこで配りたかったけれど…仕方ないわね。

と、頭の中であれこれ計算しているとマティスがにっこり頷いた。

「300ずつね。問題ないわ!」

それからよくよく聞けば、しばらく販売は夏と冬にマティスが来る時のみ。

空間魔法で持ってくるのだとか。

それならば…かなりの数用意できるはずね。

1500ずつ可能かしら?

我が家にも空間付きバッグはあるので、短い消費期限のものも保管できます。

流行を作り出す手腕も公爵夫人として必要な手腕だと私は思っております。

プリンは私が頑張らなくても、きっと流行る。

だからこそ一番初めに紹介しないと意味がない。

そうね。

今シーズン全ての夜会、茶会で配りましょう。

後日公爵邸は「どこで買えるのか?」という問い合わせが殺到し、とても慌しくなりました。

マティス…これは、大変よ。

かなりしっかり手綱を握れる人が必要だわ。

私が力になるのが一番いいかしら?

そしたらちょくちょくマティスとも会えるわね。

面白くなりそうだわ。

久しぶりにマティスと関われるのを喜びつつ、私は手紙をしたためるのでした。

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