第8話 【閑話】ベルン視点

「ベルン…今いいかしら」

「あぁ。かまわん。どうした?」

「なんであの子なの!何年もいない"ライブラリアン"だなんて!

あの子は好色な貴族に貰われるか平民となるしか道がないではありませんか…

あの子の将来を考えると不安で、私は母親なのに何もできない!!!」

「あの子が頑張れば王宮の仕事につけるかもしれないし、平民になって愛する人と暮らす方が幸せかもしれないよ」

「本当にそう思っていらっしゃいますの?テルミスは学校に通えません。

成績が良く運良く入学できたとして、攻撃魔法ができないあの子は単位が足りずに卒業は確実にできないわ。

学校も出ずに王宮で仕事ができるわけないし、王宮だけでなく有力な商店だって望み薄ですわ。平民だって…ご存知でしょう?」

「そうだな。平民が不幸とは言わない。

幸せだと思っている平民はたくさんいるだろう。

だが、戦争になれば一番最初に被害になるのはいつだって力の弱いものだし、冬が厳しく餓死、凍死する者も多い。

病気になっても医師にかかれなかったりもするし、トラブルに巻き込まれれば命はない。それほど平民の暮らしは厳しい。

…それでも、最低最悪の貴族に嫁げばあの子はどうなるか…。」

「スキルがライブラリアンというだけで、他はとてもいい子よ。

こんな現実を6歳で理解し、泣くでも拗ねるでも、投げやりになるでもなく、今の自分に何ができるかと考え一つ一つ努力しているのに、私はあの子に何もしてあげられない…」

ツーっと涙を流すマティスを抱きしめる。

子供たちの前では気丈に振る舞っているが、テルミスがライブラリアンと分かってから、あまりよく眠れていないようだ。

かくいう私もじわじわと胸に不安が膨れ眠れない時がある。

「マティス。大丈夫だ。あの子は私たちの子だ。

確かにあの子の将来は厳しい。でもきっとあの子自身の幸せを見つけてくれるはずだ。それに私たちだってまだ諦めてない。

最善を尽くすんだ。最善を。そうだろ?」

「そ…うね。あの子がまだ諦めてないのですもの。

私が泣き暮らしてはあの子に見せる顔がないわ。

メリンダから報告があったわ。怠けてしまわないようにメリンダに監督をお願いしてるのですって。まだスムーズに読めないからと音読したり、知らない単語を辞書で調べたりしているのですって。中でも算術は目を見張る速さだとか。」

「ほう。それはすごいな。」

6歳から家庭教師をつけるのは一部の高位貴族くらいだろうし、その高位貴族もカリキュラムは家庭教師がたて、子供を管理するという。

それでも逃げ出したり、わがままを言って勉強にならない子息も多いと聞く。

それなのに娘は自発的に…

すごいではないか。

スキルがライブラリアンだからなんだ。

無理矢理勉強させられ、何も自分の頭で考えることもない子より何百倍も優秀ではないか!

そうだ。まだ諦めない。

妻にも言ったばかりだ。

あの子が諦める前に私が諦めてどうする。

何か道はあるはずだ。

こんなスキル至上主義な国なんてクソ喰らえだ!

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