第2話
黒髪の女の子が制服を着て歩いてる。
行く先は、職員室。
先生に退部届を出している。
あれは…わたし?
家に帰った私は、漫画を読んでる。
バスケットボールの漫画を。
漫画の主人公たちは、早朝に走り込みをしたり、部活後も残って1人シュートの練習をしたり、上手くなるために努力を惜しまない。
その時の私の気持ちを思い出した。
そうだった。
病気で何日も部活に行けなくなって、なんだか自分だけ置いてけぼりになった気がして、久しぶりに行くのはちょっと勇気が出なくて、それで1日、また1日と休んでしまった。
もともと運動音痴だったから、お荷物なんじゃないかと思っていたのもあって、気後れしているうちに、休みの期間だけが増えていって。
これでどの顔下げて復帰したらいいかわからなくなって、退部しちゃったんだ。
まぁつまりは、逃げちゃったんだよね。頑張ることから。
でも漫画の中のみんなは逃げなくて。
それを羨ましい気持ちともっと頑張っていたら…あきらめていなかったら…この子たちと同じ景色が見られたのかもしれないと後悔して。
後悔したなら、それから別のことに打ち込めばよかったのだけど、勉強も恋も、自分磨きも何もかも必死に努力することはなかったんだ。
必死に努力しているのを見られるのが恥ずかしかったし、努力してもできなかったらと思うと…ね。
結果何事にも私は8割くらいしか頑張らなくなってしまったのよね。
あの青春漫画のように努力を重ねた人にしか見えないキラキラした世界を切望しながら。
**********
目が覚めた。
今のはなんだったの?
ゆ…め?
いや夢にしてはとてもリアルで。
自然にアレが私だって思えた。
夢の私は黒髪黒目の少女。
今の私の髪はダークブロンド、瞳は一見暗めに見えるけれど本当は深い紫色だ。
だから陽の光に当たると、キラッと紫に光って見える。
重くて、暗くてパッとしないけど、光に反射する紫はちょっと気に入ってる。
色味は若干似ているが、夢の彼女は一重だった。私は二重。
目鼻立ちや肌の色も何もかも違う。
彼女の見た目も話す言葉も、住む世界も私とは違うけれど、あの子は私だと思ったの。
こういうの前世っていうのかな?
ふと喉が渇いていたのに気づいて、何か飲み物を取りに行こうとベッドからでる。
歩こうとして、フラつき物を落としてしまう。
その音でメリンダが飛んできた。
メリンダは「よかったよかった」と泣きそうになりながら、飲み物とお母様たちに目覚めたことを伝えに行った。
お母様からは案の定しっかり怒られた。
「心配かけてごめんなさい。」
「わかったならいいのよ。
もう心配させないでちょうだい。
でも今回のことでお父様からもお話がありますからね。
6歳のあなたには難しいかもしれないけれど、しっかりお父様のお話を聞いて、これからどうしたらいいか考えなさい。
わからないことや悩んだ時はいつだってお母様が話を聞いてあげるからね。」
「ありがとうございます。お母様」
あ、そっか。わたし6歳だった。
なんだか前世を夢見たからかすっかり大人だと思ってた。
いや、夢で見たのはまだ中学生くらいの時だけなんだけど、たしかに私は大人で…
いや何言ってるんだ。私は6歳だ。
なんだろう。記憶喪失の気分。
前世という位だから、きっと魂は同じなのだろう。
その魂の記憶を(1人称で)思い出したことで、あの夢の私と今の6歳の私が融合?したけど、記憶が一部分しかないから変な気分なんだ。
たぶん。そういうことよね?
まぁ、記憶がないのは前世の方だから今の人生には関係ないのだけど。
とにかく、前世の記憶は中学の一部分しかないが、私は大人だったと思う。
だってエピソードは中学生だったけど、8割しか努力しないことへの後悔はもっと大人になった私の後悔だったから。
覚えてないけど、もっといっぱいあるのかもしれない。
ううん。きっとあるはずだわ。
「もっと頑張ればよかった。諦めなければよかった。あの時ああしていれば…」っていう後悔がね。
パタン。
お母様が出て行って、1人前世について思い巡らす。
どんなに考えてみても、思い出せない。
大人になるまで生きていたなら、逆にもっと思い出になるようなシーンはいくらでもありそうなのに、なんであの時だけを思い出したんだろう?
後悔が強いから?
何事も本気になれず、中途半端な人生だったと?
あぁ。そうか。
あの漫画のように、何かに一生懸命になって、努力して、努力して、努力した先にある景色を見てみたいのか。
そんなキラキラした人生を夢見てたんだな。
せっかく後悔を思い出したのだ。
今度こそ後悔しないよう、努力してみよう。
思い出してよかった。
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