第3話

「テルミス、このあと時間はあるかい?」

朝食の場でお父様に聞かれました。

先日お母様から告げられた「お父様からのお話」があるに違いない。

どんな話になるのかな?

あんまりいい話ではなさそうで、気が重い。

「はい。」

「ではあとで執務室に来なさい。お前に話しておかなければならないことがある」

トボトボと執務室へ向かいます。

ちょっぴり緊張して、ふーっと息を吐く。

意を決していざ出陣!

お父様は怒っていませんでした。

けれど、悲しげで。

ますます話を聞くのが怖くなってきます。

お父様が話してくれたことは、私のスキルライブラリアンについてとそのスキルに対する世間の評価。

そして、そんなスキルを持つ令嬢の予測される人生だった。

6歳の私にもわかるようにゆっくり言葉を選びながら、真剣に話してくれた。

まずライブラリアンのスキルについては、「本が読める」以上終わりです。

ただ、そのスキルの評価というのが悪かった。


曰く

レアだが、本が読めるだけで有用性がない。

理由その1:本は図書館に行けば誰でも読める

理由その2:読めるだけで、理解ができるかどうかは本人次第。

理由その3:他人には伝えることができるが、本そのものを見せられない

→→すなわち!そんなスキルがない優秀な人の方が使える。

しかも過去ライブラリアンのスキルを持つ人の中には、自堕落な暮らし(呼びかけても反応がない、夜遅くまで本を読み日中の活動に支障が出る、暮らしがルーズになる、などなど)になる人もいたらしく、そんなこともあって世間一般のライブラリアンの立ち位置は厳しいのだとか。

端的に言えば、本ばっかり読んで使えない奴というのがライブラリアンの評価らしい。

結構評価悪いわね。

でも、自堕落な暮らしに心当たりがありすぎて何にも言えないわ。


「で、ここからが重要な話だ。ライブラリアンは役に立たない。そういう認識だから、基本的に12歳から入る王立魔法学校には入れないだろう。

入学試験でずば抜けて優秀であれば、別かもしれないがね。ただ、かなり厳しいと思うよ。それに学校では、スキルを使った模擬戦などもある。本を読むだけのスキルのお前には出来ないことが多いだろう。」

学校には行けないのか。

じゃあどうすれば…いいのか。


「そしてもう一つ。貴族の女性にとっての進路は政略結婚が普通だ。

もちろん中には女性騎士になって最後まで騎士として人生を歩むものもいる。

だが、稀だ。政略結婚の時重要な条件はわかるかい?」

「も、も、もしかして、スキル?」

「よくわかったね。政治的な立場とか、お金とかも大事だが、貴族にとって血は大事だからね。少しでも良いスキルを持つものを取り入れようとする。

そしてライブラリアンはあまり需要がないんだ。」

学校も行けない。結婚もできない。どうすれば…

今世での私はまだ6歳。

全くこの世界のことについては未知だわ。

知らないことを知ったふりするのは簡単。

でも知ったかぶりでは学べない。成長できない。行動を起こさない。

無知だと認めて教えを乞わなきゃ先には進めないと私は

知っている?

そうか。きっと前世でいろいろ失敗して学んだのね。

どんな失敗したかまでは思い出せないけど。

「お父様。教えてください。

学校も結婚も厳しいとなれば、どんな未来が考えられますか?」

「王立魔法学校は無理だね。さっきも言った通り飛び抜けていれば入学はできるだろう。けれど必要な授業をこなせないから、単位不足で結果的に卒業できない。

ただし平民が多く通う魔力の低いもの向けの学校には通えるだろう。こちらも12歳からだ。ただし魔法の授業はない。仕事は王宮で仕事するという手もある。

これだと結婚しなくても1人で生きていくだけのお金は稼げるだろう。

ただし、スキルがプラスに評価されることはないからかなり優秀でなければならない。」

「結婚は絶対したい!誰でもいい!というならできないことはない。

6歳のお前に話すことではないけれど、世の中には若い女の子なら誰でもいいという人はいるからね。けれど、父様も母様もこの道には進んでほしくない。結婚しても、相手はあまりいいお相手ではない可能性が高いからだ。貴族は政略結婚が当たり前だが、自分の娘が不幸になるとわかってる相手には大事な娘を送り出したくないからね」

思った以上に貴族人生の未来が暗かった。

なんとかしなきゃ。

でも…どうやって?


