第13話 スキルレベル・4



 時間は、ブラウニー君を捕らえた「天井事件」の当日まで遡る。


 あの時は、この世界に生を受けてから最大のピンチだった。生物の本能なのか「死んでたかも」っていう危機感が生命力というか、本能みたいなモノが弾けさせてしまうものらしい。


 アテナには申し訳ないけど、限界まで付き合ってもらうことになった。領館にはお手つきになってない子もいたみたいだけど、気心の知れてない女の子だと、やっぱりダメだし、なによりも、愛する女の子を抱きしめているだけでも全然違うからね。


 まあ、抱きしめている だけ ではなかった 恥 


 そしてアテナ自身も思うところがあったのだろう。珍しく、自分からむさぼるように動いたり、おねだりまでして見せたりして、ボクっ子のエッチ度全開だったのは大満足。

(翌日、ちょっと声が嗄れてたw)


 夜中に疲れ切って熟睡。ま、ここは狙いでもあったんだ。邸以外だとアテナは深く眠ってくれないから、たまに、こうしてあげた方が良いんだよ……ってことにしておこう。


 可愛らしい寝顔の頬をそっと撫で出ると、甘えるようにくっついてくる細身が愛おしい。


 限り無く可愛らしく感じる人を腕に抱いたまま、ステータスボードをチェックした。実は、天井が落ちてきた破壊音の中で例の「レベルアップ」の音楽が鳴り響いたのを忘れてなかったんだ。


「おっ、やっぱり、久しぶりに上がってる!」



【ショウ・ライアン=カーマイン】

オレンジ・ストラトス伯爵 長男

サスティナブル王国 国王代理(NEW!)

ゴールズ首領

「王を定める者」


レベル  20(UP!)

SP   69(小UP!) 

MP  2236(UP!)

スキル SDGs レベル4(UP!) 


【称号】

無自覚たらしの勇者

脱出王(「バットマン危機一髪」から昇格)

美女よりどりみどり(「美少女取り放題」から昇格)

色を好む英雄

若き軍略家

煽りの達人・奇跡の人

征服者・国を継ぐもの


★☆☆☆☆ ゴミをMPと引き換えにランダムで呼び寄せられる

★★☆☆☆ 見たことのあるゴミを指定して呼び寄せられる

★★★☆☆ 理屈として存在しうるゴミを指定して呼び寄せられる

★★★★☆ ゴミの素材の中から一部分だけを分離して取り寄せられる←今、ここ

★★★★★ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



・・・・・・・・・・・


「称号」のところは、相変わらずネタ感が満載だ。そもそも、脱出王って……

イリュージョン・マジシャンじゃないんだからさ。

 


 ん? 新しくできるようになったスキルだけど「一部分だけ?」ってのが新しいみたいだけど。


 どういうことだろう?


 ん? ひょっとしたら……


「出でよ、自転車用ダイナモ!」


 びよょよ~ん


 オレの手には、昔の自転車で使われた「発電機」が載っていた。


「やっべ~ これで電気が手に入るじゃん」


 あらゆる産業の基本とも言うべき「電気」はずっと頭を悩ませていたこと。もちろん、電磁誘導によって磁石とコイルを動かせれば電気を作るという「原理」はわかってる。


 でも、そのために使う強力な磁石というものを手に入れるために相当な試行錯誤が必要だし、強力な磁石を作るには電気が必要ってことで、ニワトリとタマゴの関係みたいなモノだ。


 しかも、実験室レベルならともかく、産業と結びつくレベルの電気を作るには、それなりの大きさのモノが必要になる。


 それをスキップできる目処が付いたのは大きいよ。

 

 今度戻ったら、発電所レベルのタービンに使われている磁石を出せないか試してみよう。今までのスキルだと「地面に設置された機械類」は全部アウトだったのに「一部分」という形でありになったのなら、これに勝るモノはないんだよ。


 もう、興奮しちゃってさ、身体は疲れているのに寝付けなくて、翌朝、アテナの優しいキスで目覚めたのは、昼近かった。


 そして早速試したのは「廃バッテリー液」だ。


 少しだけ、と定義して出した水たまりは、出現するやいなや地面から異臭を発生させる。


 いける!!!!


 これって、硫酸だ。バッテリー液は確か40パーセント近い硫酸だけに、これをガラス容器に出せれば「化学」が進んでくれるってことになる。理科の教科書がいくらあっても、実験できなきゃは進まない。


 こっちの世界にも火山があって、硫黄の採取まではなんとかなっていたから、硫酸は取り出せないことも無い。けれどもやっぱり純度の問題があったから、なかなか捗らなかったんだよ。


 これで、化学の世界を発展させる基本中の基本となる薬品類が取り出せる可能性が出てきたってことだ。


 今は時間が無いけど、帰ったら早速試す価値がありそうだ。


 オレは夢中になって、新しいスキルを実験してみた結果、いろいろとわかったことがある。


 「武器類はダメ」という制限は、今回も適用されていたらしい。試しに「出でよ、銃弾の火薬!」ッとやってみたんだけど、手応え無し。


 ついでに「すき間」狙いで、工事用ダイナマイトの炸薬と信管を狙ったけど、これもダメだった。


 ちょっと面白い現象もあった。


 ロケット弾パンパンの紙火薬そのものは簡単に出せてきたのに「紙火薬」の中身だけを出すのは制限されていたんだ。


 この辺りの線引きは謎だけど、ともかく「化学の世界を深めるには役に立つ」ってことは確かなこと。


 これでこの世界は、また少しだけ前に進める。


 あれこれ試すそばにはアテナが微笑んで、黙って見守るだけ。ボクッ子美少女が「お母さん」の表情になっている気がしたのは不思議だったけどね。


 マイセン伯とアンスバッハ伯とがやってきたのは、その翌日のことだったんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

 これまでも、廃棄自転車などから小さなダイナモを取り出して研究に回しましたが、本格的な発電機までには、遠い道のりでした。素材産業が皆無な世界で産業を育てるのは、かなり歪なチートな発達の仕方ですが、100年分以上の単位で文明を進められる可能性があります。ちなみに、オレンジ領内では、以前「高炉製造」を目指す研究チームが引き続き研究しています。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

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