第64話 春一番(仮)
アモーラ神聖国王一家は、城で過ごす間にロースターの承諾を得て、アッサム山荘へと行ってもらった。
カイの城だと警備上の問題がありすぎたからだ、というのは立て前で、連日のミヨ・チセ攻撃に閉口したからだ。
そう、二人で来る。これがチセだけなら「未婚の女性と二人きりは」と簡単に退けられるのに、姉妹で来られると「マナー通り」だから口実が潰されてしまうんだ。
一応は、休養中だと発表済み。公式行事がないから、大事な客人の娘達を放置するわけにもいかないってのが立て前だ。
そりゃあ、育ちも良くて、マナーもしっかりしている、性格も良い(らしい)美少女に言い寄られるのは男として嬉しいけど、簡単に手を出せないんだよね。
だって、オレと結びついたら「アモーラ国」の権威が帝国の中に残ってしまう。しかも、今回は皇帝と結びつくのはデカい。
地方勢力ではなくて、中央の権威になりかねないという読みだ。
話をしてみると、ミチトさんの会話術は巧みで面白い。オヤジギャグが大好きだという
欠点を除けば、とても良い人だ。奥さんや長男も明るくって真面目、そして素朴な慈愛に満ちている人だから楽しく会話できる。
権威と伝統を背負い込みながら、極めて気さくな一家なんだよ。
失意の中で、父が殺されたと思ったベイクが、逃亡先で拾ってくれたこの一家に惚れ込んだのも分かる。
『どうせ、ゲールにとられた国なら、この一家をかついで占領しちまえってなっても不思議はないよなぁ』
実際のところ「逆潜入工作」をするところまで上手く行ってたんだし、サスティナブル王国では、ベイク自身のツテや権威もあるから、なおさら容易かったはずだ。
でも、実際に戻ってきてみたら、すでに王都の情勢は覆されていて、伯爵家の息子が大陸統一を目指すのだという言葉が病床の父から告げられたわけで。
そのあたりの葛藤は、ずっと後に聞いてみたいところだよね。
ともかく、今は正真正銘、オレを大陸の覇者にしようとしているのは事実。
それと同時に、この一家を野垂れ死にさせたり、市井に埋もれさせるつもりもないことは明白だった。
シレッと、ベイクは献策してきた。
「シーランダー王国を占領する上でも、そして占領してからの利用価値もあります」
いくつものパターンで、具体的な利用方法を教えてくれた。確かに上手く行く確率は高そうだ。
『お手軽に統一できちゃいそうなのがいいよね』
しかし、ここは歯を食いしばるところだ。
前王朝の中でピンポイントの権威を持っていた家を頼れば、その後も権威を保ち続けるのは目に見えているんだよ。
だから、ここは、別の方策を考える必要があったんだ。
『ホントは敵になってくれた方が、後々のためには良かったんだけどな』
単純に「叩き潰せば良い」って思えるからね。
でも、あくまでも人柄の良い、この一家を「殺せ」という命令は、人として出せないんだよなぁ。
ということで、困った時のペンディング。ザ・日本人のやり口だ。
「アッサム山荘の警備は、こっちの兵の訓練も兼ねることにしよう。いい加減な警備はアウトだよ。3週間で5回は、破ってあげて」
「かしこまりましてございます」
何かって言うと、訓練としてピーコックのみなさんに警備のスキを突いて侵入してもらって、中に落書きでもしてきてもらうってやつだ。
ピーコック隊にとっても訓練になるのは一挙両得だよ。
まあ、3回目くらいまでは、朝まで気付かないだろうなぁ。
なんだったら、警備用の水瓶に「塩」を仕掛けてくるのもアリだよね。朝、水を飲んだら塩っぱいってやつ。
「はい、これであなたは死にました~」
って言われたら、どんな顔になるんだろ?
まあ、そのあたりはベイクに丸投げしつつ、オウシュウ領には、一足早い春が訪れようとしていたんだ。
問題は山積みだけど、やっと「終わり」が見えてきた感じになったんだ。
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作者より
短くてすみません。後日、神聖国王の視点も入れて補正をするつもりです。
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