第12話
1時間経ってメリンダが起こしてくれる。
体温や顔色をチェックして、これならいいでしょうと太鼓判をいただき、今日の勉強へ。
30分しかないから、復習に当てよう。
今まで調べた単語で覚えてない単語も結構あるもんね。
復習が終わればジョセフのところへ。
今日は庭の花を愛でるのではなく、孤児院の畑に植える植物の相談だ。
「葉物は小松菜がいいんじゃないか。
年中栽培できて初心者にも簡単だ。
収穫だって力がない女性や子供でもできるしね。
最初からたくさんの野菜を育てるのは大変だから、小松菜と季節の野菜1つくらいから始めるといいよ。
今の時期だとジャガイモもおすすめだ。」
「じゃあ小松菜とじゃがいもにしようかしら。
あとさつまいもはどう?
秋に収穫でしょ?今から植えて秋に収穫して、みんなで焼き芋したいなって思ったの。
ほら、おやつにもなるような作物もあった方が楽しいでしょ!
やっぱり3つもすると難しいかしら」
「さつまいもは、もう植え付けの時期終わってるからなぁ…
今年は諦めて、来年春に植えるのがいいと思うよ。
あ、じゃあブルーベリーなんかどうですか?
ブルーベリーは挿木で増やせますから、実の着き始めた木を買うんです。
今年育てる楽しみは無いですが、もう実がついてるのですぐに収穫できますよ。」
「それはいいわね!すぐに収穫して楽しい経験をしたら、次の収穫が待ち遠しくなるもの
ありがとう。ジョセフ!」
ジョセフとの話が終わるとランチで、ランチの場でお母様に相談があるのだと伝えてみる。
お母様は夜に同じ男爵家のパーティーに招かれているらしく、このランチのすぐあとであれば時間が取れるとのこと。
ランチが終わり、お母様の部屋で紅茶をいただく。
時間がないから単刀直入に。
「お母様…あの孤児院は大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫とはどういうことかしら?
たしかに豊かな暮らしとは言えないまでも飢えや寒さによる命の危機を感じない暮らしをおくれているとおもいますよ」
「そうですね。
しかし、子どもたちの面倒を見る職員が皆体を壊しています。
初めてお母様に連れていっていただいた時手首に真っ黒になるアザがある職員を見ました。
それだけであれば何か事故にでもあったのだろうかと思ったのですが、通ううちに他の2名も足を悪くしていたり、胸の辺りが真っ黒になっていたりしているのに気がつきました。
3人が3人とも何かしら体が悪いなんて普通ではありません!しかも外傷です。
孤児院長は本当に優しく、立派な方です。
だから彼女が何かしているとはどうしても思えないのですが、職員ばかりが体を壊しているのを見ると何かあるのではと思えてならないのです。
お母様、お願いです。
あの孤児院を調べてください。」
「そう…でも、調べる必要はないわ。」
「お母様!でも、もし彼女たちが…」
「彼女たちの抱える問題は、彼女たちの許可なく話すことはできません。
けれど、気づいてしまったのなら仕方ありません。
詳細は避けますが、彼女たちは被害者なのです。
王都で暴力を受けたりして虐げられていた人たちです。
彼女たちがここにいるのは、自分の命を守るため。
逃げてきているのです。
だから、この件はこれでおしまい。
他言無用です。
どこで情報が漏れるや分かりませんから。
わかりましたね」
暴力から逃げてきた…
しかも王都からなら山1つ超えなければならない。
それほど切羽詰まって逃げてきたんだ…
あの孤児院はDV被害者のシェルターになっていたってことか。
「わかりました。お母さま。
私の思慮が足りませんでした。
すみません。」
「いいえ。いいのです。
私はむしろあなたがそのことに気づき、声を上げたことが誇らしいですよ。
人は皆自分可愛さに見て見ぬ振りしてしまう生き物ですから。
それに最近あなたが頻繁に行って、お話会や勉強会など新しいことを始めてくれたおかげで、気がまぎれるのかみんなどことなく明るくなった気がするわ。
今度は畑もするんでしょう?楽しみにしていたわよ。
実はね、お母様が定期的に孤児院に行くのは、彼女たちの傷を治すのが1番の理由なの。
あまり魔力が多くないから少しずつしか治せないし、治せないものもあるのだけど。
でもね。私が治せる身体の傷なんかより彼女たちはずっとずっと深く心に傷がある。
心の傷は私には治せないから、あなたがあの孤児院を明るくしてくれて嬉しいわ。
ありがとう。テルミス。」
よかった。
(ライブラリアンの私でも)役に立つことができてたんだ。
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