第29話
昨日は、朝からランニング、初めての護身術、魔法に貴族の名前を覚えるという初めてのことづくしの日だった。
だからきっと疲れが溜まったのだと思う。
夕飯を終え、湯浴みをし、倒れるように寝てしまった。
お陰で睡眠ばっちり!
今日も元気いっぱいランニングができている。
もちろん5分走っては5分歩くを繰り返している。
そして今日は、初めてのマナーレッスン。
講師を務めてくださるのはソフィア夫人だ。
マナーのレッスンということで、机に向かって勉強するのではなく、お茶会形式でお話することになっている。
多分紅茶を飲む姿、お菓子を手にする姿も同時にチェックしてるんだろうな。
自己紹介と当たり障りない話を少しして、本題に入る。
「テルミス様はドレスをお作りになったことがありますか?」
「いえ、母が仕立ててくれたのを着ただけで、自分で作ったことはありません。」
「ではどんなドレスを着たいですか?」
「そうですね…あまりフリル過多でないシンプルなものがいいですね」
うぅ…どんなドレスが着たいかなんて考えてもなかったから語彙が貧弱。
ソフィア様もそれはわかったようで、一枚の紙を出してきた。
「ドレスの形は基本的にこの形。
高めのウエストからスカート部分がAラインに広がっているドレスです。
現在社交界で着用されているドレスの7割がこの形です。
残りの3割はスカート部分をさらに膨らませたこの形です。
こちらは生地がたっぷり使われていますし、とてもゴージャスに見えますからプリンセスラインと呼ばれ、若い方に人気です。
そして、昨年王妃様が体に密着する形のドレスを着用されましたからこちらも今後流行っていくでしょう。
こちらは人魚のように見えることからマーメイドラインと呼ばれています。
先程テルミス様はシンプルなドレスがいいとおっしゃられましたが、この3つの中ならどうでしょうか?」
「マーメイドラインのドレスはシンプルで素敵に見えます…が私には似合わない気がします…」
「そうですね。よく見えてますね。
こちらは大人になってからが似合うドレスです。
ドレスを選ぶ時は、着たいだけではダメなのです。
お顔の印象、体つきによって似合うドレスは変わってきますし、参加される会が夜会なのかお茶会なのかでも違いますし、参加目的によっても違います。
では、ドレス選びの際に一番大事なのは何でしょう?」
「その場の雰囲気を乱さないことでしょうか。
時と場所、出会う人に合わせること…なのではと思ったのですけれど。」
「それも正解ですわ。
しかし、それでは結果を残せません。
社交とは、ただお話して楽しかったで終わってはならぬのです。
情報を得る目的があったり、顔を売る、商品を認知する、素敵な殿方を見つけるなどの目的があったりするものです。
楽しくても目的が達成できていなければ、その社交は失敗ですわ。
そんな…いわば戦いの中で着用するドレスは、戦闘服。
戦いが有利になるようにしなければなりません。
どんな私に見られたいか…それが一番大事なのです。」
「どんな私にみられたいか…」
「テルミス様はまだ社交経験がありませんから難しいかとおもいますが、想像してみてください。
どんな私ならその戦いに勝てるかを。
たとえば、テルミス様はお店を持たれると聞きました。
商談相手にも会う夜会ではどんな私がふさわしいでしょうか?
ふわふわかわいい守ってあげたくなるような私でしょうか、妖艶で美しい私でしょうか、大人しく真面目な私でしょうか…」
「大人しくて真面目ですか?」
「いえ違います。
おとなしいとは、裏を返せば御し易い、侮られやすいのです。
商売相手に侮られてはなりません。
可愛く守ってあげたい人なら、この人に仕事なんてできるのか?と抱かせてしまう可能性もありますし、妖艶もまた仕事ではない話に発展しがちです。
特に商売相手が殿方ならね。
社交場に出る目的が仕事なら、この人と仕事したいと思ってもらえる私でなければなりません。
人によって様々な条件があるかと思いますが、概ねしっかりと自分を持ち、清潔感があり、周りとの協調性がある人は、仕事においてプラスにこそなれマイナスにはなりません。
一意見ではありますがそういう私をビジネスの場では目指すべきです。」
「はい…すみません。余計にどんなドレスが良いかわからなくなってきました。」
「そうですね。
ドレスの形だとマーメイドラインはまだ王妃様とその周りの高位貴族しか着用していないですから、まだ着用した人は片手で数えるほどです。
そんな中男爵令嬢のテルミス様が着ていかれるとなると、悪目立ちしてしまいます。
そうなると協調性のある人とは思われませんね。
また、プリンセスラインも若い方に人気なので、幼い、浮ついた印象を持たれている方もいらっしゃいます。
信用に足る商売相手と認知されたければ除外です。
ドレスの形はAライン一択です。
では、Aラインのドレスに色を合わせていきましょうか。
同じ形でも色によって印象はガラッと変わるはずです。」
その後いろんな色の紙をドレスの絵に当てて、紺色は知的に見えるとか、赤は派手好きに見えるとざっくばらんに色が与える印象について語り合って、マナーレッスンの初回が終了した。
ソフィア夫人によると、赤は派手だから着られないということではないらしい。
赤にもいろんな赤があるし、素材によっては同じ赤色でも受ける印象は違うし、単色ではなく一部に取り入れたりもできるのだから、まずはドレスの形、色が与える印象、素材の印象を熟知した上で、バランスを見ながらデザインしなければならないらしい。
む、難しそう…
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