第13話

あれからまた私の毎日は、いつも通りの毎日に戻っている。

掃除して、魔法の勉強して、文字の勉強して、庭でジョセフと話しながら庭いじりして(たくさん植物談義してたら庭いじりもいつの間にかするようになってた)、孤児院行って、本を朗読したり、文字を教えたり、畑をしたりして、刺繍して、算術して…という具合である。

ちなみに魔力感知は前回倒れた時にコツを掴んだらしく、体の芯にある魔力がわかるようになった。

ふよふよと不定で、白い光だ。

自分の魔力がわかるようになると、魔力の限界もわかるようになった。

だから今では魔力切れで倒れることはない。

倒れる限界が視覚的にわかるので、そのぎりぎりを攻めている。

今は魔力操作を練習中。

体のどこの部位にも魔力を集中させることができるようになったし、体全体を血液が巡るように魔力を巡らせることもできるようになった。

苦戦しているのが魔力を止める練習。

例えば魔力を手に集中させるとするでしょう?

するとね、手から火が出てるみたいに魔力が溢れてるの。

だからそれを手という器の中に収める練習。

かなり集中力が必要で、慣れないからか魔力の消費も激しい。

消費が激しいから、終わったらいつもチャイを飲んでいる。

魔力は生命エネルギーのようなもの。

だから枯渇すると生命活動がスリープモードになる。

つまり…倒れる。

そして、本当に死んでしまったら体が冷たくなるように、体温も低くなってしまう。

エネルギーを取り戻すには、栄養ある食事と睡眠である。

もちろんポーションに比べると回復は遅いが、食事と睡眠には副作用がない。

ポーションは回復力が桁違いだが、それ故に常用すれば効果が出なくなるのだ。

それに価格もかなり高い。

だからポーションを使うのはよっぽどの緊急事態だ。

最も安全で安価な方法は、倒れる直前に栄養価のあるものを摂取して、睡眠をとることなのだ。

私が初めて魔力切れを起こした時に3日もかかったのは、前世を思い出す前で好き嫌いをしていたし、睡眠不足だったから、3日もかかったんだろうな。

でももう魔力感知できるようになったから、倒れることなく、メリンダに心配かけることなく、本が堪能できるようになった!

魔法勉強してよかった。

そして魔力感知ができるようになると、他者の魔力もわかるようになった。

メリンダは涼しげなアクアマリンのような光で、ジョセフはひだまりみたいなポカポカ暖かい橙色だ。

ジョセフは緑魔法とか言うくらいだから、緑の光だと思ってたのに。

スキルとは違うのね。

孤児院の畑に一度ジョセフが来てくれて、緑魔法をかけてくれた。

初心者ばかりだから、せっかく植えた植物が枯れないようにって。

病害虫に強くなるんだそうだ。

魔法の後一週間は、作物からジョセフの魔力がキラキラ輝いてた。

緑魔法ってすごいな!

メリンダの魔力も館の至る所でキラキラしているのに気づいた。

もしかして…と思って聞いてみれば案の定。

私がはたきとほうき、フロアワイパーで掃除しているのに対し、メリンダは部屋の中で風魔法で掃除してるんだって。

塵や埃を風で一気に集めるのだそう。

水拭きは風魔法ではなんともならないそうなのでフロアワイパーらしいけどね。

ちなみに水回りの掃除は、ランドリーメイドのアリスが水魔法で一瞬で終わらせてしまうんだとか。

魔法って便利。


そういえば、メリンダの風魔法を見せてもらった。

つまり掃除風景を見せてもらったんだけど、なんかすごかった。

部屋にフワッと風が起きて、でも物が落ちるわけでもなく、いつのまにか埃があっちこっちから足下の小さなゴミ箱の中に収まってた。

すごいすごい!と感激して、でもちょっぴり良いなと思って、「誰でも使えるゴミを吸う機械(つまり掃除機のことなのだが)があればいいのになぁ」と言うと、なんと!この世界にも掃除機はあるのだそう。

