お嬢様

 中学の時の同級生はお嬢様だった。某人間国宝の孫で、本人は無自覚だったが、明らかに周囲から浮いていた。私が言うのも難だけど。

 今でこそ、子供たちはお互いを「さん」付けで呼ぶように指導されるようだが、その時私の名前を「さん」付けで呼ぶのは彼女だけだった。


 なぜ、彼女が公立に通っていたのかは分からない。親族に対しては「様」付け。挨拶は「ごきげんよう」である。


 もしかして「ちび〇子ちゃん」の花〇くん、お嬢様バージョンだろうか。


 当時はヤンキー全盛期。田舎の公立中学校。校庭をチョッパーバイクが走り回り、先生方は竹刀で武装していた。

 授業を妨害せず大人しくさえしていれば、少しくらいサボろうが欠席しようがお咎めなしである。お陰で素行の良くないはずの私も、目立たず過ごすことが出来た。


 彼女も超マイペースだったので、お互いの登校日がズレると、会うのは2週間に一度なんてこともザラにあった。会えた時は行動を共にし、よく芸術や本について語り合った。私はBL沼と同人活動、筋肉デッサンにハマっていたので、仲良くなった彼女に大胆にも布教活動をする。


 高校からは私立の芸術コースに行った彼女だったが、その後も付き合いが続き、学園祭に招かれたことがあった。クラスの友人と打ち合わせがあり、少々忙しかったらしい彼女は、傍らに立つ人物を私の方へ押し出した。


「尾巻さん、申し訳ないけど今手が離せないの。父とお茶でも飲んでらして」


 彼女の家に遊びに行った時に、2~3度挨拶したことがある。お父様はお髭を蓄えたダンディな紳士。何がなんだか分からないうちに、私は芸術家でもあるイケオジ様と、珈琲を飲みながら小1時間ばかり談笑した。


 その時、何を話したか忘れたけど、BLと筋肉の話ではなかったことは確かだ。


 20歳の時、コンビニで偶然会った彼女は、1歳くらいの小さな女の子を抱いていた。親戚の子の子守だろうかと思っている私に、彼女は言った。


「私の娘よ。結婚はしてないの」


 お嬢様、フリーダムでございます。


つづく

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