キョウガイ

 会うたび「死にたい」と言う女性がいた。それは別に構わない。人生色々ある。彼女のことを書こうと思ったが、話がヤバすぎたのでやめた。


 別の話をしよう。


 自殺防止の活動をしている僧侶の方と知り合う機会があった。あまり書いてしまうとご迷惑が掛かってしまうかもしれないので少しだけ。

 彼は全国から集まるメールや電話の相談に応じ、SOSが届けばその場所まで出向く。自身が住職を務めるお寺で命に向き合うワークショップを開催し、コロナ禍ではネット座禅などを行っていた。


 昔はバンドを組んで、出家前は古着屋を営んでいたというご住職。何度かお会いした時は私服だったが、とてもお洒落だった。話も面白く、ハンチング帽が良く似合うイケ坊主である。

 ちょっと設定貰って小説書いてしまったのは内緒。(言ってるし)

 

 私が「別に死にたい訳ではないんですけど、色々めんどくさくて消えたいと思うことはありますね」と話すと、彼は「それは面白い(興味深い)キョウガイですね」と言った。


「人がこの世に生きていく上で置かれている立場」という意味の境涯きょうがいなのか、仏教でいう所の「因果応報として各自が受ける境遇」という意味の境界きょうがいなのか。

 多分、お坊さんだから後者の意味で使ったと思うのだが、いったい自分にはどんな前世の因縁があったのだろうと、思わず考えてしまった。


 ご住職が講演会でお話していたことを抜粋しておく。


「悩むことはある意味とても重要です。それは真正面から物事を受け入れ、煮詰めていった結果だからです。だからこそ、自殺することまで悩みぬいた人間は、転ずると強いと思っています。胸を張って、堂々と力強く生きて行ける。これからもそういう人達が光を見つけ、変わっていく瞬間に立ち会っていけたらいいなと思います」


 今は付き合いを絶ってしまったその彼女も、ちゃんと光を見つけられていればいいなと思う。


つづく

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