第53話 皇都・私邸にて
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たまにはゆっくりイチャイチャしたいショウ君ですが、久しぶりに「説明回」となっています。
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旧ロウヒー侯爵邸である「皇帝私邸」は、元の建物としても贅沢に作られていた。さらに、その立地や広さは公爵家並みかそれ以上。
だから皇都の中の立地でありながら、ゴールズの「社宅」と「団員寮」を含めた広大なモノとなっている。花が咲き並ぶ広大な庭も当然だったし、馬場や練兵場、各種の倉庫、そして外交などを行える規模の別邸まで建つほどだ。
十分な敷地の中に余裕を持って立てられた、見るからに贅沢な外装の建物を、さらに金を掛けて手直ししている。特に半ば公用にも使う別邸の方は内装まで念入りに工事を入れていた。
皇帝である以上、貴族以上の設えが必要なのだ。金を掛ければ良いと言うものではないが、金を掛けないのはもっとダメ。
そのための予算は「ショウの懐」から持ち出されているが、国家予算と別立てのため、誰に慮ること無く潤沢な予算をつぎ込めた。
なにしろ、天井知らずの値が付くオールアルミサッシである。贅沢三昧ではあるが、実はこれが自前だけに金はかかってない。
そのかわり、偶然呼び出せた図書館資料の中にあったインテリアの資料を使って、スタイリッシュで使い勝手の良い家具が製造・配置され、中の壁から天井と言った装飾もそっくり作り替えられていた。
しかも、日々進化を遂げている最中らしく、王都中の家具職人が見学の嘆願を出しているとのこと。
この邸で起きているのはデザインの刷新だった。
従来の貴族家の家具類はゴテゴテとした飾りを重視したもとなる。ちょっとしたイスひとつでも重すぎる。女性が動かす時なんて「ヨイッショ」という感じになるほどなんだよ。まあ、ちょっとやそっとじゃひっくり返らないってのは利点かもだけど、足の小指をぶつけるとムチャクチャ痛いよ!
ついでに言うと、食事の時に給仕役の人間がイスを引いてくれるのは、食事用のイスがめちゃんこ重たいという事実のためだ。
それが、イスに限らず、あらゆる家具、頭、ドアに至るまでデザインが刷新された。さすがに「アールデコ」へと一気に進化というのは無理だったが「ロココ調(18世紀頃)」程度までであれば十分に受け入れられたのである。
だから、仕上がったはずの邸内なのに、まだまだ工事が必要らしい。
しかもヘクストン(伯爵家の家宰役は息子のトンストンに譲って、最近、こっちに来て「家令」をしてくれてる。他にも家令補佐が多数いる)が教えてくれた衝撃の事実があった。
「え? 給金はいらないから働かせてくれ? それって不味くない?」
やり甲斐搾取はダメだよね。
「いえ、ここで働くと勉強になるからと。むしろ、ここで働くことが憧れらしく、なんでしたら下働きのモノにワイロまで贈って、働かせてくれと頼む者が出ております」
「え? ワイロを贈って無償で働く? 何それ」
なんだかよく分からないけど、ともかく、職人としても勉強になるというのと「皇帝のお屋敷で働いた」と自慢するのが流行っているらしい。
「はい。職人に限らず、こちらで働きたがる民が多いため、全力で身元調査を行ってから、できる限り受け入れております」
女性に大人気なのは花壇の手入れで、男性に大人気なのは庭の整備らしい。どちらも、時折、妻達の誰かが散歩するところを見かける事があるからだって。
横に座ってるメリッサが「以前お手紙にも書きましたが」と付け加えてきた。
「記念に渡しているのが、これです」
そこにあるのは、上質紙に印刷された見事な「絵」だった。
中央には五弁の花びらを持ったアルペンブルーの花の絵と日付を入れられるようになっていて「皇帝奉仕作業記念」という言葉がタイトルになっていた。
「絵は、恥ずかしながら私が描きました。この花が意味するのは『誠実』と『感謝』なので、ふさわしいかと」
「上手だね、さすがぁ!」
「恐れ入ります」
硬い言葉で返しながらも、目元がポッと赤くなって嬉しそう。このあたりが可愛いんだよね。超優秀なのに初恋中の中学生みたいに反応してくれるところ。
