第55話 降伏勧告

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作者より

今回は、北方遊牧民族が出てきまして、またまた残虐行為があります。苦手な方は途中に断りを入れていますので、次の◇◇◇◇◇まで跳んでください。

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 サスティナブル王国でデビュタントが行われていた頃、アマンダ王国の都グラのはるか北の町「シベ」では枢機卿会議が開催されようとしていた。


 その200キロ先には、聖騎士団の選抜部隊と、第1から第3教区からの志願兵達が、王国防衛のために決戦に臨もうとしていた。


 距離の関係でローディングに間に合わなかったという後悔があったのか、志願兵達が予想の倍以上も集まったことに枢機卿達の気持ちがいっそう高まった。


 これこそ、神の思し召しだ。


 結果的に集まったのは、聖騎士団の騎馬2千と8千の志願兵となった。これだけの組み合わせは、小国並みの戦力である。


 一人ずつが、神に命を捧げ、我が身よりも神の御心のままに働くことを喜びとする兵ばかりであるから、枢機卿会議の面々は、勝てはしないまでも、相手が南下を思いとどまるような戦いとなることを予想していた。



第1教区のエブリー・イーチは、薄くなった銀髪を頻りにかき上げながら言った。


「我が教区の志願者は、その厚い信仰心という点で、王国一ですからな。全滅するまでに、相手の半分は道連れにするでしょう。


第2教区のトマス・ワラジーは、クセなのか、ホンの一瞬だけ瞑目して短い祈りを捧げてから、言った。


「信仰心に順位など付けても仕方がないでしょう。しかしながら、異教徒の蛮族を許さないという点で第2教区の信者達は、驚くほどに強い意識を持っております。敵が1万の騎馬で襲ってくるなら、少なくとも一人10殺、すなわち5000の騎馬を倒すに違いありません。それこそ、刀が折れれば腕で、腕が折れれば歯をもって、異教徒どもを抹殺するに違いありませんぞ」


二人の強気の発言を聞いていた第3教区のシュワール・マゼランは、穏やかな笑みを見せながら、会議室全体に穏やかな表情で語りかける。


「我が教区は長らくサスティナブル王国との国境を接して参りました。かつては軍に所属した者も多い。ローディングによって、若い層がごっそりと抜けたとは言え、逆にベテランが多く残っております。彼らなら闇雲に戦って、ただ勝てば良いと考えることはしないでしょう」

「ただ勝てば良いなどと、私は言っておりませんぞ」


 エブリーがムッとしたように言葉を返した。


「失礼。いささか言葉を端折ってしまうのが悪いクセでしてな」


 禿頭を右手でペシペシと叩きながら「かくなる上は、坊主刈りになってお詫びしようではないですか」と笑顔になる。


 ハゲネタは、マゼランにとっての持ちネタなのである。


 ここで、怒って見せるのは大人げないというモノ。


「それで、尊師あなたは、何か言いかけましたが?」

「恐縮です、エブリーどの。この金柑頭が申し上げたいということはですね、異教徒の死には、制裁が付きものであるべきだろうと言うことなのです」

「制裁?」

「聞くところによれば、異教徒の兵士達の後ろには数万の家族が付いてきているらしい。聖なる我が国を荒らす異教徒には天罰が必要なのです。そのためには異教徒戦士だけではなく、その家族をできる限り凄惨なやり方で命を奪ってやることこそが慈悲だと信じております。ただし、人数はあちらの方が多いのですから、最初の1ヶ月で3万首ほどは野ざらしにしてやる必要があるだろうということなのですよ」


 そこに第5教区のピウス・ニュルリベルクが「残念ながら北の3教区以外は、志願兵も僧兵も間に合いませんでしたが、もう少し兵が整うまで南で待つ方法もあったのではないかと思いますが」と控えめな口調で言った。


「それは弱気すぎますぞ! たとえ、全滅したとしても、蛮族には死を! 先ほどの一人10殺は無理だとしても、一人が一人を殺して全滅すれば、さすがに向こうも諦めるでしょう。我々は蛮族の全滅など必要ないのですから、一刻も早く脅威を解消するためにも、蛮族に痛みを与えることが優先なのですぞ! そのために、神に命を捧げる者達を惜しむべきではないのだ!」


