第42話 汝の隣人を……

 ハーバル家の長男であるオメガ様。


 すなわちニアのお兄さんが上洛した。


 おとないの挨拶状が届いたので慌ててニアと一緒にトンストンを迎えに行かせた。


 あ、トンストンはへクストンの息子で今年25歳になったばかり。以前から領地でへクストンの弟子みたいにして働いていたんだけど、人手不足につき王都邸に呼び出して「家宰見習い」として実地訓練の段階に入ったんだ。


 3人の弟たちも領地の方で働いてくれているから、いずれ、あっちこちでコキ使う予定だよ。


「わざわざ、宿に泊まって、そこから挨拶状をくれるなんて真面目な人なんだなぁ」


 二千キロ、3ヶ月の道のりを旅してきたんだから、そのまま来てくれれば良いのに。


 ……ってわけにもいかないか。


「兄は、とっても真面目で、儀礼やマナーをすごく大切にする人なんです。家族にも優しくて理想の兄でしたわ」


 ニアの話では本当に頭が良くて、しっかり者らしい。まさに、長男って感じみたいだ。そのうえ弟妹にも優しい家族思いらしい。


「家族思いなところは、ショウ様にも並ぶかも知れません」


 そんな風に言うニアの表情を見てると、あぁ、本当に良いお兄さんなんだなって思えたよ。ちなみに、自慢じゃないけど、ニアがオレになぞらえたってことは、最大限の褒め言葉になってるんだよ。


「それに、どうやらすれ違いだったらしいです」


 側妃についての挨拶と貢ぎ物がすれ違いになってしまったらしい。だから、ロウヒー家に挨拶をして話を聞いて、すぐに手紙を書いたとのこと。


 なんだよ、とっくに都に着いてたんじゃん。


 こっちも驚いたけど、向こうも仰天してそうだよ。実際、後で聞いたら何かでダマされているのかと思ったって言ってたもん。


 そりゃそうだよね。デビュタントで送り出した10歳のころの妹の顔がちらついているんだよ?

 

 それが、自分の知らないうちに、よりにもよって国王陛下直々のお声掛かりで伯爵家の長男の側妃に迎えられていた。おまけに、正妻達は公爵令嬢で、もう一人の側妃は侯爵家の令嬢。しかも、その伯爵家の長男は叙爵されていて子爵当人でもある。


 これで驚かない貴族がいたら、逆に驚くほどだ。オレも、自分で言ってて信じがたいもん。


 これを手紙で伝えても、にわかに信じられるわけが無い。だからニアを一緒に行かせたんだ。


 ただし、こういう場合、ニアはオレの「側妃として実家に顔を見せる」ということになるので、護衛や身の回りのことはカーマイン家の責任になる。


 ちゃんと側仕えのメイドも付けてある。あ、ちなみにメリッサもメロディーも実家から連れてきた馴染みの側仕えをそのまま置くよ。この辺りは「どっちが付けるか」って問題よりも、本人の意志が大事だからね。ニアの場合、実家が遠方にあるのと、経済力の上から王都邸の人員も最低限しかいない。自分が連れ出してしまうと困るかもって気を遣ったみたいだ。


 そして、王都の中だけど騎士団長以下12人の護衛を付けたんだ。形式上、当主以外に付ける護衛として、これが最上級。もちろん伯爵家の紋章を入れた正規の馬車に乗ってもらった。ちなみに、上物の部分のフレームはアルミ製。おかげで普通の馬車に比べて重さが70パーセントほどになった。


