第43話

現在私はギルド裏にある広い訓練所?のようなところにいる。

目の前にはガタイのいい男性が何やら大きな荷物を抱えている。

「それじゃいくぜ」と荷物の袋を開けると、私の身体と同じくらい大きな芋虫が出てきた。

ヒィィィィ!私は心の中で大絶叫。

怖すぎて声に出なかったのは、ゼポット様のレベル5の殺気を受けた時以来。

「さぁ、キャタピス相手にどこまで出来るか見せてみろよ」

どうしてこんなことに?


**********


そもそも冒険者ギルドに来たのはお母様の勧めだ。

今後事業を拡大して収益が出たら、自分の給料としてちゃんと一定額取っておくように。

そして、それを管理するのに冒険者ギルドカードを使うと良いとのことだった。

確かにオーナーだとお店に使うべきお金とプライベートのお金が一緒になって、結局お店ばかりお金をかけてたということになりそう。

給料割合はお母様に聞いてみよう。

そういうわけで冒険者登録に来たのだが、登録の説明を聞いていたら難癖つけられた。

「登録完了です。

それでは、詳しく説明していきますね。

あちらの掲示板には依頼が貼ってあります。

その中から依頼を選び、依頼の書いてある紙とギルドカードを持って受付にお越しください。

こちらで受付完了すれば、依頼が受けられます。

尚、依頼にはそれぞれランクがあります。

緊急時を除き、自身のランクの上下1ランクの依頼しか受けられません。

今登録したばかりですので、テルーさんはFランク。

今はE、Fランクの依頼しか受けられません。

依頼を完了させ、ギルドに報告し認められると報酬が入ります。

ちなみに失敗すると違約金が発生します。

ここまでは良いでしょうか?」

「はい。問題ないです。」

「報酬は基本的にはカードに振込なので、現金がご入用でしたら現金で欲しいと受付で申し出てください。

入金、引出は世界各国の冒険者ギルドで可能です。」

ふむふむと聞いていると、後ろが騒がしくなっていた。

「おい!坊主!早くしてくれないか!

こっちは依頼こなして疲れてんだよ!

明らかにひ弱なお前が、こんな時期に登録に来るとなると身分証欲しさだろーが!

王都の方が騒がしいから、怖くなったか?坊主?

だがな、腕のない冒険者なんてすぐ死ぬぞ。

お前が死んだってどうでもいいけどよ、どーせ死ぬなら無駄な手間かけさせんじゃねぇよ。

これからお前みたいなのが増えるのかと思うとイライラするぜ

!」

なんだか色々言われたけれど…坊主?

え?私の事?

そりゃさ、今日は動きやすいようにズボンだし、身体の8割ダークグリーンの暗いローブで覆われてるけどさ、顔もフードで隠れてるけどさ…

まだ7歳だからボン、キュッ、ボーンな身体じゃないけどさ…

男の子に間違われたのか。

ちょっとショック。

「ギルドでの争いはご法度ですよ!」

受付嬢が助け舟を出してくれた。

「でもよ、これからこいつみたいなのが増えたら、ちまちま登録待ちしなきゃなんねーし、低ランクの依頼なんて街中以外は採取で場所が大抵決まってる。

大量の新人が入ってくれば絶対トラブルの元だと思うぜ。」

「まぁ、そうですけど。

この子がその理由で志望したかはわかりませんし、犯罪者でない限り、ギルドでは拒めません。」

「なぁ、こいつが戦えれば文句ないんだろ?」

なんだかよくわからない理由でなんだか難癖付けられていたら奥からガタイのいい男性がそう言ってきた。

まぁ…王都がどうのこうのというのは全く身に覚えはないけれど、冒険する気も冒険する技量もないのは事実だからあながち謂れのない誹謗というわけではないのだけど。

どうやらこの冒険者ギルドの偉い人らしい男性はそう言って場を納め、私たち3人と難癖つけてきた冒険者グループを訓練所に連れて行き、「ちょっと待ってろ」というと15分ほどで戻ってきて大きな袋を担いで戻ってきた。

なんだか嫌な予感…ということで冒頭の事件に戻る。

そう。もう事件です。

こんなに大きい…芋虫なんて!

何故生きている魔物が?

え?今捕まえてきたの?

そんなことはもうどうでもいいけれど、この芋虫どうしよう。

こんな大きな虫…怖い。

来る前にお兄様に見せた高圧ホースのように水で穴を開けようか…

想像してみて、内臓…があるかどうかわからないが、それらがビシャっと飛び跳ねるところまで想像してしまい、気持ち悪くなった。

え?どうしよう?

その時キャタピスがこっちに向かってきた。

早っ!え!え!え!!!

こないで!こないでー!!!!

声にならない絶叫の中、なんとか「ティエラ」と唱えて、もうこっちにくるなーのイメージの如く、土で巨大な手ができた。

そのままキャタピスを平手で押し飛ばす。

さながら相撲の突っ張りだ。

キャタピスは訓練所の壁に激突して、息絶えた。

はぁっ…よかった。

助かった…

「やるじゃないか!一撃!

お前!これで文句ないな。」

「あぁ…悪かったな」

そう言って難癖つけてきた男性は帰って行った。

「あとギルドカードちょっと預かるぞ。

とりあえず1ランク上げとくから。」

「え?」

「キャタピス一応Eランクの魔物だし。

一撃で倒せるならDでもいいかなと思ったんだけどな。

戦い慣れしてる感じはしなかったから、あんまり急に上がると危険だし。

だからEでいいか?」

「え、えぇ。構いませんが…」

「あと、あいつのことも悪く思わないでくれよ。

先週お前さんくらい小さい坊主が登録してきてよ…

登録はしたんだが、Fランクの採取依頼で魔物と出会っちまって対処しきれず。

あいつのパーティがちょうど一方的にやられてるのを発見して、すぐに助けに入ったんだが、もう虫の息でな。

ギルドに駆け込んで治療したがダメだった。

そのことがあったもんで、お前さんが登録するの嫌だったんだろうよ。」

「そうでしたか…」

いい人…だったんだな。

こうして私はEランク冒険者になった。

その夜は超巨大なキャタピスに追いかけられる夢を見た。

怖すぎて叫びながら起きたので、部屋の近い兄様を起こしてしまった。

夜中に起こされても怒りもせず、「初めてだったのによくやった。怖かっただろう。」と眠るまで一緒にいてくれた兄様は、やっぱり優しすぎると思う。

まだ10歳。

兄様だって子供なのに、いつだって余裕があって、私の面倒を嫌がらず見てくれる兄様は…もしかして聖人ではないだろうか。

そんなことを考えつつ、うつらうつらと夢の世界に帰って行った。

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