第13話 地雷
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今回のお話の前半はお食事中にお読みにならないようにお願いします。
また、感性が豊かな方も、前半はお読みにならないようにお願いします。
文中の△△△△△△のところまで、飛んでから読み進めてください。
そこからお読みいただいても十分にストーリーがつながるようになっております。
では、少しだけ改行して、今話を始めます。
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突然だけど、世界で一番クサイ食べ物と呼ばれる缶詰を知ってる?
最近はネットでも有名になったけど、シュールストレミングって言って、スウェーデンの食べ物なんだ。簡単に言うと「塩漬けニシンを缶詰の中で発酵させた食品」ってヤツだ。臭気指数はムチャクチャで、日本を代表するクサイ食べ物である「クサヤ」の、なんと約8倍もすごい。
食事中だったらごめんだけど、生ゴミに10日間お日様を当ててから、よ~くかき混ぜたニオイだ。「硫黄と混ぜたニオイ」ってよく言われるよ。
ちなみに「必ず屋外で開けること」って説明書が付いていて、スウェーデンには「室内での開缶を禁止する法律」まであるらしい。いや、法律はホントかどうか知らないけど、開ける人は「もう捨ててもいい服」か、ビニール袋を被れと言われているほど。ホンのちょっとでも汁がかかれば、その服を洗濯することすらヤバいって世界だよ。
いきなり室内に持ちこめば、よほど慣れている人以外、普通に吐くと思うレベル。
スウェーデン人ですら屋内に持ちこむのを嫌がる人が多数派だからね!
そしてコイツは、缶の中で発酵させる都合上、温度管理が必要なんだ。「要冷蔵」のカンヅメってのがすごいよね。
賞味期限は2年って話だけど、航空輸送には厳重な梱包をして「危険物扱い」にした上で、一部の航空会社のみが取り扱うってレベルなんだよ。万が一、温度管理ができないと、賞味期限なんて、あってもないようなものだ。ヘタをしたら「発酵のガス」で爆発なんてこともあるらしい。もちろん、爆弾のような物理的な破壊力は無い。だけど「中身の汁が部屋で飛び散ったら、床と壁紙を貼り替えないと無理」と言われるって意味の破壊力なら凄まじいんだよ。
平べったい缶詰が数センチ膨らんだ状態になったら、おそらく中に固形物は残ってないほど発酵が進んで、ガスの圧力がかかってるってことだ。
そして、前世の歴史オタを舐めるなよ。かなり昔、ノルウェーで見つかった25年もののシュールストレミングの「事件」をオレは知ってるんだ。
シュールストレミングっていうのは元々は「軍用品」だったんだよ。で、軍の補給品にするはずが、なぜか箱に詰められたまま小さな小屋で重なっているのが発見されたんだ。当然、処理には軍が出動したw
パンパンに膨らんだ缶を試しに開けたら「こりゃダメだ」レベルで、すべてを「危険物扱い」で焼却処理するしかなかったってやつだ。
ふふふ。
もうわかるよね?