 その分振動を抑えることができるから、乗り心地は公爵家の公式馬車と対等か、それよりも上になってる自信作だ。


 これは、今後、王都に工房を作って売りまくろうと思ってる自信作だ。素材はカインザー家に一任しておいて、ウチはこうやって「高付加価値」の製品を扱うわけだ。


 ウチの馬車のことを知って、よその工房でも「素材」に価値を見いだしてくれるってこと。一種の宣伝に近いよ。


 しかも馬車はそもそもの単価が高い。一台売るごとに前世での「億」単位の儲けになるからね。ウハウハ(死語)がとまらない。


 こうやってアルミ関係の儲けだけで、カインザー家領から王都までの道路建設費を全て賄えるくらいだよ。もちろん、途中の川や谷に掛ける橋の建設費も入ってる。


 後は時間の問題なんだけど、現在の情勢では来年中にあらかた作り上げるのが至上命令となってしまった。だから建設スピードを上げるために、今、いろいろと計画中だよ。


 それはさておき、ニアが王都内で最上級の待遇を受けているとわかってもらう必要があったから、警護も馬車も、できるだけ上等なものにしたわけだ。


 もちろん「手土産」もバッチリ持たせたよ。


 王都の定番ものからになってるアーモンドチョコに角砂糖、大きくて透明な板ガラス。それから「超々ジュラルミン製特殊警棒」までw


 すごく生臭い話だけど、これをカネで集めようとしたら、以前までのカーマイン家なら年間予算が吹っ飛ぶくらいの価値だ。


 人の好意はお金で買えないけど、お金を使うことで、こちらの好意を示すことはできるからね。


 そういった気配りも伝わったんだろうけど、やっぱり仲の良い妹が自分で語った「愛されている」「大切にされている」っていう言葉が一番強力だったんだろうなぁ。


 たった2回の手紙のやりとりだけで、来訪を承知してくれたよ。(例の貴族的な言葉を散りばめた、って言うか99パーセントの儀礼の言葉に、中身をチョロッと入れた手紙だ。要するに「来てね」「ホントに行っていいの?」「楽しみに待ってるよ」「じゃあ行きます」ってだけの手紙だ)


 瞳の色から微妙にズラした映える水色のドレス姿のニアが「自慢の兄」を連れてきてくれた。


 ちなみに、このドレスはメロディーの紹介で王都イチと呼ばれる職人に作らせた「ちょっとしたお出かけ用」だよ。お値段は前世で計算すれば300万円w


 この程度のものは、ばんばん作らせてこその貴族だからね。


 おかげでお義兄さんには「ニアを大切にしてます」をわかってもらえたらしい。最初から好意的な感じで会えたのはラッキーだった。


「初めまして。カーマイン伯爵家長男で、ショウ・ライアン=カーマイン子爵です」

「お初にお目にかかります。ハーバル子爵家が長男、オメガ・タック=ニルベンガーにございます。カーマイン子爵殿。妹がお世話になり、この度のご厚情も感謝に堪えません」


 ニアとそっくりな青い瞳の、スラッとした超美形な好青年。それが親しみの湧く笑顔で登場だよ!


 知的で涼しげな風貌は、一目でこっちも好感が持てた。イケメンはトクだねぇ。


 お義兄さんの言う「ご厚情」ってのは訳がある。


 今回、お義兄さんは「ハーバル子爵家の代表」としてやってきた。当然、護衛も含めて、お供をゾロゾロ連れてきているんだよ。


 子爵家の苦しい経済事情では「上洛部隊」の全員が泊まれるような広さの王都邸は維持できないっていうか、あまりにも無駄遣い。


 だから、王都にある貴族用の宿を借り上げていたのだけど「体面」があるから、そういう宿はバカっ高いのが普通なんだ。そもそも、馬だって人が乗るため以外に荷役用に大量に連れてきている。その子達の厩舎だって手配が必要になる。


 正直、西側に広大な領地を持つ子爵家では、往復だけでも相当な負担になっているはずだ。それは何とかして軽減してあげたかった。


 それに、愛する人の家族を宿に住まわせるなんてありえないもん。


 だからカーマイン家の持つゲストハウスに移っていただいたってわけ。これは、我が家の「子」貴族が王都に来た時用に貸し出している家だ。最近、大きくしておいて良かったよ。


 ウチの経済が伸びてるから、すり寄ってくるところが増えたからね。基本的に子爵家が来た時を想定していたから、なんの問題もなしと。


 いったん、そちらに落ち着いてもらってから、改めてディナーにご招待したんだ。


 食事をしながら、すごく誠実な人柄のお義兄さんには何度も感心したし、オレのことを「妹の良き伴侶」として認めてくれたのが伝わってきた。


 いやぁ、イケメンのキラリン笑顔がまぶしいよ。その辺の女の子なんてコロコロ落ちちゃうじゃ無い?


 まあ、ウチの妻達はなびかないけど…… 大丈夫だよね?


 イテッ


 なんかわからないけど、メリッサに抓られた。


 ごめんなさい。いや、ホントに心配したわけじゃなくってさ。あ、これ、後でわからせるからって、オーラが立ち上ってるよ。


 メリッサから無言の「みなさま、本日は妻妾連合の時間ですわ」みたいな無言の信号がみんなに伝わっちゃったよ。


 みんな、頬を染めて微笑んでるじゃん。わぁ~ 今晩寝かせてもらえないかも。


 あ、クリスとニアは、まだダメだからね! しかるべき時に、そうするからさ。


 ってことで、楽しみだけどちょっと怖い「後のお楽しみ」は置いといて、和やかな会話に戻るよ!


