第八話:後輩

「あの〜葉月さん?」


「もうっ!そんな堅苦しい呼び方しないで下さい!!気楽に下の名前で呼んでいいですよ!!ってか、呼んで下さい!!」


望んでもいない放課後になった瞬間、葉月…………優梨奈はすぐに教室を訪ねてきた。そして周りが騒然とするのを気にも留めず、ずかずかと歩いてくると俺の腕を取って教室から引っ張り出したのだった。


「じゃあ……………優梨奈。一つ聞きたいことがあるんだが」


「何ですか、拓也先輩」


悪い子じゃないんだけどな。キャラクターもののピン留めがついたオレンジの短髪にクリクリとした可愛いらしい瞳、さらに小さな口も相まって全体的に小動物のような印象を受ける女の子だ。なんなら、メチャクチャ可愛い上に素直だし……………しかし、それが今回は完全に裏目に出てしまっていた。そんな可愛い子が何故か、パッとしない俺を訪ねてきたもんだから目立ってしょうがないし、正直嫉妬の視線が痛かったのだ。男子であれば、誰もが羨むこの状態を心の底から喜べなかった理由はそこにあった。そう。この葉月優梨奈には彼女の魅力を打ち消してしまう程のものがあったのである。


「何故、俺が案内する側なのに君が前を歩いているのかな?」


「…………はっ!そうでした!すみません!あまりにも嬉しくて、舞い上がっちゃったみたいで……………」


「はぁ」


「ち、ちょっと!なんでそんな冷めた目をしているんですか〜!」


「ちなみに何がそんなに嬉しいのかな?」


「その小さい子供に接するような優しい話し方をしないで下さい!!」


「でも、あの時はこういう話し方だったんだよね?」


「あの時と今とでは状況が違います!!」


「え?何が?」


「っ!?と、とにかく!!色々と違うんです!!だから、もっとありのままに話して下さい!!」


「ありのまま…………」


「そうです!もっとこう……………あっ、例えば霜月先輩に接するみたいに」


「えっ!?君って一体俺のことをどこまで知ってるの?」


「そんなのずっと遠くから観察してたので何でも知ってるに決まってるじゃないですか!!」


「いや、それストーカーだから!!………………ん?ちょっと待て。確か、すんごい身近に同じことをしている奴がいたような」


「はい。霜月先輩を商店街でコソコソと追っていた拓也先輩がまさしくそうですね。いや〜私達って似た者同士ですね!!」


「そんな似た者同士は激しく嫌だ!!ってか、俺の場合はストーカーじゃないし!!それと優梨奈、あの時見てたんだな!!」


「え?ストーカーじゃない?そんな訳ないじゃないですか。あの姿勢はプロストーカーのそれですよ。ほら、胸を張って下さい」


「そんな胸張りたくねぇよ!!だいたいな……………」


「あ、それはそうと霜月先輩をストーキングするってことはもしかして拓也先輩……………」


「は?いやいや、そんな訳ないじゃん」


「ですよね!!あ〜良かった〜……………心配して損した」


「ん?心配?」


「あ、こっちの話なんでお気になさらず」


「君、そういうのが多いね」


「ん〜そうなると何故、拓也先輩がそんな行動を取っていたのか尚更、気になります」


「別に大した理由はないんだが………………」


「え〜そんな勿体ぶらないで教えて下さいよ〜」


「君、今日会ったばかりなのに随分とグイグイくるね。あと、そのクネクネした動きやめて」


「え、今日会ったばかり?」


「い、いやっ……………あ、そうそう。まともに話すのは今日が初めてって言いたかったんだ」


「あ、そういうことですか」


「ふ〜……………そんじゃ、次の場所を案内するよ」


「は〜い」


とまぁ、終始こんな調子で優梨奈への学園案内は続いたのだった。


「葉月さん…………何であんな冴えない奴と…………」


しかし、この時の俺は気が付いていなかった。俺達のことを陰から見つめる不穏な気配があることに………………

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