第14話

すっかり寒さ凍てつく冬になりました。

と言っても屋敷の中は魔導エアコンのおかげで快適そのもの。

前世のエアコンのように夏は冷たい風、冬は暖かい風を出して温度調整するわけではなく、魔法で湿度と温度を一元管理。

だからクーラー入れてるのに風が直撃して凍えることもないし、暖房ついてるのに暑くなるのは上部の空気だけで足元はしんしんと冷たいなんてこともない。

このエアコンは快適すぎるわね。

気持ちとしては将来平民として生きていこうと95%くらい思っている。

まだ子どもでできることがほとんどないので、真っ当な働き口が見つかる12歳くらいまではこの家に厄介になりたいけど、今年の誕生日にはお父様に意向表明しようかなと思っている。

のに…このエアコンの快適さったらないわ。

平民でもエアコン買えるくらい大金持ちになるにはどうしたらいいのかしら。

なんて考えちゃうくらいよ。

さて、エアコンのことはここまで。

今日は孤児院なので寒さをグッと我慢して出発です。

孤児院に着くとネイトが駆けてくる。

「遅いぞ!こっちはもう準備万端だから早く来い!」

随分打ち解けたものだ。

ネイトは、読書会や朗読会には参加せず走り回っていた1つ下の男の子だ。

参加はしないものの、混ざりたそうにチラチラ見ていた子だ。

参加しやすいよう趣向を変えて、鍬を持って畑を作り始めたら、「お前みたいなちっこいのが危ないだろう!貸せ!」と土づくりの時から積極的に手伝ってくれてた。

乱暴な言葉と裏腹にツンデレな思いやり溢れる行動に「良い子だなー。こりゃ将来モテるわね。」と思ってしまった私はやっぱりおばさんなんだと思う。

自分だって小さいのに可愛いわよね。ふふふ。

その後は彼と一緒に走り回っていた子たちも力仕事を手伝ってくれて畑を作り、女の子や小さな子は種芋の準備をして植え付けたじゃがいも。

夏の終わりに植え付けて、芽が出た時はみんなで芽が出た!芽が出た!と大騒ぎして。

花が咲いたら、思ってた以上に可愛くて、畑の横でみんなでピクニックしたんだよね。

収穫したら何の料理食べたいかと熱い議論をかわして、わいわい楽しかったな。

そんなじゃがいもが!本日ようやく収穫なのです!

今か今かと待ち焦がれた収穫だから、みんな待ちきれないみたい。

私も今日は孤児院に行く曜日ではないのだけど、スケジュールずらして来たもの。

とりあえず1つ抜いてみる。

まだ小さかったら、延期だ…

ず、ず、ずぼっ!と抜くと、大きく育ったじゃがいもゴロゴロ。

「わぁー!」

「ちゃんとできてる!」

「いっぱいだ!」

「他のも早く抜こう!」

その後みんな泥だらけ、汗まみれになってじゃがいも収穫した。

よく考えたら、泥、汗まみれでじゃがいも掘る令嬢ってどうなのかしら?

まぁ将来は平民だからいいことにしよう。

収穫が終わると以前から計画していたじゃがいもパーティ!

「例のアレ持ってきた?」

「もちろんよ!それにね…サプライズも用意しているから期待してて。ふふふー。」

女子チームには、今日パーティで使うじゃがいもの半量を渡して、皮をむいて、洗って固茹でしてもらう。

その間男子軍団は皮を作る。

小麦粉にお塩を入れて、水を加えつつ、まぜまぜ、こねこね。

耳たぶくらいになってきたころ、茹でたじゃがいも登場!

そのままつつんでもいいけれど、今日は全員に行き届くように半分に切って小さめに。

半分に切ったじゃがいもを皮で包んだら、もうひと茹で。

ぷかぷか浮かんできたら頃合いよ。

私が持ってきた例のアレ(マヨネーズ)をつけて食べるの!

「これがじゃがいも饅頭か?」

そう。これは、トリフォニア王国で一般的な家庭料理ではない。

じゃがいも畑の隣でピクニックしていた時に、私が隣国の山間部ではじゃがいも饅頭というのが食べられているらしいと本で読んだ話をすると、ネイトが「なにそれ?!」と食いつき、食べてみたい!という話になったのだ。

本には簡単な作り方しか書いていなかったので、皮だけは家で何度か研究してきた。

けれどじゃがいもを包んで食べるのは私も初めてだ。

ドキドキワクワク。

手が空いた人からピクニックの準備をしてもらう。

もちろん出来立てのじゃがいも饅頭とマヨネーズも持っていってもらう。

その間私はロザリアとサプライズの準備だ。

薄く切ったじゃがいもを揚げる!ポテトチップスだ。

薄く切るのも、揚げるのも慣れない私には危ないとのことでロザリアがやってくれる。

わたしは、限りなく薄く切られたじゃがいもの水気を拭く係だ。

いい色になってきた!やっぱり味は塩よね!

パーティ会場にサプライズを入れたバスケット持っていく。

もう準備は万端だ!

みんなでじゃがいもの収穫祝ってお水で乾杯!

そして早速じゃがいも饅頭にマヨネーズを一匙かけてがぶりと食らいつく。

ここでお行儀とか気にしないことにする。

んんんー!美味しい!

この塩味がなんともいい!

周りを見渡すと2個目に手を伸ばしてる子も。

やった!成功だー。

ひとしきり饅頭を食べると、バスケットに注がれる視線。

満を持して、バスケットオープン。

最初に手を出したネイトの「うま…」の声を合図に、手が伸びてくる、伸びてくる。

あっちこっちでカリッ、パリッと音が鳴り、あっという間に完売。

「もうおわり!?まだ食べたいー!」

うん。わかる…この味は…

やめられない、止まらないってやつだよね。

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