 みんなの笑顔にすっかりオメガさんも打ち解けてくれたのがわかる。


「なるほど。ビィーが大切にしていただいているのが、あ! 失礼、つい、幼い頃の印象がまだ……」

「いいんですよ! お気になさらずいてください」


 お義兄さんが慌てたのは身分のこと。


 まだ子爵家を継いでないお義兄さんが、たとえ妹であっても、子爵当主の側妃「ニビリティア」ちゃんを昔の愛称で呼ぶのは失礼だろうって考えたんだと思う。


 その辺りの感覚を持ちだしてくれるお義兄さんに好意を感じつつも、むしろ、良いお兄ちゃんぽさが見えて好感が持てるんだよね。


「いえいえ。私も妹がいますから気持ちはわかります。なるほど。実家ではビィーって呼ばれていたんですね。何か由来が?」

「ありがとうございます。小さい頃、どこでも着いてこようとするんです。ただ、我が家にずっといた老馬がいましてね。あるとき、送ろう安楽死させるという時に、ウチに閉じ込めていたはずなのにいつの間にか抜け出していて、私の背中にいたんです。それで思いっきり泣き出したことがありました。もう、誰にも手がつけられないくらいの大泣きです。それ以来、ビィーと。まあ、昔から優しい子なんです」

「もう! 兄様、それは無しです。いつまでも子ども扱いしてぇ」


 もちろん、テーブルには、父上も母上も幼いリーゼも、そして妻達も全員が顔を揃えて優しい顔で話を聞いてる。


 おそらく、オレを含めて、女性同士もすごく仲がいいことをお義兄さんなりに感じてくれたんだろうね。


 家長の代理として正式に側妃として認められたんだ。


 やったっ!


 せっかく王都に来たのだからやるべき事はいろいろとあるのだろう。手紙なんかもいろいろと頼まれているのが普通だからね。


 それにそもそもの目的があるはずだ。それはハーバル子爵家としての用件のはず。それが「政府のに話をしたい」ってことだと分かって、オレはあえて時間を作ってもらったんだ。


 オレがお義兄さん…… オメガさんと時間が作れたのは3日後のこと。


「こちらにご案内させていただきます」


 誰に会わせるかはサプライズw


「王宮に? ショウ様はすごいんですね。その若さで叙爵されたのもそうですけど」


 カーマイン家の公式馬車ということもあるし、事前に話は付けてある。


 それに、門番とは、すっかり顔なじみになった(そりゃ、お砂糖とお塩の「お気持ちですセット」が効いてるよね)から、事実上の顔パスだ。

 

「あ、えっと、まあ、このところいろいろと用事が多くて」


 苦笑いだ。


「こちらです」

「え? こんな奥の部屋?」


 当たり前だけど、王宮の各部屋にはプレートなんて着いてないよ。案内役の後を着いていかないと、どうやって行けばいいのかも分からない。


 それはわざと、そうなっているわけだから、わかりやすくちゃダメなんだよ。


「こちらでございます」

「ん、ごくろう」


 チップを渡すのも当たり前。こういう時用の小銭は必須なんだよ。


 そして、着いてみれば一目で部屋の重々しさがわかるはず。


 部屋の前に立つ警備の人間には話が付いているのだろう。オレの顔を見た途端に「カーマイン卿でございます」とドアの中に声を掛けている。


 そこに「ごくろう」ってエラソーに声を掛けて、オメガさんを連れて中に入ったんだ。


「お待たせいたしました。宰相閣下」

 

 オメガさんはさすが。名前を聞く前に、オレの作法をパッとまねていたらしい。


「楽にしたまえ、ショウくん。それとハーバル家のご長男、オメガ殿だね? ノーマン・クラヴト=ステンレスだと言えば、わかるね」

「宰相閣下でいらっしゃいましたか! 失礼いたしました。ハーバル子爵家が長男、オメガ・タック=ニルベンガーにございます」


 最敬礼ってヤツだ。うん、内宮の官僚でもしない限り、子爵クラスの田舎貴族なんて本来は公爵閣下と直接口をきくチャンスなんてあるかどうかの世界だもんね。本来は、オレもこのくらい緊張しなくちゃいけないんだよなぁ。