「お父様、ありがとうございます。子どもだからと嘘をついたり、適当にはぐらかさず、現実を教えてくださって。」

「本当はお前にここまで話すべきか迷ったが、厳しい状況を理解した上で、自分のこれからを考えてほしいのだ。王宮で働くことは、結婚せずに働くことでお前は肩身の狭い思いをするだろう。世間一般的には女子の幸せは結婚だと言われているからな。結婚も、お前は可愛いからもしかしたらスキル関係なくお前を愛してくださる方が見つかるかもしれない。けれど嫁ぎ先や社交界では、スキルの件でとやかく言われるだろう。今のような暮らしは無理だが、平民となって平民の家に嫁ぐのも幸せかもしれん。平民ならあまりスキルの良し悪しを結婚の条件にしないからな。

それがもし我が領内なら、マリウスの手伝いとして雇ってもらえるかもしれん。

だが、領民からの集めた税金からお前の給料を払うのだ。王宮に勤める場合と同様、しっかり勉強していなければならん。家族だからと甘い顔はしないぞ。

ただ平民の立場は低い。いざという時に自分を守る術はない。

それに貴族から平民へは簡単になれるが、平民から貴族へなるのはかなり難しいからな。父様も母様も何がお前にとって最善か…わからなかったんだ。

まだ6歳のお前にこんな現実を話してしまった父様を許しておくれ。」

「話してくださってよかったです。今はまだ私も何が最善かわかりません。

色々考えて、迷った時はまたお父様に相談してもいいでしょうか。」

「もちろんだとも」


**********


お父様と話して、自分のこれからのことばかり考えている。

お父様が勝手に私の幸せを推測って決めてしまう方でなくてよかった。

貴族は政略結婚なのだから、お父様が行けといえば、どこかの変態爺の後妻としてでも嫁がねばならない身分だというのに。

愛されているわ。わたし。

ドレイト男爵領領主としてはダメなのかもしれないけど。

父様は、「お前は可愛いから見染められるかも」と言ったけれど、この可能性は排除しなきゃね。

不細工だとは思わないけれど、どん底の状態を挽回するほどの美女でないことくらいわかる。

私のような髪も瞳も暗い女性よりもお母様のように明るい色味の女性の方が人気があるのよね。

お母様の髪はほんと素敵。

透明感あふれる明るい藤色がサラサラと肩に流れて、アメジストのような瞳もキラキラで。

ちなみにお兄様も素敵だ。

お母様譲りのサラサラヘアで、お母様よりもさらに明るくなった紫色。

もはやシルバーと言って過言でない。

お母様のお父様…つまりお爺さまが銀髪だったみたいでとても似てるんだとか。

瞳はお父様と同じダークブラウン。

ん?お父様?

お父様はくるくる癖毛のダークブラウンの髪の毛に同じくダークブラウンの瞳。

これ言うと怒られちゃうけど、大きな犬みたい。

あ、話がそれちゃったわ。

とにかく、そういうわけで白馬の王子様案は却下ね。

もちろん変態爺に嫁ぐのも嫌だから、結婚路線はなしかな。

じゃあ勉強しなきゃいけないけど…

せっかく勉強して王宮で働けるようになっても、不遇だとするとしんどいなぁ。

女子でもスキル以外で自分の立場を固める方法ってあるのかな。

容姿はどうにもならないから、やっぱり手っ取り早いのは財力かな?

あぁでも、領地のどこかでスローライフを送るのもいいのかも。

どこでもライブラリアンだから本は読めるし。

でも田舎だから仕事はないだろうなぁ。

やっぱりお兄様の手伝い?

だとしたらやっぱり勉強しなきゃ。

それに平民でも、できることならやっぱりある程度の文化レベルを保った暮らしをしたいと思う。

生まれて6年間ずっと貴族だったし、前世は貴族制がない世界だったけど、文化レベルが高かったもの。

先立つものは…お金。

6歳の私に何ができるだろうか。

いや、せっかく早めにどん底の未来がわかったのだ。

なんとかどん底から這い上がってやろうじゃないか。

まずはお金を稼ぐことと勉強だな。

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