あなたの聖地はどこですか?
生家は、とある地方都市の、桜と
春ともなれば、桜並木に花見客が集まり、出店も出て夜まで騒がしい。花に浮かれた陽気な酔漢が、我が家の敷地に入り込むことも多かった。
お祭り好きな父にはいい場所だったのかもしれないが、側溝にはゴミや汚物があふれ、夏には毛虫の雨が降る。
ある朝、玄関に向かうと、薄汚れたおじさんが土間に転がっていた。酒の匂いをプンプンさせ、一目で酔い潰れていると分かる。
幼児・鳥尾巻は、どうせいつもの父の友人のうちの誰かだと思い、手近にあった棒か何かでおじさんをつついた。
幼児につつかれたおじさん、目を覚まし、キョロキョロする。自分がどこにいるのか分からなかったのだろう。軽くパニくったおじさんは、なぜか土下座の体勢を取る。
幼児に土下座するおじさん、第一声。
「お水を一杯ください」
私は大声で母を呼び、あとは任せることにした。母も慣れたものである。後ろから見守っていると、おじさんは五体投地のように額を土間につけて平謝りしながら、ちゃっかり水を飲んで帰って行った。
我が家はおじさんの聖地であったらしい。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます