第34話 後世の歴史家によるまとめ

 後世の歴史家達は、この時期のサスティナブル王国の置かれた状態について最大公約数的にまとめると、次のようになるとしている。


【王国を取り巻く状態】

1 東

 ガバイヤ王国は、長雨のせいで「根腐れ病」の畑が続出し、食糧危機に陥っていた。翌年の収穫期までの食糧として決定的に不足している状態である。よって、それまでの歴史を繰り返すように、食糧の確保という差し迫った要求によりサスティナブル王国侵攻への必然性が顕在化していたこと。


2 西

 アマンダ王国は冷害の影響が比較的という言葉付きであったが少なかった。これはサスティナブル王国の情報をエルメスが活用することで「最悪の状態」を防いだことによる。しかしながら、宗教勢力の押さえ込みに神経を使わざるを得ないこと。また、敗戦による領土割譲に伴い、領地を取り上げられた不平貴族達の動向も不安定材料となっていたこと。


3 南

 シーランダー王国が事実上2万の兵を喪い、帰還兵には厭戦気分が蔓延しつつあった。また、司令部機能を果たせる士官を大量に失ったことが、大きな痛手であった。ただし、大陸の南部に位置する海沿いの地形だけに、冷害も夏の長雨の影響も比較的少ない状態であった。クルシュナの覇権は揺らぐことはなかったが、徴兵制度を用いても、大規模遠征する軍事力は不足する状態であった。しかし、経済的な面から、いったんは解消した「旧サウザンド連合王国の職業兵」達のかなりの数が国内には存在していたことにより、外征が不可能とまでは言えない状態であった。


4 北

〇北方の騎馬民族

 チャガン族のテレイトが、双子の息子アルクイとバルクイに支えられて一元支配の状態となりつつあった。中小の部族を集結させた結果として騎馬戦士だけでも2万に近い戦力となりつつあり、南下をもくろんでいた。騎馬民族が一体となった大集団は、大国をも滅ぼしうるパワーを持っていた。


〇ロウヒー家

 北方遊牧民族との取り引きが成立した結果、実戦経験の豊富なロウヒー家騎士団が少なくとも8千以上の騎馬隊、及び、最低3千の歩兵を動員し、サスティナブル王国の都へ進行できる状態であった。なお、騎馬部隊であれば、ロウヒー家の補給基地から最短で2週間あれば、王都の西にあるヨク城に到達できる距離である。


  

 以上が、サスティナブル王国を取り巻く「周辺」の状態である。



【王国内の事情】

プラス側

 以下の点で大きなアドバンテージがあったのである。


1 ゴールズ首領(当時)のショウ閣下を中心とした強力な新政治体制を作りつつあった点。特に「ゴールズ」そのものが新しい戦闘システムとともに、首領に対する強力な忠誠心と戦闘能力を保持しており、実戦経験も積んでいた点。


2 主にオレンジ領内から始まった技術革新により、当時最先端の兵器が開発されつつあった点。これは歩兵に持たせるハルバードや、新しい謎の金属・アルミニウムによる防具、強力な弓矢、謎の兵站システムなど、現在でも謎とされている数々の存在が豊富であった点。 


3 新しく組織されたゴールズ以外にも各貴族家の騎士団と各方面の国軍が健在である点。



マイナス側

 以下の点で大きなリスクがあったのである。


1 絶対的な実績と能力を兼ね備えた宰相ノーマンと法務大臣リンデロンが不在である事態と、国軍を握っていたエルメスがアマンダ王国に釘付けとなり国政の参加が難しくなる事態が同時に起きてしまったこと。サスティナブル王国としては絶対的な禁忌としてきた「御三家の同時不在」が結果的に起きてしまった点。


2 「国王不在」を糊塗しつつ、王太子を離宮に幽閉した状態である点。 


3 アマンダ王国を除けば全ての方向に敵を抱え、最悪の場合2週間でロウヒー家騎士団が王都を狙える状態であること。


4 唯一の安定材料であるアマンダ王国も宗教勢力の復活とともに盤石ではない=エルメス以下のガーネット家騎士団という最強のコマを自由に使えないこと。


5 強力な兵力であるゴールズが、強烈なアイデンティティーを保持するがゆえに、常に「少数精鋭」の部隊であることを余儀なくされた点。


 これらの点を鑑みた時、最悪の想定をしていくと、サスティナブル王国が壊滅的な状況がもたらされていたとしても不思議はない、というのが結論であった。



 しかし、現在、最も著名な歴史作家であるサトウ・フィールド・シチミは、その著作「サスティナブル王国物語」にある名言を載せているので、ここに紹介させてもらうとしよう。


 いわく


「我々が見る歴史とは才能と偶然が踊るダンスのようなものである」


 だそうである。


 クルクルと踊るターンを決めるのが、そのどちらであったのか、我々が知るのは常に結果論でしかないのである。


 当時の状況を踏まえてみると、我々が知る歴史になるために、どれほどの才能が偶然を引きずり回す必要があったのか、気の遠くなる思いがするのである。



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作者より

いろいろと、状況が長くなりましたので、今回は「後世の歴史家」の視点からまとめてみました。

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