第46話 まさかのダメ出し!
オレとアテナはティーチテリエー様と向き合って座っていた。
いつのまにかヨク城に、狭いながらも「公爵夫人」の私室みたいな部屋ができあがっているのにはビックリ。いろいろな私物が置かれているのは、あらかじめ大勢の侍女達と泊まり込んでいたかららしい。
どんだけ、今回の戦いを楽しみにしていたんだよ、とちょっと引いた。
全般的にはご満足いただけたみたいで、ニコニコ顔。
「これなら、そうねぇ…… 『ティー』だとエル君が怒っちゃうから、ティーくらいの呼び方、許しちゃおうかしら」
ふふふっと、イタズラっぽく笑うけど、それ、同じ「ティー」ですよね?
どうやら分かっていて言ってるのだろう。横にいるアテナも「もぉ~」と、手に負えない様子だ。
明らかに面白がっていた。
ただ、一つ重要なことがある。それは、オレに対する絶対的な信頼がない限り、いくら武勇があったとしても、女性の身でこんな戦場に来るわけがないということだ。
それに、連れてきている侍女達だって30人以上いる。この子たちの身の安全だって当然考えるはずだ。
だから、今回の行動のキモはティーチテリエー様の「ガーネット家は全面的にショウ閣下を支持します」という意志を身体で証明して見せたって所にあるんだと思う。
もちろん、イタズラ心が有り余っているのも本当なのが、困るところ。
そして、戦闘についてあれこれ質問されまくったあげく「作戦については、何かを申し上げられる立場ではありませんが、でも、あれだけはいただけませんわ」と言い始めた。
「え? 何かありましたっけ?」
「最後の部分です」
「やっぱり決闘をしたのはやり過ぎでしたかね?」
本来、圧倒的な勝利の状態で大将が危ない橋を渡るのは下策中の下策なのは承知の上だった。
ただ、戦場で「誰」に討たせるのかは頭を悩ますところで、結論としては、公の場でオレが討ち果たすべきだと思ったんだ。
王都に連れ帰れば、裁判やら何やらで面倒くさそうだし、戦場で誰かに切らせたら、その人が残党に付け狙われる可能性が十分にあるからね。「主君の仇」を十年以上にもわたって果たそうとするなんてことは歴史的に珍しい話ではない。
その意味で
全員の見てる前で、オレが切れば(実際には槍で突いたんだけど)問題なし。
ただ、あの時ちょっとビックリしたのは、思った以上にロウヒー侯爵が家臣からの忠誠を集めていたこと。
領主の身体が馬から崩れ落ちた時に(「馬から落馬したときに」とは言わないよw)涙した騎士達がそこかしこに。しかも、それで剣や槍を手放してくれた人が大部分。
オレからしたら、その後の戦闘も降伏勧告の手間も省けちゃったわけで、あの決闘はちょーお買い得だったんだ。
でも、やっぱり軽率だったかなぁ。
ティーチテリエー様は、ふふふん、とアテナそっくりな笑顔で得意そうに言った。
「決闘なさったことは理解できますし、さすが閣下だと思いましたわ」
「いけないのは場所ですか?」
「いえ。そうではありません。戦い方です。ほら、一撃で倒されましたよね?」
「はい。油断をしたら何が起きるか分かりませんので」
「あそこは、二回ほど相手の攻撃を受け止めてからの方が盛り上がりましたわ」
ティーチテリエー様に、まさかのダメ出しを食らった! 演出不足?
