第59話 凱旋式


 オレがお願いしたのは、学園の一室に控え室を用意してもらうことだ。ここで着替えて出発地点まで駆けつけるのはオレだけじゃない。


 ニアもオレ首領の妻妃として、メインの「フロート」でお目見えするんだ。


 卒業生の仲間と名残を惜しむ時間を上げられなかったのは、本当に申し訳なかった。代わりに「明日の夜」に、友人達をカーマイン邸のパーティーに招待しておいた。


 卒業パーティー


 毎年恒例だったやり方は、卒業式の夜に、有力貴族の子弟が親しい友達を招いて夜通し楽しむというカタチだ。


 ところが、今日は王宮で「戦勝パーティー」が行われるため、主な貴族が出払ってしまう。なにしろ、王立学園の卒業生は全員招待されているし、高位貴族は家族ぐるみで出席するから卒業パーティーがそもそも開けないって事情も絡んでる。


 だから、明日の夜、ニアのお友達や、ノーヘルの仲間達や優秀な人を招待して開くわけだ。これなら少しは卒業気分を味わってもらえるはずだ。


 ちなみに、いつもの年だと夜のパーティーに備えて全員がダッシュで家に帰って着替えや化粧その他をすませるから、けっこう大変なんだよね。


 それに、今年に関しては「凱旋式を見たい!」という要望が大きいので、王立学園の女性を特別席に用意してのご招待だ。


 王宮広場直前のコースに作られた「桟敷席」だ。もちろん、お茶とお菓子付きだよ。


 え? なんで女性だけなのかって?


 そりゃあ、男子は庶民の間に入り込む手もあるけど、女性はそうも行かないじゃん…… ウソウソ。女の子を優遇して何が悪いんだよ!(開き直り)


 それなりの貴族の娘なら、家で「席」を用意すると思う。でも、王立学園には、そうじゃない子弟も大勢いるわけだ。それが激混み間違いなしの道路で見ろっていうのは、ちょっとどうかなっておもってね。


 なお、凱旋軍パレードが通るコースとなる道路の何カ所かに「女性専用見学ゾーン」も作ってある。まあ、どこまで需要があるかわからないけど、いろいろやってみて、ダメなら変えれば良いんだよ。絶対、あるからね。


 ただし、妊婦さんには逆に特別席を作らなかった。


 差別してるんじゃなくて「必要ない」からなんだ。この国では妊婦さんが、いろいろな場所で優遇されるのが当然で、荒くれ男でも妊婦さんにだけは手を出せないとまで言われてる。ま、手を出すそぶりでも見せた日には、周りから袋だたきになるんだけどさ。


 この辺りの「優先度」は前世の人達に見せてあげたいと思うほどだ。だから、妊婦さんがパレードを見たいと思えば、最前列とか、あっちこちに作ってある桟敷席に案内されるのは当然だって意識だよ。


 子どもは宝だからね。産んでくれる女性は、当然、宝ってわけ。


 そして、今、オレの目の前。


 総勢10名以上のメイドさん達がニアに取りついての早着替えを演じようとした。夫の権利として、それを見ていようと思ったら、ミィルに「着替えるシーンはダメに決まってます!」と怒られて目隠しされてしまった。どうにも「脱いだ姿を見るのは夫の権利」だけど、着替えたり、化粧をしたりするところはだから、殿方が見てはいけないってことらしい。


 ともかくも、あっと言う間に美しいドレスへと着替えたニアと馬車に乗って超特急。パレードコースを逆走するという非常手段で何とか間に合ったよ。


 オレが到着すると、ゴールズの各大隊は大喜び。始まる前からお祭り騒ぎだよ。


 中央のフロートには、右にメリッサ、左にメロディー。一歩後ろの真ん中には、ミネルバが立つ。さすがに、二十歳の美しい立ち姿ってやつだろうね。メリッサもメロディーも美少女だけど、年齢から来る美しさって、やっぱりあるんだよなぁと思ったよ。


 おっと、余談が過ぎたね。


 真ん中のヤグラの上にオレが立つ。(けっこう高いんで、怖いんだよ)


 ヤグラの後ろはイスに座ったバネッサがフォルを抱く。付き添いとしてミィルが恥ずかしそうに立っているのが嬉しい。最初は固辞されたんだけど、いつの間にかメリッサが「フォルのお世話を担当する」って役を振って解決してくれてた。


