第6話:いいかな・・・魔法使いの彼女になっても。

来ちゃいけないって行ったのに、光人は私の会社まで来ちゃった。

私のことが心配だって・・・どれだけベッタリなの?


「光人・・・そんなところに立ってないで、こっち来て」


私は部署の応接室に光人を連れて行ってソファに彼を座らせた。


「ここなら普段誰も来ないから・・・しばらくいていいから」

「ねえ、帰らないの?」


「柑菜さんがどうしても帰れっていうなら、しかたありませんけど・・・」

「そうじゃないなら柑菜さんが帰る時まで待ちます、どうせ暇ですし・・・」

「柑菜さんが私の目の届かないところにいるのは、やはり心配です」


「過保護?」

「しかたないわね・・・じゃあ、ここで待ってる?暇だよ?」

「いいです・・・待つのは苦じゃないので・・・」


「じゃあ、お仕事終わったら、一緒に帰ろう」


ああ・・・どっと疲れる・・・。


光人が私の彼氏だって認めちゃったせいで部署内でちょっとした騒ぎになった。


美田園さんにはなんか、私のこと裏切り者みたいに言われるし・・・。


「柑菜ちゃん、彼氏なんかいないって言ってたくせに・・・」

「いるじゃん・・・しかもあんなシュッとしたイケメン」

「今まで黙ってたなんて許せないっ!!」


「美田園さん・・・これには訳があるんです・・・」


で、私は光人とのことを、説明しなきゃいけなくなった。

光人が魔法使いってところだけ覗いて・・・。

もう面倒くさいったら。

それで、多少はみんな不承不承、納得してくれたみたい。


でも、年下の大西君は私に密かに好意を持っていたみたいだからショック

だったみたい。

大西君に好意を持たれてるなんて私はちっとも知らなかったけどね。


お仕事をつつがなくこなして、そろそろ退社時間ってなってセクハラ部長が

自分のディスクにまだいない?もしくは帰って来てないことに気づいた。


でもみんなが退社する時間になるまで、それまで誰ひとり気づかない。

それとも気づかないふりしてたのかな?

なんて存在感のない部長。


「あの、おっさん仕事ほったらかしてどこ行っちゃったのかしらね」

「文句言ってやろうと思ったのに・・・」


美田園さんがグチった。


「部長なんかいないほうが、いいです」

「給湯室から急にいなくなったんですよ、あのおっさん、逃げ足だけは

めっちゃ早いから・・・」


美幸ちゃんが憎たらしそうにそう言った。


「ま、いいわ・・・誰も部長になんか興味ないしね」

「明日になったら、普通におはようって顔だすでしょ」

「探すだけ時間の無駄・・・みんな帰りましょ」


だいたいは部署の中では美田園さんが仕切っていた。


「光人・・・お待たせ・・・帰ろ」

「退屈だったでしょ・・・」


「大丈夫ですよ・・・ここにあった資料読んでましたから」


みんなに挨拶してから私と光人は会社を出た。


「朝、言いそびれたんですけど・・・柑菜さん、そのスーツ・・・よく似合ってて

めちゃ可愛いです・・・中身が可愛いからでしょうね」


「え〜〜〜?、可愛い?」

「ああ・・・このスーツね・・・ありがとう」

「そんなこと言ってくれるの光人だけだよ・・・」


ちょっとした気配り・・・お世辞でもそんなこと言われると嬉しい。

だから光人のこと憎めないんだよね。


この時点で、私はライトのことが完全に好きになっていた。


迷惑な人って思ってても、それにも増して彼を好きって気持ちのほうが大きい。

少し仲良くなってもいいかな?・・・そして心に湧き上がるほのかな恋心?


まだ、照れ臭くて光人のことダーリンとは呼べないけど・・・でもダーリン。


「光人、一緒に帰りたいけど私のバイク原付だから二人乗りできないんだよね・・・光人は・・・」


「少し歩きませんか?・・・柑菜さん」


「え?ああ、そうね、いつもブヒブヒーッて帰っちゃうからたまには歩きも

いいかもね・・・」

「じゃ〜オフィス街抜けるまでね・・・」


「それにしても部長どこ行ったんだろう」


「ああ、美幸さんって人にセクハラまがいのことしてたおっさんですよね」


「そうだけど、なに?光人・・・見てたの?」


「あまりに露骨に理不尽だったのでゴキブリに変えて差し上げました」


「うそ・・・え?給湯器の壁にへばりついてたゴキブリ・・・部長なの?」


「そうですよ・・・セクハラなんてゴキブリにも劣る行為ですからね」


「そんなことして・・・大変じゃん」

「誰かがそのゴキブリ見つけて、しばき殺しちゃったらどうすんのよ」


「しばき殺すって・・・柑菜さん、そんな怖いこと普通に言うんですね」


「じゃ〜・・・じゃ〜なんて言えばいいのよ」

「ま、いいんじゃないですか、その表現で・・・間違ってないですし・・・」


「魔法は人の前じゃ使わないんじゃなかったの?」


「あの場で見て見ぬふりをするほうが魔法使いである前に人としてダメでしょ」


「それにしたってゴキブリって・・・でも部長にはピッタリよね」


「まあ、もう今頃は元の人間の姿に戻ってると思いますよ」

「時間制限かけてますから・・・」


「戻らなくていいんだよ・・・あんなセクハラおやじ・・・」

「一生ゴキブリで過ごせばいいのよ・・・どうせ来世はゴキブリなんだから」


「柑菜さん・・・」


「あ、言いすぎた・・・ごめん」


「じゃあ、あの部長さん、いずれ誰かにしばき殺されますね」


「あはは・・・そうだね、でもそれはやっぱり可哀想かな・・・部長にだって

家族はいるしね」


「でもこれで、少しは懲りたんじゃないですか?」


「なら、いいんだけど・・・」


そんな話をしながら、私たちはオフィス街を抜けた。

私は光人と別れてそのまま原付でブヒブヒーッと我が家へ帰ることに・・・。


「じゃ〜あとで、光人」


「気をつけて帰ってくださいね柑菜さん、それじゃ私は一足先に家に

帰って私の大切なハニーのお帰りをお待ちしてますから」


「はいっ、寄り道しないで安全運転で帰るからね、待っててねダーリン♡」


おしまい。

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ダーリンは魔法使い。❤︎ 不思議な恋のはじまり ❤︎ 猫野 尻尾 @amanotenshi

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