そいつを取り寄せておいたよ。
街道沿いに埋めて、片方が尖った鉄片を取り付けて土に埋めておいたんだ。
一応、ちゃんと爆発するかどうか「人体実験」をしたけど、あれは悲惨だったなぁ。実験台になった人には昔、実家で見かけたお中元の「石けんセット」を差し上げておいた。涙目だったけど。
とまあ、実験は上手くいった。何しろガスで膨らんでいるわけで、踏んだら「中身が飛び出す」仕掛けなわけね。クスクスクス。非殺傷兵器ではあるけれど、あれを30個ほど、道路にランダムに仕掛けておいたんだ。
いや~ 食べ物を「地雷」にするなんてと怒られそうだけど、実際、ゴミになっちゃったヤツなんで、ご勘弁を。
でも、効果てきめんだったよ。
普通さ「大軍の先頭」って、威厳とか格式を見せつけるために儀仗兵的な集団かエリート部隊を置くんだ。
今回で言えば、第1連隊の第1大隊からだ。歩兵の中では精鋭らしい。
ぶっしゅー と言う地獄の破裂音が響いたと思ったら、あっけなく先頭集団が崩壊した。
マジで。
踏み抜いた男は逃げ惑い、水を求めて仲間の方に走っちゃったヤツなんてマジで槍を向けられてるんだもん。
近寄るな! だって。まあ、そーなる。
10キロ先の風下まで臭ったくらいだ。そんな状態だから、後続の部隊からも気分が悪くなって倒れる人が続出。
しかも、汁を浴びたら服も装備もつかえなくなる上に、かついだ荷物に数滴の飛沫を浴びただけでも、その中にあった食料を食べる気にさせないだけの破壊力がある。
もちろん、直接浴びた人はもっと悲惨。踏んだ本人よりも、周囲の方がたくさん汁が飛んでくるのは、この世の無常ってヤツだよね。
いくら、この世界の人が普段は風呂に入らないと言っても、あれをそのままにしておける人はいない。
ってことで、先頭の精鋭軍団から200人近くが、ごっそり「退場」になってしまったっていうか、王都にも戻れず、寒い中を水浴びしても(石けんがお粗末なので)ニオイが落ちず、せっかくの革鎧は泣く泣く捨てるしか無いってことになってた。
しかも、後続は汁が飛び散った道を歩くわけで、ゲームの中に出てくる「毒の沼地」みたいに、一歩ごとに、足の裏に着いた汁でダメージが拡大していくんだから、たまらないよね!
ちなみに、王都から10キロも離れてないこの場所は、後々、庶民から「
さてさて、第1連隊の半分のみなさん(約3千人)の士気が、マイナスに振り切れてしまった。まあ、それも当然のこと。軍隊で、寒い暑い、ひもじいは、言いっこなしが世界のルールだけど「くさい」は生理的反応だから我慢できる人間なんていないんだからね。
物理的にも大隊長が「一時離脱」を許可するレベルの大惨事だったわけで。
いや、だって、引き離さないと周りも目が開けてられないほどにひどいからね。後続で倒れた人も含めると離脱者が数百人に及んでしまった。なんと、進軍初日で部隊の再編成が必要になるというのは、戦史に残るかも。
ちょっぴりでも付いちゃった人間は「お前、来るな!」って言われるんだもん。あ~ 仲間思いだねぇ。
結局、この日のゲールの軍勢は予定外にも「平原のど真ん中」で街道沿いに野営するハメになったんだ。
もちろん、ノンビリした野営なんて、させるつもりは無いよ。
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
(敏感な方はここからどうぞ)
【ある歩兵達の声】
「ようやく、食えそうだな」
「あぁ、ひでぇ目に遭ったぜ」
どれほど「軍メシ」が不味くっても、やっぱり楽しみは食うことだけ。相変わらず、どこかからか、さっきのニオイが漂ってくるけど、さすがに少しだけ慣れた。
ともかく芋が煮えた。塩だけになるが、軍隊飯なんてそんなモノだ。しかし、たったこれだけでも食えるのは幸せなんだよなぁ。
あっちこっちで、食い始める音がする。こういう時だけは笑顔が出るのも軍隊ならではだ。
あ~ 今日はひどい一日だったぜ。
椀に芋をよそったときだった。
パン! パン! パン!
昼間、さんざん聞いた破裂する音だ。
ヤバい、ヤツらが来る!
そう思う間もなく「敵襲!」の声がした。
慌ててそばにあった槍をつかんで隊長の前に並んだ。
クソ、せめて一口食いたかったぜ。
「人員確認だ!」
点呼しなくちゃ。
あれ? さっき並び直されたよな? オレ達って、どこに行けば、ええい! とにかく、槍を持って構えるんだ。どっちだ? 敵はどっちにいる?
大混乱しながらも、どうにかこうにかオレ達は固まって敵に備えることができたんだ。
しかし、どうやら敵は、オレ達とは違うところを襲ったらしい。いつまでも指示が来なかったから、とりあえず、そのまま待機。
いくらなんでも、こんなに暗い中を襲ってくるとは思えないけど、連中はガーネット騎士団らしいから油断できん。うちの隊長はいっつも「ガーネットの連中はヤバい」って言ってるくらいだ。その上、例の「栄誉勲章」の男が指揮を執ってるってウワサだ。たった一人で一個小隊を壊滅させた恐るべき知謀と武力の持ち主の12才。
一体、どんな怪物だよ。しかも、さすがに、これはでまかせだとは思うけど「単騎でアマンダ王国を降伏させた」なんてウワサまである。事実だったら、建国以来の大英雄だろ?