「それにしても、上手く作ったね」
実物を見るのは初めてだったけど、この件はメリッサから聞かされていた。皇都の民は「我らが皇帝陛下に何かを捧げたい」という気持ちが大きいらしい。
こういう気持ちを無視するのは逆に不味い場合があって、適度に発揮してもらえるなら、圧倒的なプラスが大きい。
前世でも皇居の庭を掃除したり花を植えたりする「皇居勤労奉仕隊」は、地味に人気があって常に枠がいっぱいだったほど。
そう言う話をしたことなんて無かったのに、民の気持ちを考えつつ提案してくれたメリッサに感謝だよ。さすがだよね。しかも、こんなお土産まで渡してる。名前も書かれているけど、これはさすがに担当者が記入しているんだって。
紙と印刷の両方を備えて偽造するなんて不可能だから、現在、これを持っている人は皇帝陛下の民として善良だって保証にもなる。
こんな「お土産」をもらったら、たしかに一般人は嬉しいだろうね。
「ありがとう。すっごくいいね」
「それにメロディーが提案してくれたのは、私たちが代わりばんこでお散歩することなんです」
「え? 散歩…… あ! そうか。彼らは自然な形で王の妻をこの目で見られるんだ」
「もちろん、十分に身元も調査しておりますし、さりげなく護衛の騎士や影も付けてあります。あ、子どもたちは、奉仕の方々が入る日は念のためにセイフティエリアだけにしております」
セイフティエリアとは中庭のようになっていて、王家の影と我が家が個人的に付けているボディガード達が濃密な安全地帯にしてある場所だ。
芝生と美しい花を植えた一角で、子どもたちは自由に外で遊べないと、だからね。
よく考えられているなぁ。感心しか無いよ。やっぱり頼りになる妻さ。
皇帝私邸の中だけに、こういうボランティアを入れる部分と、家族が住んで落ち着けるようになる場所とをクッキリと分けることや、その安全のためにしていることを、オレも真っ先に確かめてある。
完璧だった。
むしろ、こういうのはオレよりも、子どもの頃から公爵家の庇護を受けてきたメリッサやメロディーの方が上だった。
邸内を見れば、育児室が何室もある。
採光と換気、そして安全面を完璧に考えてある設計だ。このあたりのデザインと機能性は、デザインを主にバネッサが、機能面はニアとミネルバとが共同で考えてくれたらしい。
ちなみにクリスとリーゼは完全に仲良し、と言うかお姉ちゃん的存在になっているらしい。あれ? 兄の子どもに対してなら、本来は「甥、姪」のはずだけど、その部分は完全に投げ捨てているわけか。
なんか五年後くらいに混乱しそうな気もするけど、ま、それまでに2人ももっと大人になるから大丈夫かな?
ミィルは「いつかの西の男爵家の子も呼びますか?」と、なぜか小さく囁いてくれちゃったけど遠慮しておいた。
彼女の問題は、残念ながら今すぐどうにかできるとは思えないからね。中途半端なことをすると、必ず後でヘンなことになるから、とりあえずそっと見守っておいてもらう。
そして、真っ先に邸内の安全を確かめたアテナからの申し出があった。
そのアドバイスを入れて、カイに命じたのは伯爵領へのお使いだ。
実験農場への特別下賜金を持っていく役で、オレが東行する時に拾うから、その時まで現地とその周辺で風光明媚な場所や街中を視察せよという皇帝命令だった。
ふふふ。
メグさんは、普段は実験農場に一緒に住んでいるけど、小さな小さなお家を横に建てている(まあ、命じたのはオレだけど)ので「そこを拠点として活動せよ」という命令も同時に出しているよ。
あ、もちろん、オレの久しぶりにみんなと甘い夜を過ごしたからね!
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作者より
メグは、カイの暮らしていた実験農場にいます。磨いた料理の腕で子どもたちを虜にし、女の子達にレシピを教えて、とても喜ばれ、慕われています。
小さな家が完成したのはカイが出立してからですから、メグとカイが「自宅」で過ごすのは、初めてと言うことになります。事実上の新婚家庭ですね。
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