ライブラリアン〜本が読めるだけのスキルは無能ですか!?
南の月
第一章 底辺スキルの貴族令嬢
第1話
ふっと紺色の本が浮かぶ。
文庫本くらいのサイズで、カバーも何もない簡素な本だ。
本…というかノート?
「珍しい。ライブラリアンか。」
ドクン。
珍しいスキルなの!どんなすごいスキルなんだろう…
そう期待が膨らみ始めた瞬間、その期待はものすごいスピードでしぼんでしまった。
隣のお父様を見たら、明らかにショックの表情だったのだ。
よく見渡せば、ヒソヒソと話しながら笑ってる大人もいる。
あ…ダメだったんだ。私。
期待外れだったんだ。
その後目の前の鑑定士は言った。
「本が読めますよ」と。
**********
今日は私のスキル鑑定の日だった。
トリフォニア王国では、全国民が6歳になったらスキル鑑定をすることになっている。
そのためスキル鑑定をする協会は、月に一度スキル鑑定日を設けており、その日は貴族も平民もその月に生まれた6歳が集まるのだ。
ここで特別なスキルであったり、強いスキルがあることがわかると平民でも王都の魔法学園に通えたり、結婚相手を見つけるのも苦労しないんだって。
スキルさえ良ければ、どんな夢だって叶えられそうだ。
いいな。
ちなみに私が授かった"ライブラリアン"というスキルは、教会でお父様が落胆してたから…多分いいスキルじゃないんだろうな。
はぁー。残念。
でも、本読むのは好きだし…ま、いっか。
この時の私は残念すぎるスキルだと薄々は感じながら、大して深刻に捉えていなかった。
6歳だから仕方ないけどね。
**********
家に帰ってきた私は、早速本を読んでみようとした。
教会では鑑定具の補助を受けてスキルを発動させる。
鑑定具を使うのは、まだ6歳になったばかりの子が自力でスキルを発動させられることはないからだ。
子供たちは鑑定具の補助を受けて火を出したり、水を出したりする。
私は本を一瞬出しただけだった。
ちなみに何も出ない子もいる。
そういう子はジャンプしてみるとすごく高く飛べたり、植物の種を持たせると発芽したり、怪我が治せたりする。
高くジャンプ…やってみたいなぁ。
で、この鑑定具でスキルを発動させた感覚を再現することで徐々にスキルを自力で自在に発動させられるようになるのだ。
私も発動の感覚を忘れぬうちにと、スキルを発動してみる。
ぽんっと紺色の小さな本が出てきた。
よかった。できた。
中身を読んでみようっと。
ページをめくると1ページ目は何も書いてない。
その次のページには本のタイトルが10冊並ぶ。
そしてその次のページは…また空欄だった…
「本が読めます」ってたった10冊か。
残念。
何気なく、一番上のタイトルを指で追いながら読んでみる。
「は、く、り、ゅ、う、うぃ、す、ぱ、の、ち、い、さ、な、と、も、だ、ち」
ページがパラパラと勝手にめくれ、何も書いてなかったページに絵と文字が浮かぶ。
うわぁ!初めての魔法だ!しかも知らないお話だ!
ワクワクする!
お兄様に読んでもらおうっと!
もう1人で文字を読めるようになっていたけど、読むのが遅いからいっつもお兄様に読んでもらってた。
3つ上のマリウスお兄様は、とっても優秀で、カッコイイ。
しかも忙しくてもちゃんと絵本読んでくれる。
優しくて、自慢のお兄様なのだ。
「お兄様!これ読んでー!」
「こらこらテルミス。廊下を走ってはいけないよ。どれどれ。何の本かな?」
…?
あれ?お兄様固まってる。
どうしたんだろう?
「テルミス。これはテルミスのスキルかな?」
「そうなの!ライブラリアンっていうんだって。」
?
若干お兄様が暗くなった。
「そうか。テルミスはライブラリアンだったんだね。ここには何か書いてあるのかな?スキルで出した本はね…本人しか読めないんだ。だから、僕は読んであげられないんだ。ごめんね。」
え?見えないの?
「テルミスはもう文字を覚えたよね。自分で頑張って読んでいると今はゆっくりでも段々スムーズに読めるようになるから、今回は自分で頑張って読んでごらん。」
がっかりきている私にお兄様は頭をポンポンしながら慰めてくれた。
あぁ。お兄様に読んで欲しかったな。
自室に戻って、また本を開く。
読むのは遅いけど仕方ない。
「ウィスパ、は、さみし、くて…」
「お嬢様、お食事の時間ですよ」
…
「もり、の、おく、で、ひっそ、り…」
「お嬢様、そろそろお食事ですよ」
「うん。わかった。…な、いていた、とき…」
「お嬢様ー!もう皆様ダイニングでお待ちですよ。お嬢様ー」
「ちょっと待って。あとちょっと…ウィスパが、そ、ら、をみあげ、ると…」
その後、侍女のメリンダが何度も何度も呼びかけても「わかった」「あとちょっと」「ちょっとまって」「後で行く」と上の空で答えたため、最終的にお母様にしっかり叱られた。
むぅ〜。あとちょっとって言ったのに!
食後湯浴みをし、寝る準備を済ませる。
そして、ちょっとだけ、あと1ページだけ、あと30分だけ…と心の中で言い訳しながら、本の続きを読む。
どんどん夜は更けていく。
「お嬢様。起きてください!いつまで寝ているんですか!」
「…メリンダ。もうちょっと寝かして」
「もう10時ですよ」
「10時!?どうしよう!また、怒られてしまうわ!」
「旦那様は昨日のスキルの件で落ち込んでいるんだろう。今日は寝かせてあげなさい。とおっしゃっていましたよ。
だから今のうちに起きてくださいまし。
昼食にも出てこないとなるとまた奥様に怒られてしまいますよ。」
「はい…起きます。」
いつもは9時に寝るというのに、昨日は結局11時半まで起きてしまってた。
最近怒られてばかりだ。
明日からはちゃんとしよう。
…
と思っていたのだけど、次の日も、そのまた次の日もちょっとだけと読み始めては、夜更かし。
家族に心配かけている罪悪感から、メリンダに無理矢理にでも朝起こしてほしいとお願いしているため、寝坊することはなかったが、なかなか夜更かしはやめられず。
そんな暮らしが3日続き、どうなったかというと…
歩きながらうとうとして階段から落ちた。
やばい…これは絶対怒られるやつ!
これだからライブラリアンは!って言われちゃう!
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