そんなヤツに勝てるわけ無いじゃん。まあ、さすがにアマンダ王国の話はウソだとは思う。でも、そんなウワサを「ひょっとしたら」と思わせてしまうほどの天才らしい。
そんなバケモノみたいなのがオレたちの相手なんだろ?
さっきの仕掛けと言い、実際、何をしてくるかわかったモンじゃないしな。備えておかないと…… いや、どんな備えをしても何をされるかかわからない怖さだ。
さっき聞いた話だと、馬で追いかけた中央騎士団の連中は、どうにも散々な目に遭わされたらしい。相手の倍以上いたのに手も足も出なかったって話が伝わってる。
オレ達は緊張しながら、夜の闇の向こう側に潜む敵を見つけようとしていたんだ。
その時だった。
「何かが飛んでくるぞ!」
とっさに頭を下げたけど、矢ではなかった。すーっと空を飛んでオレ達の方にふわりと落ちてきた。
「なんだこれ?」
「空を飛んできたぞ?」
「紙、じゃねぇか? しかもヘンな折り方だな。さきが穂先みたいに尖ってやがる。危険はないみてぇだけど」
ん?
「おい、これ、なんか字が書いてあるぞ」
折りたたまれた紙を広げると、文字が書いてあった。
「誰か字が読めるヤツ!」
「オレ、少しなら」
「おぉ、ガクは、読めるのか」
「あぁ、父さんの商売を手伝ってたからな。読むぞ」
この たたかいは ただしいのか?
おうさまが ゲールに
とじこめられている!
わるい ひと の めいれい に
したがうのは わるいことだ
にげて いいんだよ
「おい、王様が閉じ込められてる? そんなバカな」
「あれ? 裏もあるぞ」
ゲールは簒奪者なり!
恐れ多くも陛下は王宮の地下に
閉じ込められている
王に謁見できた者は誰だ?
近衛の騎士達よ
騙されず、真の忠義を尽くせ
確かめずにいることは騎士道に反する
「悪い、裏はちょっと読めねーけど、なんかヤバいぽいことらしいぞ」
「おい、こんなの読んだってバレたらヤベェーんじゃねぇの?」
「見なかったことに、いや、無理みたいだな」
オレ達が拾ったヘンな折り方をした、見たこともないような薄っぺらい、それでいてしっかりした紙は、あっちこっちで広げられていた。
それからしばらくして、隊長から「回収しろ!」の号令がかかったけど、もう、その時には、この紙に書いてあることを知らない奴なんて一人もいなかったんだ。
それに「各自、備え解け」の命令が出て、さっきのメシのところに戻ってみれば、大混乱のあげくに鍋が蹴倒されていた。オレ達だけのじゃ無い、あっちこっちが悲惨なことになってる。
地面に落ちているのを拾い集めて、少しでも食べられるところを食べようとした。
「げぇえええ! 地面にニオイがついてるじゃん!」
さっきの、あの猛烈な汁を踏んだ足が歩いた道だ。地面に落ちた芋は漏れなく、ニオイ付きになってしまった。
生ゴミのすえたニオイがする芋を口に入れる勇気なんて、オレには無かったんだ。
どうするんだよ、今晩のメシ!
・・・・・・・・・・・
「よーし。第1弾、OK~」
「それにしても、紙にこのような使い方があるとは」
ノインは感心して、何度も折り方を確かめては、ツィーと飛ばして確かめてる。って言うか、それ、楽しんでるよね?
ノイン以外も、思い思いに飛ばして遊んでるよって思ったら、一機、オレのところにふわりと曲がってきた。
バシッ!
アテナの刀が一閃。
すげぇ~ 飛んでる紙飛行機を切ったよ!
なんという剣速。
もはや達人の世界だ。
それを飛ばしたヤツは、その場で五体投地してお詫び状態。いや、そこまでしなくても、大丈夫だ…… よね?
「二度目はありません」
アテナが淡々と呟いたら、わっ、全員が、紙飛行機を放つ手を止めたよ!
