第58話 成長と育成
育児室は土足禁止で設定してある。この世界の分厚い絨毯は数少ない北方遊牧民族との取り引きの成果で、ロウヒー家に蓄えられていたものだ。
戦いつつも、取り引きができていたという実績は、お互いの交流が不可能ではないという証明さっていうか、こんなに凄いものを作れるなら、十分に絨毯作りで暮らしていけるんでは?
とりあえず、絨毯作りについてはダイモン族に連絡を送ったよ。
さて、なんで育児室の話になったのかと言えば、どうにかこうにかフォルの抱っこに成功!!!!
やったね。
勝因は「高い高い」だった。
それも普通のヤツじゃ無い。この程度だったら、誰だってしてもらえるもんね。
「うりゃ、高い高い、パパスペシャルだ!」
高く放り上げて、キャッチ
こういう荒技は、さすがにパパじゃ無いとできないものさ。まして、将来の皇帝になる可能性があるオコチャマを放り投げる度胸がある人間なんていないよね。
最初はビックリしてたけど、すぐにキャッキャと喜んでくれた。
「ん?」
気が付いたら、養育係どころか全員が蒼白になって、今にも失神せんばかり。
「あ、えっと…… ダメ?」
すぐさま、メリッサが「お父さまが我が子をあやすのに、なんのダメがありましょう」と精一杯認めてくれた。
だけど、顔には「やめて~」って悲鳴が浮かんでるんだもん。みんなが無理やり作り出した笑顔は、オレへの信頼があったからに過ぎない。
あ、唯一、アテナだけがいつもの通りだったけど、後で聞いたら「ショウ様に万一などないと思っておりましたので」とケロッとしてる。
そりゃ、剣の達人から見て、自然落下する赤子をオレがキャッチすることなんて、それこそ「赤子の手を捻る」ようなものだとわかるわけ。
オレが絶対に抱き留めると知っているから、自然に笑えていたわけだ。
もちろん、他のみんなも、オレが落とすなんて思ってなかったはず。でも、真っ白になっちゃったのは、普段の意識の問題だってこと。
チラッと聞いたら、本当に大切に、大切に育てられているらしい。
大事にされるのはいいことだけど、このままじゃ軟弱にならない?
真っ先に浮かんだのは
『あ~なっちゃうとヤバいよね。後世の人達の迷惑にしかならないし。2世のせいでこの国をメチャメチャにするわけにはいかないもん』
子どもの教育問題については、出立前にメリッサともう一度話しておこうっと。
それさえ決めたら、とりあえず柔道の巴投げの体勢だ。
すねの部分にフォルを乗せる。オレの顔を見て「今度は何をしてくれるの?」って、ワクワクした表情だ。
「よし、いくぞ、ほれ!」
「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」
今度こそ、悲鳴が漏れた。
びよよょよ~んとフォルを空中に「蹴り上げ」て見せたからだ。綺麗な弧を描いてオレの顔の上に落ちてくるのをキャッチ。
キャキャキャ
大ウケ
そして「お姉ちゃんが楽しそう」と思ったのか、やっとサステインも「だぁ~」とハイハイで近寄ってきて手を伸ばしてきた。
もちろん、一歳児(まだなってないけど)に、空中キャッチは激し過ぎるから、始めから手を添えておいて、蹴り上げるフリして、添えている手でホイッと胸でキャッチだ。
キャッキャッキャ
ふふふ。
パパだけがしてくれる「激しい遊び」のお陰で、二人とも大満足。そして、オレも大満足。
そしてあーちゃんを抱っこしたよ。
昼は、父としては大満足。
夜は、チチとして大満足。
え? あ、ま、そういうわけで、全員が満足するまで頑張っちゃったよ。今回からバネッサも復帰だ。
……と、ともかく、こうして年明けまで過ごせたらとは思うけど、こんなことをしている間にも東では攻防戦が続いているわけで、オレばっかり和んでいられないのは確かなこと。
王宮前の広場では、ツェーンの率いるエメラルド中隊とテムジンと仲間達がビシッと並んでる。ちなみにスミレたちはこちらに残って、文化交流ということにした。
副官の位置には、すっかりお馴染みになったベイクと幕僚達。実は、ここに参加したのがノーヘルとベグ、そして野外演習の時にドーン君の配下だったエインだ。(野外演習の1番隊の隊長 第2章 第34話「野外演習 5」を参照のこと)
一年間の研修を経て、満を持しての実戦だ!
といっても、彼らには本当の「実戦」を経験させるつもりはない。その機会があれば出すかもだけど、あくまでも「機を見て」ってこと。ただ、彼らを戦争時の行政官に育成するためには、戦場の空気に触れないとダメなんだよ。
ってことで、今回のベイクの幕僚は20人ほどの大所帯。
そして、スペシャルゲストは、この人だ!
「くっ、殺せ」
はい、クッコロ、いただきました。でも、女騎士さんじゃないんだよ。
トライドン侯爵家のライザー様から泣きつかれて、様々な考慮の結果、従軍が決まったオイジュ君でーす!
例の騒動の時に「積極的に悪事に荷担しなかった」ということで、辛うじてセーフ扱いにしたのは、ライザー様からのお願いもあったから。トライドン家としては、一連の国会運営に協力した功績を全部差し出すことで、嫡男の政界復帰をねじ込んできたわけだ。
思うところが無いわけじゃ無いけど、高位貴族の息子として、幼いときから厳しい教育を受けていたことは事実だ。しかも「ギリギリのところでゲールの手下の地位から逃げ出した」というのは、ある意味で、モノを見る目もあったということ。
ってことで、ものは試しのレベルでも構わないということでここにいる。
「ま、悪いようにはしないからさ」
「今さら、オレに情けをかけるって言うのか」
「そーゆーのはいいんで。このままだと納豆が食べられなくな…… えっと、ぶつぶつ言っていると、君んところの伝統食を、毎日、一緒に食べてもらうことになるよ」
「それは、横暴だ!」
「はいはーい。ってことで、結構辛い旅になるけど、脱落無しなんで」
「分かってる」
まあ、無駄な人間を連れて行く余裕はないから、オイジュもベイクの幕僚団の一員の扱いだ。
意外とベイクは人使いが荒いから。しかも、ブラックなレベルで。それはそれで良い経験になるよね。
そして、居並ぶ100名の騎乗した部下達に向かって叫ぶ!
「諸君、次は東だ! いざ!」
おぉおお!
もちろん、家族達も見送ってくれたけど、数万人はいたんじゃないかという群衆に見送られて、オレ達は意気揚々と東へと向かったんだ。
※胡亥:秦の始皇帝の末子。宦官の計略に乗せられ二世皇帝に即位するが、最後は悲惨。
※阿斗:後の名が「劉禅」。三国志に出てくる劉備元徳の息子。宦官に囲まれて大切に育てられた結果のせいか「愚かな世継ぎ」の代名詞となる。コイツが気になったため、諸葛孔明は、歴史上有名な「
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作者より
「空中放り投げ・キャッチ高い高い」は、実際に行うと幼児の脳にダメージを与えることがあります。結構鍛え上げられた動体視力と瞬発力を持ったショウ君だから安全にできることなので、けっして、マネをしないようにお願いします。
明日が、長かった「西部編」のラストになります。
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