第9話
それからは毎日毎日スケジュールをこなす日々。
朝はご飯食べて、掃除して、音読して(ウィスパの絵本はもう完璧に暗唱できるようになったので、今はゴラーの伝記を音読している。復習にもなっていいでしょ。)伝記を辞書使いながら読んで(ゴラーはとっくに読み終わったので聖女マリアベルの伝記を読んでいる。)、お昼ご飯まで庭に出て、ジョセフと話したり、植物図鑑で花の名前を調べたりしている。
そうそうあの事件…私が池に落ちたあれね…からジョセフと仲良くなった。
ジョセフから植物のことを教えてもらったり、ジョセフが私の植物図鑑には何が書いてあるのか聞いてくることもある。
あと、部屋に飾るお花ももらう。
部屋で読書したり、勉強したりする時間が長いから、花があると癒されるの。
彼は私の生まれる前からここで庭師をしている。
緑魔法の持ち主で、植物バカ。
なんでも、植物のことならその植物が何を求めているかわかるのだが女性になるととんとわからないという残念なオジサンである。
うん。30歳って6歳の私から見たら充分おじさん…
でも悲しいかな。
何故かブーメランのように自分もおばさんだと言われてる気がするわ…くぅ!
話がそれちゃったわ。
お昼ご飯の後は算術の時間。
15分で何問解けるか格闘している。
それを繰り返し4セットくらいして、残りの時間は暗算の練習。
とにかく解いて、解いて、解きまくる。
四則演算の理論はわかっているわけだから(だって中身は大人だし…)、あとはスピード。
だから質より量なのです!
ティータイムでは、刺繍もする。
真っ直ぐ縫うことから始まった私の刺繍も最近はイニシャルの練習に入ってる。
毎日コツコツ作業して、週に1度お母様に見てもらうのだ。
練習するのに新しい布は勿体無いと私が言い張り、私のサイズアウトした服を分解して刺繍練習用にしている。
ん?縫い終わった布はどうするかって?
ふふふ。そのまま手頃な大きさにして、四隅をしっかり縫い、雑巾に。
メリンダがお嬢様はまだ貴族令嬢ですっていうのだけど、私が刺繍した雑巾を使ってくれていることを私は知っている。
午後のフリータイムは、ベッドの上でゴロゴロ読書したり、こんな刺繍したいなーと絵を描いたりしている。
夜更かしもしなくなった。
日中アクティブに活動しているから、夜にはクタクタなのだ。
知らず知らずのうちに、メリンダの言うよく食べ、よく動き、よく寝る生活をしている気がする。
そうやって私は毎日同じ…だけれども充実して、楽しい日々を過ごすことこと3か月。
ミンミンとセミが鳴き始め、汗の吹き出る季節になっていた。
今日も朝から掃除をして、音読…と思い、スキルを発動させると、本が増えてた!
私が出せる本は、文庫サイズのノートかな?と思うくらい簡素な本だったのに、サイズは変わらないが、つるりとしてしっかりとした厚めの紙で装丁された"ちゃんとした本"になった。
おぉ!
追加された本は、物語や算術ドリル、伝記や植物関係の本に刺繍の図案集まであった。
どれもこの3ヶ月で読んだ本に関連している。
このスキル…私の好みを把握してないかしら!?
今読んでいる伝記ももうすぐ読み終わるし、算術ドリルに関してはもう3巡目。
新しい本が読めるようになってよかったー!
でもなぜ?今のタイミング?
スラスラと文章を読めるようになってきたから?
魔力が増えたとか?
考えてもわからない。
考えてもわからないことを悩むのはやめよう。
うん。
そのかわり、明日から魔法の本も読み始めよう。
どうせ私は本読むしかできないから、魔法を学んでも無駄だと思っていたけれど…
何かわかることがあるかもしれないし。
私はメリンダに相談して、起床時間を30分ずらし、朝食前に掃除することにした。
だって、着替えて、朝食食べて、掃除して、また着替えて…って時間の無駄でしょ?
朝起きたら自分で掃除用の服に着替えて、掃除をし、朝食前にはちゃんと貴族令嬢らしい服を着る。
汚れるのを厭わず、掃除ができる。
そして掃除の時間は、魔法の本を読む時間にあてよう。
明日から新スケジュールよ!
今まで私の将来は、結婚はいや!…というか無理だろうなというだけの漠然とした未来だったのだけど、大冒険家ゴラーの伝記を読んでからは、平民になって各地を転々とするのも素敵じゃないかと思っている。
そういえば伝記を読み始めた頃、メリンダが「大冒険家のゴラーは末っ子でお勉強が嫌いで、遊んでばかりいる放蕩息子だったのですね。意外です。」と言っていたけれど、読み終えた今は幼少期のゴラーは意外だった。
冒険者はたくさんいる。
魔物を狩って、その素材を売ったり、ギルド経由の仕事をして日銭を稼ぐのが大半の冒険者だが、ゴラーは違ったのだ。
確かにギルドで依頼を受けて仕事をしている。
けれど、仕事とは関係なく古代の遺跡を発掘して古代魔術の研究をしていたり、新種の薬草を見つけ新たな治療薬を開発していたり…
大人になった彼はとても勉強嫌いだったとは思えない天才だったのだ。
だから彼のことを冒険家ではなく、賢者と呼ぶ人もいるのですって。
何がそれほど彼を変えたかって?
ううん。変わってなかったのよ。
変わらない好奇心と直向きな努力が天才を生んだの。
小さい頃の彼は遊んでばかりいた。
けれど遊びに一生懸命だったのだ。
親がやめなさいというのも聞かず、森を散策し地面に穴があるなと気づいてしまったら、その謎を解明したくて手を突っ込む(蛇の巣穴だった。噛まれて、高熱を出して、生死を彷徨った)、初めてみる赤い実を美味しそうだと口に入れる(すずらんだった。死にかけてた。)。
そんな遊び呆けていた幼少期と同じように、古代魔術に興味を持てば、ありとあらゆる書物を読み漁り、実際に現地に赴き、研究するし、見たことがない草を見つけたらどんな植物が知りたくて、書物を読んで調べたり、観察したり、食べてみたり(小さい時すずらんで死にかけたのに!また知らない植物食べてる…)、実験したりしているうちに新薬を開発してしまうのだ。
この伝記は読むのが楽しかったな。
あの前世で読んでいたバスケットボール漫画の登場人物のように、ゴラーは好きなことに真っ直ぐで、努力して、キラキラした世界に住んでいた。
私が夢見るキラキラの世界…あこがれだわ。
あ、またまた脱線ね。
そういうわけで、ゴラーへの憧れから平民となってあっちこっち自由の民になってみたいと思っているというわけ。
ゴラーの旅路を辿るのもいいわね。
聖地巡礼よ。
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