けれど王都に家が買えるのでは?というほど価格が高い。

ゆえに我が家にはないし、もちろん平民家庭にも無い。

貴族は風魔法使いを雇用するのだ。

平民は自身が風魔法使いでなく、近所に風魔法使いがいなければ、私と同様はたきと箒、雑巾で掃除することになる。

ちなみに他にも前世で言うエアコンやドライヤー、冷蔵庫に洗濯機もあるし、水洗トイレもある。

ただしトイレ以外はかなり高く税がかかっているので誰もが買える品ではない。

「お嬢様は魔素をご存知ですか?」

あぁ、魔法行使する時の媒体となるもので、空気中に漂っているんだっけ。

酸素や窒素と同じように空気中の成分の一部という認識だ。

魔法の媒体だけあって、魔素のない場所では魔法は発現できない。

この世界にそんな場所はないけれど…

たしかに前世は魔素も魔法もなかったしなぁ。

「では、魔素は何から生まれるかご存じですか?」

「詳しい発生メカニズムはわかりませんが、魔素はあらゆる生命エネルギーから少しずつ発生しているのです。

生命エネルギー…すなわち花や木、動物、魔物、もちろん私たち人間もです。

人間は欲深い生き物ですから、規制がなければ出来るだけ豊かな、できるだけ楽な暮らしを求めます。」

なんかわかってきた。

人間生活はありとあらゆる命と引き換えに成り立っている。

食卓に上がる食べ物だけでなく、紙を作ったり家を作ったりするのに木を伐採し、毛皮をとるために動物を乱獲する。

魔導具を作るにも魔石と資源が使われる。

魔石は魔物から採取される。

魔物も資源も豊かな生活のために使ってばかりいては、魔法が使えなくなるのだ。

この世界は魔法がある前提で成り立っている。

だから魔法が使えなくなるのが困るのだ。

「お嬢様のお勉強に使われている紙も再生紙ですね。

それも必要以上に木を伐採しないためなのです。

新しい紙は契約などの重要書類や本にのみ使われているのです。」

たしかに、ティッシュのような使い捨ての紙もトイレと医療機関でしか見ない。

一部の大貴族以外、衣服もお直ししながら長く使う傾向で、衣服のお直しと刺繍は女の嗜みってわけ。

貴族は自分でリメイクせず、専門の回収業者に委託することが多い。

そして回収された服は平民が着る服にリメイクされ、販売される。

元々貴族が使っていた服なだけあっていい布を使っているから、中古であっても価格が高いのだ。

だからか。

この世界が美しいのは。

前世はとても便利で豊かだった。

でも、どこもかしこも人工物ばかりだったし、環境汚染の問題は深刻だった。

この世界はまるで中世のようで、全く違う。

必要なところには前世に近い技術がある。

それを今だけを考え便利さを追い求めるのではなく、環境とのバランスから不必要に消費しないのだ。

「それに、そんな魔導具が広まると私たちの職も無くなりますし。」と苦笑していた。 

そうそう雇用といえば、魔導具にかけられた税もトイレがとても低いだけではなく、それ以外にも差があるんだそう。

必要性と雇用のバランスで税の重さが決まるのだとか。

例えば、トイレは使用頻度が高く、旧来のトイレだと衛生面があまりよろしくない。

さらに魔導具トイレの代わりに、水魔法使いを常時トイレに待機させるわけにもいかない。

待機する水魔法使いも、トイレを使用する人も嫌だもんね。

ということで、必要性が高く、人では代われないものだから税が安い。

50年前に開発されてから国としても魔導トイレ(魔法で水が流れる。防臭、防汚効果付き)の設置は推奨してたらしい。

今ではほぼ100%の普及率だ。

トイレの次に安いのがコンロ、冷蔵庫、エアコンだ。

コンロも料理の度に火魔法使いを待機させるのは、現実的ではないし(どこも大体食事の時間は同じだものね。火魔法使いが足りないわ。)、火魔法を使わずに料理をするとなると火を起こすのがなかなか大変な上火事にもなりやすい。

ゆえに、トイレほどではないが税金は安めだ。

安めとはいえ、値が張るので地方の平民はまだ薪をくべている。

冷蔵庫やエアコンは言わずもがな。

24時間365日稼働するため、人力では魔力が圧倒的に足りないし、その業務を担う人の暮らしが成り立たない。

非人道的な業務になってしまう。

ゆえに安め。

冷蔵庫はコンロと同じく地方平民には広がっておらず、エアコンは貴族や一部の有力商人だけだ。

我が家も持っているのは、税金安めの魔導トイレ、魔導コンロ、魔導冷蔵庫に魔導エアコンだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る