 エブリー・イーチの口調は激しかった。


 エルメスとの会談によって「国教化」を引き出した手柄は自分になるという興奮が、戦いなど知らぬこの男を猛らせていたのだ。


「まあ、まあ。我々も共通認識として、今回の防衛が今後のためにも重要であるということは持っているわけです。ともかく、用心に越したことはありません。そろそろ戦端が開かれた頃です。結果が出るまでには二週間も掛かりましょう。それまで、このシベの街の防衛を考えておきましょう。もちろん、用心のためですぞ? はぐれた蛮族が流れてくるや知れませんからな」


 そんなことを語って見せた後、ほほほほ、と怪鳥ような甲高い声で笑ったのは、新たに中央司祭として任ぜられたウェルパン2世であった。


 長く伸ばした黒髪と言い、細いあごと言い、スラッとした立ち姿を含めて、年は50を越えているはずなのに、え?と驚くほどの「美貌」を誇る。


 おかげで、密かに付いたあだ名は「妖怪司教」である。


 以前から「グレーヌ教の教理については最優秀」という評価を受けながら、世俗との交じらいを嫌ったがゆえに中央に来られなかった男である…… いや、たぶん、男のはずだ。


「グレーヌの歴史において、教団の大きな前進の前には必ず、我々の神を信じる心が試される場面が起きてきました。それを考えておかないと、我々は大きく道を誤ることになるでしょう」


 静かに、けれども断定的な口調は、まさに予言の趣すら感じさせる言葉だ。


 そして、妖怪司教の言葉は、その一週間後に現実のものとなったのである。


 シベの街に一頭の騎馬がヨロヨロとたどり着き、乗せられていた男は、門をくぐるなり死んだのであった。


◇◇◇◇◇残酷表現があります◇◇◇◇◇



 男は目を潰され、口を縫われ、全ての歯が抜かれていた。全身に激烈な拷問の跡が残り、腕も足もボロボロに傷つき、一糸まとわぬ姿であった。


 とは言え、背中以外は全てが血で赤く濡れていたため、まるで赤いペンキか何かを浴びたかのようであった。


 唯一、傷が無かった背中には、文字が大きくいたのである。


 その文字は、遊牧民族が使う独特の言葉だ。


 すぐに言葉が分かる者が呼ばれた。


「おまえ達は弱い。山に土産を置いた。見に来い」


 訳した男は、そこまでをどうにか「読み上げた」後で激しく吐いた。


 そして、虚ろな目になりながら、どうにか言葉を付け足した。


「おおむね、そのような意味ではないかと。それで、このあたりで山と言えば、テンジン山という小さいけれどもテーブルの形をした山のことではないかと思う」


 シベから北に10キロほどの低山だが、大地に置いたちゃぶ台のようなカタチで有名らしい。


 すぐに僧兵による斥候を出した。20人ほどだ。


 ほどなくして帰ってきた斥候達は、一様に顔を真っ白にして、立てないほどにフラフラになっていた。


 極端に言葉が重くなった者達から無理やりに聞きだした内容は恐るべき事態だった。


 たった一騎で帰された騎馬に乗った男はただの「見本」に過ぎなかったのだ。


 凄惨な光景であったという。


 切り落とされた首が、まるで人形遊びの時に癇癪を起こした幼児がバラバラにしたときのように、いや、もっと悪質で邪悪な何かが悪意を持って人をオモチャにしたかのように、あちこちを縫われ、時に切り落とされた身体を囓った状態で並べられていたのであった。


 その数は、およそ1万であろう。


 すなわち、送り出した騎馬も志願兵も全滅という現実であったのだ。



◇◇◇◇◇残酷描写終わり◇◇◇◇◇



 報告を聞いた枢機卿達が大騒動となり、逃げ出すべく慌てて荷物をまとめようとしたときに、シベの外壁に設置した物見櫓から「敵の影あり!」の半鐘が鳴らされたのである。

 

 取り囲んだ残虐なる異教徒どもは、およそ1万。


 一人の男が進み出てきて、大声で告げた。


「即座に開城し、我らの支配を受け入れよ。おまえ達がどんな神を信じても我らは許すことは約束する。しかし、一度でも抵抗すれば、あるいは一人でも逃げ出せば、街にいる者を一人残らず、にしてやる」


 回答の期限は明朝の日の出である。


 枢機卿達は、真っ青になって話し合ったのである。



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作者より

モンゴル軍が世界を席巻したときも、街にやってきて最初にやるのは降伏勧告だったそうです。すぐに降伏すると、案外と自治を寛大に許す代わりに、その後の戦いに軍事力の提供をさせ、騎馬が苦手とする城攻めに「人員の被害を無視して」使ったそうです。

もちろん、一度でも抵抗したら、徹底的に破壊するのも慣例です。

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