ふふふ。
それにしても、世界初の「航空攻撃」は上手くいった。
この世界には「薄くて丈夫な紙」が存在してなかったから、当然「紙飛行機」ってものも存在しなかった。
幸い月も細くしか出てないから、黒装束をまとって黒いビニール袋を持った姿だと、5メーターくらいの距離でもバレないんだよね。
馬に乗って襲撃! ってワケにはいかないけど、闇に潜んでセッセと「紙飛行機」を飛ばすくらいは、影の者達にとっては簡単なこと。
ちなみに、
音も無く大量に届く「紙爆弾」は、表が庶民向けで、裏が騎士団向けだ。しかも、ウソは一言も書いて無い。そして、今回だけじゃなく、これから何度も何度も「逃げてOK」「逃げることが正義だよ」を、繰り返し仕込んであげる。
コイツがどこまで効果を出すのかはわからないけど、コイツの対応を見守ってから「次」を考えるよ。
もちろん、夜襲は、これで終わらない。
1時間ごとに、歩哨をかいくぐって、ロケット弾を放り投げていくよ。その度に「敵襲!」の声がするから、みんなが飛び起きる。
まあ、それもこっちの影が叫んでるんだけどさ。
砦の中ならともかく、ダラーと長い行列で野営中に「敵襲」って声がしたら、寝ているだけの度胸を持っている兵隊なんてありえないからね。
そうやって、一晩中「夜襲」を受けていたわけで、きっと一人も寝られなかったはず。しかも、実際に襲ってる部隊なんていないから「見えない敵」と戦わなくちゃならない、心理的恐怖が高まっていく。
歩哨をいくら厳重にしたところで、黒ずくめにした、ほんのわずかな人数のプロが、こっそり接近するのなんて完全に防ぐのは無理だ。
これじゃあ防ぎようが無い。まあ、ホントは野戦陣地でも作れば、もうちょっとマシになったんだろうけど、王都から10キロほどの場所で、一晩中襲撃を受けるなんて想定外ってことだろ?
人間は、ひもじくて、睡眠不足が重なると判断能力も落ちるし、怒りっぽくもなる。相当に鍛えられた兵士でも「眠らない訓練」なんてめったにしない。
前世の軍隊では、特殊部隊の訓練教程の中に、必ず「眠りを過度に奪われた上での作戦行動」が入っているのは、このためなんだよ。
普段なら間違えないことも間違えて、簡単な足し算ですら危うくなる。いつもなら笑って許せることでも、許せなくなるってのは起こりがちなコト。
さて、連中が、この後どうなるのかは見物だよね。一方で、こちらは密かに作った野営地がある。しっかり2人前ずつ食べて貰って、朝までグッスリ眠って元気回復。
影のみなさまごくろーさまでしたー!
さあて、これから相手の輜重隊は、昼間の攻撃で確実に潰し、なおかつ「ロケット弾と敵はセット」と刷り込むわけだ。
あ、大変ご好評をいただいた「シュールストレミング地雷」は、歩兵と騎士団の間に距離があったんで、今度は騎士団の直前に埋めさせてもらった。
あ~ 明日が楽しみだ。
それにしても、輜重を潰されて、夜は「パンパン襲撃」を毎晩続けたら、さて、国軍のみなさんは、どれだけ持ちますかね?
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作者より
私はくさやが食べられません。いちど、本場で食べさせられましたが、胃が受け付けるのを拒否したので、酒で流し込みました。え? いや、だって、作った本人が「うちのくさやは、美味いんだぞ、くれらぁ」って差し出されたものですよ。いくらなんでも、吐き出せないでしょ? ただ、みなさんが美味しいと感じるのは理解できますし、尊重します。発酵食品って、アミノ酸のお陰で、とても深い味わいになりますからね。こういう私でもブルーチーズを掛けたサラダなんかは大好物で、見かけると必ず注文しています。納豆も大好物ですから、シュールストレミングを、決して馬鹿にする意味は毛頭ありません。世界の食文化に対して敬意を表します。
ただ、シュールストレミングが「世界で一番クサイカンヅメ」だと言われている事実を利用させていただいただけなので、スウェーデンの方々には、申し訳なく思っている次第です。
ちなみに、あのニオイを動物はけっこう好きみたいですから、騎馬部隊においても「馬」達は大丈夫なはずです。
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