「敵のトップとの一騎打ちは、確かに良いアイディアだと思いました。でも、それをするなら徹底的に盛り上げるべきです。一回くらいは、痛くないように打たせるくらいは見せて、一同をハラハラさせてみせるくらいの気概をお持ちになってはいかがでしょうか」
「え~ さすがに、それは舐めプ…… あまり思い上がったこともできませんので」
「それはご自分の力量を見定めていらっしゃらないからです。赤子が打ち掛かってきたとして、本気で防いでみせる大人はいませんわ」
「そ、そんなことは」
そこにアテナが参戦。
「所有者様なら、あの程度の小者など、千回戦っても千回とも勝ちますわ」
「ティーチテリエー様のみならず、アテナまで」
「ショウ様? 『ティーチテリエー』ですわ。それともやはり『ティー』が良いのかしら?」
「あっ、は、はい」
ティーチテリエーに「様」を付けるかどうか、まだ自分の中では揺れ続けてる。公式には呼び捨てと「エルメス夫人」あたりが無難なんだろうけど、やはり気分の問題は大きい。
雀百まで踊り忘れず
伯爵の息子13で貧乏性忘れず ってことだ。
ははは。全然、韻も踏んでないぜ。
などと考えているうちに「お説教」が終わった。公式にはオレが上の立場なんだけど、こうしてプライベートな場だと「アテナの母」ってこともあって、やっぱり頭が上がらないんだよね。
ただ、ティーチテリエー様のダメ出しは不思議と気分が良かった。全面的な賛美というか「信頼の証し」という風情があって、心から誇らしくなってしまうんだよね。
「もっと、自分を認めなさい」って言われているみたいな気がして、嬉しくなった。アテナと言い、母子して無条件でオレのことを信じてくれてるんだもんなぁ。
ついでに、アマンダ王国について、オレの情報とガーネット家としてティーチテリエー様に入っている情報とを付き合わせて、意見交換を集中して行っておく。
このあたりは、家中の問題も絡むので、二人きりで(モチ、アテナも横にいるから三人だけど)話す時間が取れたのは良かった。
ゆっくりと話を終えた時には、とっくに日が暮れていた。
大雑把に言えば、騎士団の5千人のウチ、死者500、捕虜3600 うち重症者(おそらくそのまま死者になる人)1600。つまり純粋な捕虜は2000となっていた。
この2千人の半分くらいは、ロウヒー侯爵が討ち取られた姿を見て槍を手放した人達だ。
歩兵に至っては死者2000、捕虜2800 うち重症者500。純粋な捕虜は2300ほど。
ほぼほぼ、パーフェクトと言って良い。
こちらの被害は、ライオン隊をはじめ、無傷とは言えなかったけど、死者が一ケタで収まったのだから御の字だよ。
哀しいけど、戦場の現実として「死傷者ゼロ」はありえないから、一ケタの死者で3倍の敵を野戦で破って、半分近くを倒して、残りは捕虜にしたって感じなわけだから、これで気分が高揚しない軍隊なんてない。
酒は禁じてあるけれど、歩哨以外が騒ぐのは認めたから、あちこちで、浮かれた声が聞こえてくるのは当然のことだった。
一方で、少数ながらも逃げた兵士がいる。こいつらは山賊化することがあるので、丁寧に「お掃除」が必要だ。
王都から国軍歩兵と近衛騎士団を呼び寄せて長期で任務を与えることにした。この「近衛に任務を与える」という点が重要だった。
彼らは王族の最後の藩屏となるのが役目だ。
それを「民のためにはとても重要だけれど、本来は近衛の仕事ではなかった任務」を与えることで、立場を内外に示す役目があるんだ。
たとえ、ロウヒー家騎士団とは言っても、落ち武者となった状態なら、元々は有能な人が多い近衛だけに十分に対応できるはずだもんね。
それやこれやの後片付けをして、オレ達は王都へと戻ってきたんだ。
前触れは、十分にさせておいたから、王都の民の出迎えは、大商人達がスポンサーとなったお陰で、かつて無いほど派手になったのは言うまでも無かった。
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作者より
人類は、大規模な戦闘を行うと、必ず「戦場のお掃除」をしてきました。遺体を埋葬し、装備品をナイナイして、元通りにしていきます。
今回は、馬防柵などを片付けるのと同時に「超高額商品」となるアルミサッシが多数ハマっているビルがあったため、ブロンクス君が呼ばれています。人手は、一部の捕虜のみなさんに協力してもらいました。
食事や給金などの適切な対価を払ったためか、それほど大きな混乱はなかったようですっていうか「待遇がこんなに良いものなのか?」とビックリしていたようです。
「元々が同国民だから捕虜を荒く扱うのはデメリットばかりでメリットがないよ」ってことが、ショウ閣下より徹底されていました。
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