第3話 オシも押されも 前編
お兄ちゃんが王都で就職してくれた。しかも皇室専属護衛というすごいお仕事だ。
皇妃様達の側で、お美しい方々と直接お話をすることだってあるらしい。
お仕事中に知ったことは一切話せないというのは仕方ないけど、世界一カッコ良くて強いお兄ちゃんだもん。きっと皇妃様もちょっとだけときめいてくれたりしてるんじゃないかなぁ。
そう言えば、皇妃様達は元同級生がおふたりもいらっしゃるんだもんね。
誰にも知られない秘めたる恋なんてあるのかも!
キャッ! すてき!
ふふっ。そうしたら「愛の逃避行」かなんかになるのかなぁ。 あぁ~ 私、絶対にお兄ちゃんを応援しちゃうよ。
そういえば、お兄ちゃんは彼女さんとか作ったことが無いもんね。たまのお休みはお部屋にいることが多い。
私は知ってるよ。今でも、王立学園時代に使った南軍旗をとっても大切な宝物にしていること。時々、こっそり出しているみたいだけど、そんな時はそっとしておくのが妹の務めだ。妹と言えども、兄の美しい思い出を壊しちゃダメだもんね。
あの時の野外演習は今でも語り継がれる伝説の戦いだったらしい。
お兄ちゃんは、北軍の将軍と最後に戦って見せたというすごい人だ。今ではその時に北軍の将軍をしていたドーン様は皇帝直轄の広大なソロモンを差配なさっていらっしゃる方だもん。
なんてスゴイ人と戦ったんだろ。
その時の将軍が皇帝陛下なのは有名な話。きっとあの時に認められたんだよね。
やっぱりお兄ちゃんは最高だよ。きっとモテモテなのを私に見せないように苦労しているんだろうなぁ。
でも、ロウヒー公爵様が起こした叛乱は、あっちこちで影響があったみたいだ。
ほとんどの人は頑張って生活を立て直しているけど、やっぱり立ちなおれない人もいるんだよね。
実家のお隣で、子どもの頃から「お姉ちゃん」として面倒を見てくれたケイ姉ちゃんもその一人だ。
一時期は「ゴンドラ様の側室になるのよ」なんてことまで話してくれてた。期待した分だけ気持ちを入れ直すのが難しいらしい。
死んだ魚の目をして実家に閉じこもっていたらしいけど、心機一転して王都に働きに来た。そこまでは良いと思う。
働き口はたくさんあるし、ロウヒー公爵様のところで働いていたことだって、お姉ちゃんみたいに下働きをしていただけなら、他にもいっぱいいたんだもん。
問題は、ちょっと働くと、お姉ちゃん自身が「本当ならゴンドラ様の側室だったのに! 私がいるべきなのはこんな場所じゃない!」ってキレちゃう、悪い癖が付いたことだ。
私だってゴンドラ第3王子のお名前がタブーなのは知ってるよ。王都の人は空気を読んで、絶対にその名前を出さないのに。
だから、ケイ姉ちゃんは仕事を転々とすることになったらしい。
そんなお姉ちゃんと再会したのは、王都での住まいを訪ねてきてくれたからだ。
普段は王立学園の銀獅子寮に入っていても、お休みの日はお兄ちゃんのところに来るのが私の役割だ。ため込んでいるお洗濯モノも、散らかってるお部屋を片付けてあげるのも、妹の役目だもんね。
だってさ、お兄ちゃんはお給料も結構あるからお小遣いも、い~っぱいくれちゃうんだよ! 実家にいたころなら信じられないほどの金額をくれる。そんなに私を大切にしてくれるお兄ちゃんだもん。せめて身の回りのお世話くらいしないと罰が当たるよ。
だから、私はお休みの日は必ずお兄ちゃんのお部屋に行くの。あ、でも、ベッドの下だけは片付けないのはおヤクソク。
「男の子のベッドの下にはね、黒い黒い闇があるの。そこは女が触れては行けない場所よ」
お母さんからも、強気言われてきた。
私だってお年頃なんだもん。「それ」がどんなものなのかくらいは知ってるよ。金獅子寮だって3階の高位貴族のお部屋にはメイドさん達がいるんだもん。さすがに、どんなお役目なのかくらい走ってるよ。
そういう相手がいない人は、どうするのか、女子同士の秘密のお話で聞いちゃってる。
でもさ、お兄ちゃんは違うよ。
だってベッドの下には箱が置いてあるけど、そこには南軍旗がしまってあるんだもんね。他にも布がしまってあるらしいんだけど、それは詮索してない。だって普通に刺繍のされたハンカチがはいっているだけなんだもん。
さすがお兄ちゃん!