 そしてクリスにニア。


 みんな、パレード用にスパンコールの入ったドレスを着用してる。あ、これは、前世の「廃棄される社交ダンス用の衣装」を指定したら、大量に手に入ったから、それを一つ一つドレスに埋め込ませたわけ。


 陽の光が映えるから、沿道の観衆からはまぶしいほど派手に見えるはずだよ。


 凱旋式は、一種の「ショー」だって割り切ってね、とみんなには言い聞かせたんだ。だから、化粧も近くで見ると「ヤバッ」って感じの「舞台化粧」だよ。テレビのアップがあるわけじゃないんだ。こうしないとハッキリと見えないからね。

 

 そしてパレードの前後を挟むのは楽団員だ。彼らを乗せた無蓋馬車は、全て四頭引きとなっている。アルミシャーシの特注品が先頭に4台、後部に4台。


 スタートだ。


 入りの音楽は、例の「我が祖国」。


 勇壮な響きとともに、ゆっくりと歩き出すのは代理を含めた高位貴族達だ。


 本当は、ノーマン様達を歩かせてあげたかったんだけど、とてもではないけど無理だった。


 なんだかんだで、変人アーサーまで楽しそうに手を振ってる。考えてみると、こうして「下々」と直接触れ合う機会なんてめったにないもんね。


 いつもの偏屈ぶりを引っ込めて、ニコニコとスター気分を味わっていた。


 そして先頭は、近衛騎士団から構成されている騎馬隊である「獅子ライオン大隊」。その後ろを見事な分列行進する国軍出身の歩兵部隊は「エレファント大隊」だ。これは鍛え方がスゴいよ。日体大名物の「集団行動」に負けずとも劣らずのレベルで、すれ違ったり、方向転換をしたりと、自由自在だ。その複雑な動きを縫うようにして、騎馬技術の粋を見せるのがシュメルガー家騎士団で構成された「ホース大隊」。


 この連携ぶりには、居並ぶ観衆も度肝を抜かれてる。


 そして、先頭から後列まで、自在に各部隊の間を抜け、時には見物している民にお菓子をバラ撒き、ビラビラをバラ撒き、時には美女をナンパし……ないよ? 代わりに、美女に向けて「紙ヒコーキ」をふわりと投げるのが、スコット家騎士団で構成された「孔雀ピーコック大隊」だった。


 見物客は、思わぬプレゼントに大喜び。


 ちなみに、コースからちょっと外れた街角には、無料で酒も、ツマミも出すスポットが用意されている。大人向けだけでは無い。甘いパン(例の非常食)まで配るから子ども達も大満足だ。


 そして真打ち登場って感じで迦楼羅カルラ大隊。


 全員が「ヤンキー・ドゥードゥル」の口笛まで吹いている。連中、密かに練習していたらしい。


 その迦楼羅大隊のど真ん中をオレと妻妃を乗せたフロートが通るわけだ。


 民からすると、一発で「ゴールズの首領」と思ってくれるという点で、このフロート作戦は大成功だ。


 観衆はノリノリの気分でいながら、オレの妻妃の美しさにうっとりしている。もちろん、フロート上から美女達が沿道の観衆に、ニコニコと笑顔を振りまく。


 あ~ きっと、これを見た「少年」達って、今夜は捗っちゃうんだろうなぁ。その部分については、如何いかんともしがたいけど、まあ、である以上仕方ないと思うことにした。


 庶民にとっては「一国の頂点に立つ人の家族までもが輝いている」って言うのは、案外と大事なんだよね。


 ちなみに、アテナは男装姿でヤグラの上でオレに密着しながら警戒しているんだ。


 ともかく、30分にも満たない時間だったけど、王宮前広場に着くまでの間は王都が歴史上最も騒がしかったんだと思う。


 凱旋式は大成功だった。 



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作者より

 楽団員の乗る無蓋馬車は「クリスマスの飾り付けのゴミ」が大量に使われたため、金銀のモールや「★」がたくさん貼り付けられています。


 文中に出てきた「日体大の集団行動」はこれです。

 https://youtu.be/ArPMrzvF1Qo?si=PWpr1PQzV4QkGYwm

 これがやりたくて日体大に入った人もいるくらいです。近年コロナでできなかったんですけど、復活してましたね。

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