第46話
イヴリン姉様はいろんな土地のことを話してくれた。
この世界にはテレビもインターネットもない。
王都にはあるのかもしれないが、田舎のドレイト領には演劇もない。
本以外に娯楽がない中、姉様の話はとても面白かった。
食後はいつも家族みんな姉様を囲み、話をせがむ。
それが我が家の新習慣になった。
曰く、帝国側のカラヴィン山脈では虹の渓谷と呼ばれている場所があり大地が7色に層をなしているとか、半島の南にドラゴンの住まう無人島があり、そこには黄色くて甘い果実がなっていてそれが大好物だとか。
ここドレイト領に暮らしているだけでは、想像したこともない冒険の話にみんな夢中だった。
私も冒険に行きたくなったくらいだ。
けれど、そこで落としてくるのもまたイヴリン姉様。
曰く、森で遭難しいつのまにかアラクネの巣に入り込んでいて、全身アラクネの糸でぐるぐる巻きにされたとか(火魔法で脱出したのはいいが、アラクネの群れだったので、囚われては脱出の繰り返しで命からがら逃げられたのだとか)、戦闘中に荷物を盗まれ、1週間即席で作った魔物の干し肉とわずかな雨水で凌いだとか、魔物の返り血がすごくて不審者に見られ入国拒否されたとか。
冒険者って大変なんだなと、安直な私の冒険したい気持ちはしゅるしゅると萎んでいった。
イヴリン姉様は、100年以上生きているだけあって魔法陣についてもよく知っていた。
と言っても、エルフは魔法に長けた種族らしく姉様自身は魔法陣を使わないのだが。
だから、基本的に「昔こうやって使ってた人がいたよ/昔こうやるといいって聞いたよ」という断片的な知識なのだが、今や完全に廃れた魔法陣について話を聞けるのはすごくありがたかった。
「昔は石に魔法陣を刻み込み、アクセサリーとして常に身に着けていた方がいるようなのですが、お姉様は何かご存知ですか?」
「あぁ、みんなよくつけていたね。
作りたいの?」
「私は魔法陣がないと魔法が使えないですから、アクセサリーにして身につけておけば、いつでも使えると思ったのです」
「なるほどねー!
確かにそうすると便利だけど、テルミスちゃんどうやって作るの?」
「へ?属性のあった素材の方が魔力消費も効率がいいと本で読みましたから、宝石店でガーネットやサファイアのクズ石を買って刻印してもらおうと思ったのですが…」
「うーん。それでも大丈夫なのかなぁ?
昔は刻印屋がいたんだよ。
自分で刻印できない人はプロに頼んでたの。
でも今って魔法陣使える人がいないでしょ?
だから正確に刻印できる人っていないんじゃないかな?」
「正確に魔法陣写せるだけではダメなのでしょうか?」
「ダメってわけじゃないけど、上手く写せても魔力の効率が悪いんじゃないかな?
ほら、魔法陣って魔力を込めて描く方が効果的なんでしょ?
クズ石といえど宝石は高いのに、それに見合った効果が出ないのかもー」
なるほど…
確かにこの1年で読んだ本に魔法陣を描く際の魔力で効果が変わるという記述を読んで、実際に魔力を込めて描いた魔法陣と込めずに描いた魔法陣で実験してみた。
魔力を込めて描いた魔法陣は発動の時の魔力消費が10分の1くらいだった。
確かに…効果はかなり変わってくるなぁ。
「ねぇねぇ。
テルミスちゃんは結構魔力操作も上手いと思うんだけど、なんで付与魔法はしないのー?」
「え?上手い…?そうですかね?
まだ基礎で躓いてるから、付与魔法に手をつけていないだけですよ。」
「全然躓いてないと思うけどねー?」
「でもお兄様は火を自由自在に操れるのに、私なんて意図したところに飛ばすだけでも四苦八苦なんですよ」
「あぁ。お兄ちゃんは比べちゃダメね。
まず彼はスキル判定で火に関してだけなら自然と使い方をマスターしているし、魔法のセンスもいいから。
テルミスちゃんは1からだから歩みが遅いのは当たり前だし、みんなが魔法陣使っていた頃なら7歳でこのレベルなら「うちの子天才!」って言われてたと思うわよー」
「そうなのですか?」
でも、悲しいかな…今はみんな魔法陣使ってないからみんなより出遅れてるのは変わらぬ事実!
「あ、それにー。
昔付与魔法上手な子が、真面目に付与魔法を練習すれば魔力操作も上手になるって言ってたわよ!
付与魔法ができると結構便利だし、テルミスちゃんが言ってた魔法陣入りアクセサリーも作れるわよ!」
なるほど!
そういえば、どーせまだできないだろうと読んでないけれどライブラリアンに『付与魔法の全て』ってあったなぁ。
早速今日から読んでみよう。
「お姉様!ありがとうございます!
早速今日から付与魔法の本読んでみます!」
「そっかー!テルミスちゃんライブラリアンだもんね。
そのスキルすごく便利ね。
ちなみに最初に作るなら、聖魔法がいいわよー。
みんなこれは持ってたから。
怪我や病気の時、魔力消費少なく治せるし、解毒もできるし、二日酔いも治るし…とにかく、おすすめよ!
石は最高にいいのはペルラだけど、手に入らないからパールで作る人がほとんどよ」
**********
その晩早速付与魔法の本を読む。
本曰く、
「付与魔法とは、対象物に魔法効果を持たせることである。
その方法、性質は大まかに2つ種類がある。
1つは適切な素材に魔法陣を刻む方法で、魔法陣を刻まれた対象物は魔力を流した際に魔法効果を発現する。
一番一般的なのが魔導具で、スイッチを入れると魔石から魔力を補充して魔法効果を発現する。」
なるほど?
我が家にある魔導トイレや魔導エアコンも付与魔法だったのか…でも魔法陣見たことないけどな…
「2つ目は、適切な素材に魔力を染み込ませることで、対象物は魔法効果を発現する。
なおこのタイプの付与魔法は、染み込ませた魔力が無くなるまで常時魔法効果が続く。
耐火素材と魔力を染み渡らせた糸で、耐火魔法陣を布に刺せば、その布は一般的な耐火布より強靭な耐火性をもつ。
このように付与魔法する前段階の準備に使われることが多い。
また、ポーションも適切な素材と魔力を調和させた飲み物であるため、製作者の力量次第で品質が変わる。
なおポーションに消費期限があるのは、素材そのものに魔力が付与されているため、素材が劣化するほどに魔法効果も共に消失してしまうからである。」
ふむふむ。
え!ポーションも付与魔法なのか!
ポーションは聖魔法使いのみが作成できるという。
つまり、聖魔法使いは付与魔法に長けているということなのかな?
「この2種類の付与魔法は、大前提として適切な素材を適切に処理する必要がある。
中には素材によらず、己の魔力だけで付与を行うものもいるが、その付与方法は魔力消費が激しく、効果も低いため、この本では扱わない。」
まずは知識として覚えなくては…?
すぐに習得できるものではなさそうね。
…もっと早く着手してたらよかった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます