第六話:イケメン
イケメンというのは生まれてきた時点で勝ち組である。特に苦労もせず、異性からチヤホヤされ、凡人が願っても叶わない告白ラッシュというものも経験する。嘘か本当か、バレンタインデーの当日なんか、チョコを貰いすぎて学園と家を何往復もしたなんて都市伝説まであるくらいだ……………まぁ、そんなこと流石にある訳ないだろと圭太は言ったが。ちなみに我が親友、睦月圭太もまたイケメンと言われる部類に属する人間である。だから、以前言ってやったのだ。
「いいよなイケメンは。人生、楽しそうで。俺らが味わう苦労なんて微塵も感じないだろ」
と。すると、圭太は珍しく真剣な顔をしながら、こう言ったのだ。
「そっちもこっちの苦労を知らないだろ…………俺だって色々とあるんだよ」
確かに相手側の立場に立たないと見えないことは多々ある。俺はその場ですぐに謝り、イケメンの苦労を色々と考えてみたのだが、その日は何も思い浮かばず終わった。そして、今日までそれは続いている。つまり、俺は未だにイケメンを羨んでいるのだ。
「はぁ…………」
何故、俺がそんなことを考えているのかというと理由は教卓に立つ一人の男子生徒にあった。名を
「みんな聞いてくれ!!」
そしてこれから、神無月の演説?が始まろうという訳だった。ちなみに不穏な空気というのは昨日、起きた"長月のビンタ事件"が原因だった。今まで誰にでも明るく優しかった長月が突如怒りながら手を上げたのだ。それはみんな困惑するだろう。現に今も遠巻きに長月を見ているだけで誰も彼女の側に近付こうとはしない。長月も長月でそれを仕方ないとでも思っているのか、ただ俯いて座っているだけだった。
「昨日の件で長月さんをそういう目で見る気持ちは分からないでもない。でも、僕達は今まで見てきたはずだ。長月さんの誰にでも明るく接するその心や人柄を……………それを思い浮かべれば、こんな空気にはならない。もう一度、思い出してみて欲しい……………彼女の今までを」
全くもって流石だ。神無月の演説はクラスメイト達の心を鷲掴みにしていたのだ。現に誰もが彼の信徒のようにうんうんと頷いている。そして、それはどうやら長月にも届いたらしい。長月もまた神無月を微動だにせず見つめている……………って、それにしても見つめすぎじゃないか?顔を上げたまま一切動いていないぞ。
「……………馬鹿馬鹿しい。こんなの一時凌ぎにしかなっていないわ。根本の問題を解決にせずに上辺だけ取り繕ったって、いつか絶対にその綻びは現れる」
「え?それって、どういうことだ?」
「……………ぷいっ」
突然、横から聞こえた声と内容に俺は思わず聞き返したのだが案の定、無視されてあらぬ方を向かれてしまった。俺は霜月の言った内容をそこまで深くは考えておらず、その意味も理解できなかった。それがまさか後に霜月の言ったことがあのような形で現れるとはこの時の俺は思いもしなかったのである。
「あれが……………如月先輩」
そして、教室の外から俺を見つめる視線があることもこの時の俺は気付きもしなかったのだった。
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