ヘンなモノなんて持ってないんだよね。大好き。
それに、お兄ちゃんのお部屋に行くのは特別感があるんだよね。だってさ、私の王立学園のこともあるから王都にお家を借りてくれたっていうか、皇帝の広大なお屋敷の敷地の中だ。そんなすごい場所に建ってるお部屋を持ってるんですよね~
な~んてすごいんだろう! さすがお兄ちゃん!
もともとはロウヒー公爵様のお屋敷だった場所だ。同じ敷地にはゴールズの家族まで住んでいて、なんだか夢みたいな場所に住んでる。
それに私が行く時なんて、ちゃんと馬車まで手配されてちゃうんだもん。お姫様にでもなった感じだ。
そんな片付けものをしている時に、ケイ姉ちゃんがやってきたんだ。
どうやらお兄ちゃんを訪ねてきたらしいけど、ちょうどその時は、お仕事で帰ってこない日だった。
そこで、一緒に遊びに行く約束をしたのは自然なこと。どうやら、人生を変える出会いがあったから、そのお裾分けに来たということらしい。
ずっと前に、ちょっと見かけたときと違って、髪の毛もちゃんとしていたし、お化粧がちょっと派手になったこと以外、普通に見えた。
あ、なんとなく「目が怖い」って感じはあるかも。笑ってるんだけど、青い目の真ん中がポッカリ空いている感じなんだよね。
でも、前に見た時は髪もボサボサ、服もボロボロだったもん。それが、今では身なりがきちんとした。
きっと良い人に出会えたんだろう。
それに、ケイ姉ちゃんに言われたら断れないし、きっと変なところにいくはずがないモンね。
って思った私を大いに責めたい。
連れて来られたのは何とも怪しい場所だった。
お姉ちゃんは頻りに言う。
「お姉ちゃんのオシなの。すっごく良い人だから。あと3人つれて行けば、ステージが『セカンドグラウンド』に上がるんですって。だから、来てくれるだけで良いから」
お姉ちゃんの目が怖いけど「オシ」ってなんだろ? どうやら、お姉ちゃんの人生を変えた人らしいんだけど。
「あのね、ステージが上がれば、私なんかにも、きっとありがとうって言ってくれるんだよ。すごいでしょ!」
どうやら、オシとか言う人は、予言とか奇跡を起こす人らしい。そのパワーを高めるために、いろいろと奇跡の力を込めた魔石とか言うモノが必要だとか。
それをたくさん集めるための
よく分からないけど、さらに聞いてびっくりしたのが、お姉ちゃんが使っている金額だ。
今月だけで
「ふふふ。大丈夫。オシがね、紹介してくれるの。お金をくれる人を。ちょっとだけ我慢していれば、い~っぱいお金をくれるオジさんがいるんだよ」
そ、それってヤバいお仕事のような……
「あ、大丈夫よ。あなたは名前を貸してくれるだけで良いの、でも、せっかくだから週に1回だけしかない
「奇跡?」
「そうよ。いろいろとあるの。予言をしてくれたり、死んじゃうような危険なコトをやっても平気だったり。神様のご加護があるんですって。それもいっぱい魔石を集めると、力が強まるってことなの。ね? オシに尽くす幸せが分かるでしょ?」
ゴメン、全然、分からないよ!
でも、そんなことも言えないし、今さら、帰れる雰囲気でもなかった。
小さめの部屋にはぎっしりと人が30人くらいは集まってる。狭いドアにはお姉ちゃんと同じように、目の真ん中が空っぽの男の人が立ってる。
これって、絶対に通してくれないヤツだよね?
どうしよ……
お兄ちゃん。私、どうしたら良いの?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
「オシ」が喜ぶためならなんでもするんだとか。新宿公園の周りにも、いっぱい女の子が立っているらしいですねっていうか、そういう人とゆっくり話したことがあるんですけど、数百万をオシのために使っても「頑張ったね」って誉められるだけなんですって。ちなみに、病気をもらうと「そこまでオレのために頑張れるなんて偉いぞ」と言ってくれるから、むしろ嬉しいと言っていました。
マジで、ヤバい世界です。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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