第22話

「メリンダ。サリー様に手紙を届けてくれる?

この間は勢いでお店を作る!なんて言ってしまったけれど、プリン1つではなかなか厳しいのではないかと思うの。

だから、サリー様にはまた違う味のプリンを作って欲しいと思って。

相変わらず分量など詳しいレシピは知らないから、試行錯誤してもらわないといけないわ。

材料を用意して、ラッシュに厨房を使っていい時間帯を聞いて、その時間でサリー様と都合をつけてほしいの。」

「わかりました!材料は何を用意すればよろしいですか?」

「カラバッサの実とプリンの材料だけよ。」

「カラバッサですか?」

カラバッサは蒸すとほくほくして甘味のあるオレンジの野菜だ。

普通はスープか温野菜に使われる。

前世のかぼちゃに近い味だ。

かぼちゃより濃厚かな?

「ええ。カラバッサは野菜だけど美味しいはずよ。

工程も手紙に書いたけれど、ほとんどプリンと変わらないの。

焼く前に蒸して柔らかくして潰したカラバッサを裏漉ししながら、プリン液に入れて混ぜるくらい。

プリン液の配合や焼き加減も微妙に変わってくると思うけれど、ベースが同じだからそれほど開発に時間はかからないはず。

サリー様と都合を合わせてお招きして、試行錯誤するようお願いしてちょうだい。

そして、出来たら試食するから、後で持ってきてくれる?

食べてみたいの。」


**********


一週間後お父様とお母様が王都から帰ってきた。

早速後見人の話をしようと時間をもらう。

不在時の仕事が溜まっていて忙しそうだったけど、1日遅れたところで問題ないと、2日後にはマリウス兄様や私と話をする時間をとってくれた。

マリウス兄様はもう10歳。

あと2年で学校にも通うため、剣術、馬術、魔法の訓練や歴史や算術、多言語などの勉強に加え、領地経営の勉強もあって大忙しだ。

それなのに私が落ち込んでいる時は、度々顔を見せにきてくれたし、今日お父様に話しているのを聞いて初めて知ったが、騎士達と一緒に領都の見回りもしていたらしい。

改めて思うけれど…マリウス兄様優秀すぎる。

どうやったらそんな仕事ができるのかさっぱりわからない。

お父様とお母様も笑顔だ。

ドレイト領は安泰だね。

「テルミスはどうしてたんだ?

いい子にしていたか?」

私のハードルの低さよ。

でも実際不在期間の半分以上はまた堕落生活していて、残りの半分は勢いでパティシエ作ることを決めて動いていたんだから…いい子にはしてなかったかな。

「え、えぇ。

実は新しいお菓子を作っていましたの。

お父様とお母様にも食べて欲しくて今日用意しているんだけど…いいかな?」

娘の作ったものだからもちろん食べたいと許可をもらったので、メリンダに用意してもらう。

用意したのは、ノーマルなプリンとカラバッサプリンの2種。

サリー様は急な話だったのにカラバッサプリンを完璧に仕上げてくれた。

今日のプリンはお皿に盛るのではなく、新しく作ってもらった小さめで底がぽってり丸いガラス瓶に入れている。

それだけでも可愛いが、ノーマル味にはブルーのチェック柄の布をかけてシルバーリボン、カラバッサプリンは赤のチェック柄の布をかけてシルバーリボンで結んでラッピングしてある。

テイクアウト専用にしたいから、見た目も可愛くしたのだ。

紅茶もメリンダとプリンに合うものを選んだ。

準備はちゃんとしてきたはずだ。

あとは…私がちゃんと説明できるかだ。

頑張らなきゃ。

メリンダが二つのプリンを配って回る。

マリウス兄様は以前食べたことがあるので、今日も食べられるのかと喜んでいる。

「今日は可愛い入れ物に入っているね。

青と赤…ということは、僕が食べてない味もあるのかい?」

「ふふふ。そうですわ。

1つでは心許ないかと思いまして。

新商品です。ふふ。」

「まぁ。可愛い。これは何かしら?」

「お母様。これはプリンというお菓子です。

まずは青の方からお召し上がりください。」

一口食べる。

目を見開く。

「なんだ。このお菓子は。初めての食感だ。」

「えぇ。食べた後も重くなく、いくらでも食べられそうですわ」

「実はこのプリン開発にラッシュの妹のサリー様にご協力いただいています。

私はサリー様をパティシエに、このプリンでお店を開きたいのです。」

「パティ…シエとはなんだ?」

「お菓子職人のことですわ。

プリンは今までにない類のお菓子です。

新しいもの、流行に目のない貴族、富豪向けにしたいと思っています。

売るものは、今食べていたプリンを主力に据えて、もう2つくらい商品があるといいかなと思っています。

もう一つの赤い布がかかったプリンが今考えている2商品目のプリンです。

今あるのはこの2つだけですので、今年はこの2つを売り込むことで宣伝しつつ、来年冬の社交シーズンに王都で流行らせられたらなぁと思っているのですが…どうでしょう?

できれば今年はどれほど上手く行くかわからないので、完全受注制にして、店舗も借りず、王都のタウンハウスで作ってデリバリーすれば、リスクも少なく、家賃や設備にかかる初期費用も稼げる上、サリーさん1人でも回せるので、急いで人材育成しなくても良いし、お客の反応見ながら3商品目の開発ができるしで、一石三鳥かと思って……!!」

お父様とお母様がポカンとしている。

しまったぁぁぁ!何も実際のデータがないのに、考えてたことベラベラ喋りすぎた。

何の根拠もない夢物語なのに!

背伸びしてる子供の戯言みたいになっちゃった。

私のばかぁ。

「あ、あの…た、ただ私は王都へ行ったことはありませんし、店舗経営も未経験ですので、店舗の家賃、運営費がどれくらいかかるのかとか、王都の高額菓子がいくら程なのか、人件費はどれくらいが妥当なのか、そもそもどうやって売り込めばいいのか皆目見当がつかなくて…そこら辺をお父様たちにご教授いただきたく…いや、その前にプリンが売れるかどうか聞いてみたく…

そして、売れそうだと思っていただけたら…あの…後見人になってもらい…たいな…と思っています。」

ちらっとマリウス兄様を見ると、よく頑張ったなとにっこり笑ってくれた。

ほっ。

「ちなみに赤も食べていいか?」と聞かれて、カラバッサプリンを勧めてないことに気づく。

忘れてた!

カラバッサのプリンだというとかなりみんなびっくりしてた。

そしてカラバッサプリンに心奪われたお母様が後見人名乗り出てくれた。

事業についても相談に乗ってくれるらしい。

一歩前進かな。

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