第62話 論功行賞みたいな?
カイの城の中。
執務室で、ショウがベイクと向き合っている。
「なぁ、オレって休養中だったよね?」
「はい。公式発表いたしました。全ての行事も、皇帝ご一家不在で進められるように手配り済みです」
相変わらず、手回しが良いのは、さすがベイク。
でもさ……
「さ、あとは、こっちの山だけですので」
朝から片付けてきた書類をあっちにどかして、ざざっと別の書類の山が押し寄せてくる。
「これは……」
「そろそろ、制圧戦が一段落しましたので」
「あ~ あれこれ決めるわけね」
出てきた書類は制圧戦における貴族家の論功行賞の一部だった。ロースターを始めとした主な貴族家と違って、微妙な「手柄」を主張してくる人が多すぎる。
それを一々、判別する必要があるんだけど実に手間がかかる。かといって、これを面倒くさがると後々かえって面倒なことが起きてくるから、さすがに手を抜けない。
信賞必罰が原則
な~んて言うのは簡単なんだけどね。
今回関連する貴族家当主に限っても100家近くになる。その嫡男や働きのめざましい家臣なんかも含めると、最低でも2千をこえることになる。
だから基本的に皇帝が論功行賞に関わるのは貴族家の当主のみ。あとは、そこから「下流」に向かって流れていくのは、各家に任せるというのが封建制だ。
まだまだ、中央集権にできないのも、このあたりの煩雑さがあるからだ。
しかも、今回に限って言えば「征服された貴族の功績」ってことなんで、あまり気前よく誉めるのもダメ。かと言って、帝国の占領政策に貢献したのに放置したら、せっかくのシンパ(友好派)が消えかねない。
そして、ベイクと相談した方針が二つある。
1 極力「地位」は与えないし、昇爵もロースター鎮正将軍以外はさせない。
これは旧ガバイヤ領の貴族達は公爵クラスでも領地の人口がかなり少ないことばポイントだ。サスティナブル王国の伯爵家に毛の生えたような人口規模で公爵なんかになっている。小国ならではの事情ってのもあるんだけど、将来的には帝国全体で揃える必要があるためだ。おそらく、ガバイヤの貴族は最大でも伯爵クラスにしかならないはずだ。
2 褒美と食糧援助を切り分ける。
リンクさせてしまうと、助けるべき民が助けられなくなる可能性があるからだ。褒美として食糧を多く配りますなんてことをすると、回り回って民に迷惑を掛けることになりかねないからね。
1と2を考えると、与えるものは結局「カネ」ってことになるんだけど、じゃあ、それでいいのかって話を考えてしまうんだよね。こちらの貴族派今、無償で食糧援助を受けているから、改めて「カネ」を渡すのはどう考えてもへんだ。
となると、ご褒美も限られてしまうことになる。
それで頭を悩ませて来たんだけど、やっと「答え」が見つかった。
それが「ハルバート」だったんだよ。
功績を、
Sの家にはハルバートの見本を渡して、領地内の兵士の1割までサスティナブル帝国オウシュウ領兵士として受け入れる。当然、国軍兵士になればハルバートの使い方を含めた訓練が受けられるってことだ。Sの家は領地内の兵士の分のハルバートを生産して良いよというお墨付きでもある。
Aの家にはハルバートを人数分、無償で渡す。兵士の1割を受け入れるのは同じ。 一見すると「もらえる」から、優遇されるように見えて、実は逆。領地内で生産できないということは、消耗品であるハルバートを永遠に国から渡されないとダメと言うこと。
Bの家にはハルバートを必要な数だけ有償で渡す。兵士の1割を受け入れるのは同じ。要するに「武器を売ってあげる」ということ。なお、Bの指定を受ける家を一番多くする。
Cの家のは兵士の1割を国軍に提供できる権利だけをあげる。ハルバートを使う権利は与えない。
そしてA以下の家は、ハルバートを生産できないし、Sの家も生産して良いけど他領に売るのはダメってラインを押しつける。
こうすると「褒美」っぽくない気がするだろ?
だけど、建前上は違ってくる。だって、彼らは「征服された人達」だもん。そこに武器を渡すとか、国軍の一部に編入するって言うのは、信頼の証しだよって言えるからね。
米国も占領国・日本の再軍備をお認めくださって、自衛隊の訓練までしてくれたんだよ。おかげさまで、自衛隊は何かと米軍式になった。
まあ、それは良いとして。
ハルバートを渡すため、オウシュウ内でサスティナブル帝国の「兵器工房」が立ち上がらせられて、その費用はBの家から受け取れるのが、このアイディアの裏の肝でもある。
もちろん、Bから受け取るハルバートの代金はぼったくるよ。その方がAの家の満足度が上がるからね。
そして、国軍兵士に編入した兵士は「ハルバートの使い方」を学べるよってことを喧伝しておけば「兵士を提供させつつ恩を売る」という詐欺のようなご褒美の完成だ。
ホント、人が悪いご褒美だよね。こんな悪質なシカケを誰が考えたんだろ。
「お主も、なかなかワルよのぉ」
「いえいえ。皇帝陛下には敵いません……というか、お考えになったのは陛下では?」
なんか「越後屋」と会話しているお代官様みたいになってるけど、一応、オレってお代官様よりはエライからね。
あとは、優秀な働きをしたいくつかの「家臣」に直接ご褒美を与えるとか、優秀な文官を拾い上げるだとか、細々としたことを考えていると、あっというまに、一日が終わっていくんだよ。
疲れた~ 一日中、会議だったじゃん。
えっ~と、重ねて確認するけど、オレって今「休養中」だよね?
「はい。ごゆっくりご休養ください。正直、この後、例の通信システムの件の会議が待っておりますので私はこれで失礼しますです」
あ、ベイクはもっと働くのか。じゃ、このくらいは仕方ないのかなぁ……
ん? ブラック企業の「アイツはもっと大変だから、このくらいは仕方ない」ってヤツじゃん!
でも、仕方ないか。先延ばしもできないし。
「明日は、各家が兵士を出しても良い人数の確定と、オウシュウ領軍の軍制について、お願いしますね」
にこやかに帰っていくベイクも、今ではすっかりスッキリ体型になっているわけだ。
扉を閉めたと思ったら、すぐにノック。
「どうしたの?」
「正直、テムジン達が、発見したとの至急報が入りましたです」
「おっ、とうとう来たね」
「はい。迎えの馬車は、間もなく現地に到着の予定です」
さすが。予想して馬車も手配済みとは、やるね。
「到着の予定は?」
「はい。あちらは道が整備されておりませんので。正直、到着には一週間はかかるかと思いますです」
「よし、わかった。じゃあ、来週には会えるね。君の大事な主君にね」
たちまち、頭をペコペコと下げまくるベイクだった。
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作者より
ベイク君の「スパイ」の話が明日、出てきます。
ちなみに、自国が占領して武装解除した国を再軍備させるにあたって、自国の優秀な兵器を与えて訓練までしたのが米国でした。おかげで、その後、日本はとても優秀な同盟国になりましたね。なお、自衛隊の再軍備の際、訓練やアドバイスをした米空軍の将校に日本政府は勲章を与えました。その将校は優秀でしたよ。なにしろ、太平洋戦争中の彼の立てた作戦はすごかった。「通常兵器による一回の空爆で出した、世界最悪の民間人被害を出した作戦」ですからね。ホント優秀ですよ。
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