第61話 休養宣言
ベイクが一通りの仕事を果たすのと、メリッサとメロディーのお腹が安定するまでは、皇都に帰るわけには行かないのが本当のところだ。
いや、実はもう一つあるけど、それは「待ち」が基本なんで、いつなのかはわからない。
とりあえず、テムジン達に頼んであるから、報告が来るまでは知らん顔でいい。
オレが皇都へと動けるとしたら三人を連れて(ミィルもいるよ!)4月に入ってからだろう。
それまでは溜まってる書類仕事に専念しつつ、こっちでのんびりするしかない。とりあえずやるべきコトとして両家とカーマイン家に本人とオレから手紙は書いた。軍事便の急使が先に着くのは目に見えているけど、やっぱり、こういうことはちゃんと報告しないとね。
もちろん「皇帝特権」は使うよ。これは権利であると共に義務でもある。
たとえ私信でも、いや私信だからこそ、めったやたらな人には預けられない。今回は、休暇の必要な人をゴールズから選抜して皇都へと送り出して預けたんだ。
主に妻が向こうで出産した人達。率いるのはエレファント隊のソラさんだ。留守中は副官のハンさんにお願いだよ。
きっと、ネムリッサ先生も待ってるからね。
で、預けるべき手紙をみんなに書いてたら数日かかった。
ただし「ご懐妊」の発表をいつ、どういうカタチでするのかは未定だ。皇都の情勢も絡むので、現時点でホントのことを発表するわけにもいかない。
ちょっと悩んだけど、ここは一発、サボることにした。
「皇帝は激務の疲れを癒すため、しばし休養を取られる」
有キューだよ~ たぶん。
皇帝陛下に有給休暇はないけど、代わりにいつ休んでも誰も文句を言わない。
……仕事がたまるだけだから、自分の首を絞めてるっていやぁ、そうなるだけの話た。
ともかく、皇帝はお城の中でゆっくりと過ごすよってことになった。
本当に体調が悪い時は発表できないのに、サボる時は堂々と「休養」を宣言するのってヘンな感じだよね。
当然、公式発表を貴族達が信じないのはわかりきってるけど、たとえウソでも「発表すること」自体が政治なんだよね。
ってことで、サボった日の朝の憩いって、すごく贅沢な気分だ。
酒を飲む趣味がないので朝酒とはいかないけど、メリッサの淹れてくれた紅茶をゆったりと楽しむのは最高だよ。
朝寝と朝湯はやってみた。なにしろショウ(すけ)さんなので、やるべきことはやるよ!
そして、みんなとゆっくりと起きてお散歩したり、ダンスを楽しんだり、南京玉すだれを演じてみたり。
特に、お散歩はすごく喜んでもらえた。城の中だとは言え、さすがに元王城だから広いし庭の趣向も上々だ。
海が見えるのもいい感じだよ。海風に当たるのは禁物なので、海辺のお散歩はできないけど、十分に雰囲気があるんだ。
いや~ 前世では「潮騒を聞きながらのデート」なんて考えもしなかったけど、こっちでは、とびきりの美少女が、最高の笑顔で横にいるもんね。
一方で、ここでゆったり過ごすと決めた以上、やるべきことがあった。ファントムのみなさんへの最優先指令を出したんだ。
「王城の徹底的な安全確認」
いやぁ~ 一応はチェックしたはずだったんだけどね。
改めて、その気になったら出るわ出るわ。
秘密の通路に秘密階段。壁ヌケできる隠し扉に、用途のわからない秘密のロッカー。
それと、城には盗聴装置が付きものなんだ。居室に限定したら、たいていのお部屋にはあるって言えるほどだ。(逆に、仕事関係の部屋にはないことになってる)
それはヘンな意味でなくて、メイド達からしたら四六時中ご主人様の様子をうかがっている必要があるわけで、そのためだよ。
主人の気配が感じられるように、たいていはメイドの控える場所につながる伝声管みたなものが配置されている。
ちなみに、古い言葉で「淑女の耳」なんて呼ぶこともあったらしい。
本来なら、全ての伝声管の場所を主人は知っていて、必要に応じてフタを閉じる設計になってるんだよ。逆を言えば、それを知らない人は、部屋の中の会話が筒抜けってことだ。
一応、前に調べてもらったつもりだったけど、そういうのも全部、位置から何から全部をチェックし直したわけだ。
そうしたら、古くから働いている者すら知らないシカケがいっぱいあったんだよね。
それらを一つずつ見つけては、利用するか、潰すかを決めていく。「セイフティエリア」をもう一度厳密に確認していったって感じだ。
それと、アテナを説得してオレの専属護衛をカイに交代した。もちろん、アテナには二人につきっきりになってもらうわけ。
と言っても、だいたいはオレも一緒なんで、大きな問題はない。
ベッドは特注品が入ったから、みんなで寝るよ。
妊娠初期の「夜」は御法度ですとアネットにはハッキリと宣告された。
「伽のものをご用意します」
アネットは当然のように言ってきたけど丁重に断った
だってアテナもシャオもいるから問題なし。ピンチヒッターにはミィルもいるんで。
これで喜んでもらえるよね?
ん? シャオ、何か?
「あのぉ、良かったら、たまに恭順派の貴族が紹介いたします女性も相手をなさったいただいた方がおよろしいかと存じます」
オズオズと申し出てきた。
え? ガバイヤ王国では貴族の娘にお手付きってアリなの? これ以上、側妃は増やさないつもりだけど。なにしろ、ただでさえリーゼが待ってるからね。
シャオがゆっくりと説明してきた。
「貴族の娘の場合、玉体の触れて生まれた子どもは、大切に当主の補佐として育てられます」
つまり王室とのつなぎ役として、とても重宝されるってコトらしい。一族で最も大切にされつつ、子孫を残さないお約束(平民の側室はアリなんだって)ってことらしい。
このあたりの申し出をメリッサもメロディーも苦笑いだけで、口を挟まないのが彼女達の信頼の厚さだよね。
「当然、そんなのダメだよ。第一、オレが妻でも無い女性とあれこれしていると嫌じゃないの?」
「そんなことはないです」
さすが高位貴族の娘。このあたりに「嫉妬」はないらしい。
「いえ、このままだと身体が持たないので」
ははは……
大丈夫。オレが控えれば問題なし。
え? そのジト目は! 大丈夫だよ、たぶん、うん、たまに、ちょっとだけ羽目を外しても?
「たまにですよぉ」
アテナが、珍しく釘を刺してきた。 嬉しい反面、翌日無防備状態になるのが怖いということらしい。
ともかく!
これでオール、オッケーってやつだよね。
それにしても、たとえ皇帝相手でも容赦なく「ダメなものはダメ」と言えるのがアネットの良さだよね。
本当にいい人を紹介してもらったよ。
さてと、明日も、みんなと楽しいことをしようかなっと。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
ひょっとして、ショウ君がのんびりするのって、1章以来かも!
結構ブラックな職場ですね。
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