第62話 二人の父として
「ね? ショウ君。我慢だよ?」
控え室では、久しぶりにバネッサが「お姉ちゃんモード」を発動中だ。
「そりゃ、今日はせっかくの誕生日パーティーだもん。ヘソを曲げたりはしないよ。でも、限度ってものがあるよね」
「みんな嬉しいんだよ。特にお世継ぎの誕生だもの。フォルのことだって、お祝いしてくれるんだしさ」
ムチャクチャ怒っているオレとしては、まさか八つ当たりはできないし、かと言って怒りをぶつける先に困っていてやるせない。
国中がひっくり返りそうな勢いだ。いや、王都に限ればひっくり返っていると言って良い。
あらゆる商店が「ご誕生セール」をやってる。これは、まだ良い。何かと理由を付けて街行く人々にエールやワインあるいは菓子を振る舞う、これも良いだろう。
貧しい子どもたちは商店からお金をもらって、あらゆる場所で花びらを撒いている。むしろ、それは微笑ましいとすら思う。
民が、何かをキッカケにしてお祭り騒ぎをしたい。そこに水を差すつもりはこれっぽちも無かった。
去年、フォルが生まれたときだって大騒ぎしていたんだ。似たようなものだ。多少ともそれが行き過ぎても、文化として「男の子」とか「跡継ぎ」を重く見るのは仕方のないことだと思えば良い。
しかし、貴族達があからさますぎるんだよ。
「いくらなんでも、フォルと格差を付けるとか、無いから」
手元には、各貴族家から届いた贈り物の膨大なリストがあった。フォルの分とサステインの分と分けてあるんだけど、あまりにも差が大きい家が多数見受けられるんだ。その中身が
そりゃ「跡継ぎ誕生」の意味は分かるし、慣習としてどうしようもないんだけど、なんだかフォルのことがないがしろにされる気がして、すっごく腹が立ってしょうがない。
顔に出さないのが無理な水準になったから、オレはパーティーの開始ギリギリまで顔を出さないようにしているほどだ。
メリッサが静かに入って来た。
「ショウ様、まもなくパーティーが始まりますわ」
「うん。分かってるんだけどさ」
「差し出がましいですが、演出を変えてはいかがでしょうか? 普通ならば、ショウ様がエスコートされたバネッサ様の腕にフォルなのですけど」
メリッサがイタズラな笑みを浮かべたんだ。こんな時の提案は乗ってみた方が楽しくなるのは、もうわかっていることだ。
「どうするんだい?」
そう聞き返したときには、メリッサの提案で行こうって、思ってたんだ。
・・・・・・・・・・・
上席儀典官の呼び出しの後、オレとフォルはバネッサをエスコート。
第一夫人であるメリッサを従えて入室した。
こういう時は、一斉に拍手で迎えるのが恒例だ。
一斉の礼をされた後、おもむろに挨拶を始めた。
集まった貴族家当主、その夫人達の視線は、オレの腕の中でニコニコとしているフォルに集まっている。
娘の頬にチュッとキスをしてから「我が第一子のために、みなが集まってくれたことに感謝する。今日はまことに佳き日である。我が家にとっても、そして、偉大なるサスティナブル王国のためにも佳き日だと言わせてもらう」と、みんなの視線を楽しんでいるオレだ。
異様な視線を受ける理由は、オレが娘を抱いているからだ。
こういう場合、バネッサが抱えて、オレの斜め後ろを歩くという仕来りを完全に無視しているわけ。誕生日パーティーで父親の腕に抱かれてお披露目される「娘」というのは、貴族達にとっては仰天する光景なんだ。
「ご覧の通り、娘は私の腕の中にいる。サスティナブル王国の繁栄は永遠であっても、習慣は時に変わっても良いと私は思う。息子も大事であるが、私にとっての第一子はフォルトゥーナであることを忘れてほしくないのだ。私は最初の子どもの立場を尊重していく。みなはけっして、それを忘れないでいただきたい」
シーンとなった。
オレの言葉に重大な謎かけが含まれていることに気付いている人もいるのかも。
そこからひとくだり、いかにフォルが可愛いか、親馬鹿ネタで笑わせてから、話を戻す。
「我が国は限り無く続いてく。しかし、いろいろな慣習について、その時々で変わることがあっても良いと私は考えていると先ほど述べたわけだが、中でも、娘と息子という、とても大切で大いなる存在を得た私は、これから、大いなる責任も果たすべきだと思うのだ」
にっこり笑って、少し大げさなジェスチャーでティーチテリエー様にむかって「そうですよね?」と問いかけてみせる。
大いに頷いてみせる姿に周囲は笑顔になっているが、察しの良い人間は、顔が緊張感で引きつり始めている。
そうなんだよ。二つを手に入れて、責任ができたんだよ、オレは。
「大事な我が娘の誕生日パーティーだからこそ、みなに大事な話を伝えたい。これからも、我が子は増えていくことになる」
ここまで言うと、シーンとなったというよりも異様な緊迫感が兆している。さすがに、さっきの暗喩が何かを考えない人間はいないのだろう。
「私の国王代理という立場は、今までと変わるものでは無いのだが」
大嘘でーす。もちろん、聞いている方もわかってるね。
「それぞれに責任ができてしまった私は、皆の前で名乗るべき名前もこれまでとは少々変えようと思う。もちろん、ゴールズの首領であることは変わらないのであるが、サスティナブル王国でも、そしてアマンダ王国でも統一した名乗りが必要であると考えたのだ」
統一した名乗り、と言う言葉で、今度は一斉に「?」が上がったんだ。おそらく、オレが「王」を名乗ると思っていたのだろう。
「これから、私は大陸統一を目指す」
一同から「おお!」という賛嘆の声が漏れ、一瞬遅れて万雷の拍手に変わった。
フォルがちょっとビックリしたみたいだけど、オレと目を見つめ合ったら、収まってくれた。うん。賢い娘だよ。
「今後我が国は、サスティナブル王国を元に、現在、この大陸にある他の国々をも統べる存在と変わる。すなわち、それを『帝国』と呼び、私は、その帝国の最初の舵取りを全力を持って行う所存である」
帝国……
耳慣れぬ言葉に、戸惑いが広がる。ここでたたみかけるよ。
「私はエターナルという家門を立て、ゴールズ首領ショウであると同時に『ライアン皇帝』と名乗らせていただく。我が国の永遠なる繁栄も背負いながら、他の国々もみな我が子のように大切にまとめ上げるつもりである。諸君、私に力を貸してくれたまえ」
その瞬間、侯爵家が並んだ一角から「ショウ・ライアン=エターナル皇帝、ばんざーい!」という声が上がった。
一拍遅れて。会場中から「ライアン皇帝に忠誠を!」という声があがり「フォルトゥーナ皇女様、ばんざーい!」と言う声が混ざったのは仕込みのお陰だ。
サスティナブル王国は不滅だ。ただしサスティナブル帝国の中核としてだけどね。
と、みなに手を振りながら考えているオレだった。
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作者より
ずっと、ずっと、考えて参りましたが。複数の国の国王代理となったことで、サスティナブル王国を尊重しつつ、全ての国の「親」である存在というポジションを取ることが可能になったわけで、これを歴史上、帝国と言うカタチで呼ぶことができるわけです。戦国七国の覇者となった秦のように。
サスティナブル王国を帝国呼びするのは、まだ先ですが「皇帝」の名称を使っていくことになります。
次話から、新章「帝国編」をお届けします。
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