頼むからほっといてくれ

鳥尾巻

いきなりクライマックス

 このエッセイは、今まで鳥尾巻とりおかんが出会った不思議な人々を紹介していこうと思っていた。


 なのに、最初から挫折だ。どうしてくれる。


 この世に生まれ落ちる先は誰も選べない。不思議ちゃん不動のNo.1は私の父ではないか。もはや殿堂入り。

 生まれた瞬間から訳の分からない展開に巻き込まれることは必至。


 いきなりラスボス戦に駆り出されたレベルゼロの赤子は、その後も何かに惹き寄せられるように、不思議人類と出会っていくのである。


 日本にもヒッピームーブメント吹き荒れる時代。

 既存の価値観に対抗するカウンターカルチャーの一翼を担う尖った若者だった父は、素足に鉄下駄、ロン毛、奇抜なファッションに身を包み、仲間と共に毎晩飲んだくれて暮らしていた。

 外で知り合った人間を家に招き入れ、独自のコミュニティを築く。反社会的な行為をする訳ではなく、人を集めて何か面白い事やろうぜ、という感覚だったのかもしれない。

 実際、うちに集まっていたのは、芸術家の卵や政治家の卵、なんらかの志を持った人々。老若男女入り混じり、夜毎熱い討論を交わす。そこに酒が入るとさらに白熱し、我が家では毎晩カオスの宴が繰り広げられていた。


 どこまでも自由な父は、カメラ片手に興味を惹くものを追いかけ、ふらりと何ヶ月もいなくなる。

 家にずっといるか、全然姿を見かけないか。

 いつまでも少年のような人♡などと言えば聞こえはいいが、家族はわりと迷惑である。

 そんな環境、子どもに良いわけない。しかし、集まった大人達はみんな面白くて、姉と私をたくさん可愛がってくれた。

 父ではない男性に肩車された姉や私の写真が何枚も残っている。

 人見知りで内向的な子どもだったとはいえ、常に他人のいる環境で育った私は、変に人馴れしていたのである。


 ……なんてこった。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る