 しみじみ……


「オメガ殿が来てくれて良かった。話さなければいけないことがある。といっても、先に貴殿の上洛のゆえをうかがいたい。国に何かを言いたかったのでは無いかね?」

「どうしてそれを!」

「それなら、私が聞こう。たぶん、それが一番話が早いはずだ」


 瞬間、オレに視線が来たのは感謝ってこと。地方貴族が国に陳情するとき、宰相に会わせてくれるなんて最高だもんね。


「ありがたき幸せにございます」

「こちらにお座りいただこう。ショウくんはおそらく関係者になる予定だ。立ち合わせることを私が許可している」


 ちょっと、オレが引きそうなほどに推してるんだけど、まあ「紹介者」を排除してくれってのも、オメガさんからは言えないのだろう。


「もちろんです。それでは、お話しさせていただきます。といっても、いきなりの許可は期待していません。進言と国としての反応を知りたいという事で、手紙ではなく、私がまいりました」

「ほう? と言うことは、相当に困った問題と言うことなのだろうな」

「宰相様は、最近、見つかった遺跡『シード』のことはご存じですか?」

「うむ。よく知っているぞ。グレーヌ教の聖遺物にもなりそうな遺跡ということだと思ったが」


 まさに、それで悩んでる最中だもんね。


「なりそう、と言うよりも、既にあの場所は聖地となっております。国教会が正式に認定していないのは『他国の領土に聖地を認定できない』と言うミエのようなものです。既に知ってしまったグレーヌ教徒がひっきりなしに訪れており、いろいろと摩擦も起きております。ご存じかも知れませんが、西部地区では国境の境界線というものを事実上構築できておりませんので手に負えません。もはや追い返すのは不可能です」

「ふむ。具体的に、どれほどの人が押し寄せているんだね?」

「ハッキリと数えられる状態ではございませんが、一日に千や二千ではないと思います。しかも、信仰心の厚い者がやって来るためか貧しい者が多く、それを狙った誘拐、それにあこぎな商売を働くものなど犯罪も増えてまいりました」

「ふむ」

「何よりも、多くのものがそこで水や食料を得ようとするため、また、人の営みによる汚染もありますれば、辺りの治安の悪化は目を覆わんばかりにございます」

「なるほど。となると、国がそれを管理してほしいという願いかね?」

「いいえ。逆でございます」

「逆だと?」


 オメガさんは、それでも、最後の瞬間にためらったのは事実だ。でも、それを言うために来た以上、言わない選択肢など無いんだよね。

 

 ゆっくりと息を吸い込んでから、ハッキリと言ったんだ。


「さいわいにして、アマンダ王国からシードへ至る道のりには、男爵家が二つ、それに、多少の余裕を持って見ても騎士爵の住む小さな村が三つだけ。その程度の領地であれば、いっそアマンダ王国に引き渡してしまうのはいかがかと、といいますか引き渡すべきです。それを進言しにまいりました」


 おそらく、ノーマン様は、これもあり得ると考えていたんだと思う。だけど、この提案は絶対に今の王国にはのめないというのも事実だ。


 なぜなら……


「卿は、先ほど小さな村が三つ、男爵家が二つだけだと申したな?」

「確かに、申しました。ドルイ男爵とマイサーク男爵、それに騎士爵が住む村はメイ、ミニ、ハムにございます」

「歴史は学んだのだろうか?」

「多少は」


 やっぱ、そっちの話になるよな、とオレは思った。だって、婚約者内戦の前は国境線が今よりもさらに400キロ西にあったんだもん。押し込まれた分だけ土地無し貴族が生まれて、没落した者も数知れず、あるいは捲土重来を夢見る者も数知れず、そもそも西部の小領主地帯の半分以上の貴族達は領土を縮小して再配分されたんだよ。


 だから、一メートルと言えども「国境線を押し込まれた」形になれば、下手をすると西部の男爵をはじめとした下位貴族が一斉にアマンダ王国になびいてしまう可能性があるんだ。


 王国にとって、そんなことは不可能に決まってる。


 しかし、それを知っていてなお、これを陳情してきている。となると、現地ではどれだけヤバい現実なのかって話だ。


「卿のお覚悟は?」

「今回、回廊として土地を提供した男爵家と村には、同じ面積だけ我が家の領地をそっくりそのまま譲り渡す覚悟です」

「そうなるのか。よほど、ということだね」


 宰相が息を呑んだのもわかる。


 西部地区は男爵と言えども領地そのものは広い。そんなことをしたらハーバル家の領地は半分以下になってしまうはずだ。しかも、現地の治安は当然悪化している以上、兵士や騎士を減らすわけにもいかなくなるんだ。


「貴家のお困りのこと、お覚悟はよく理解したつもりだ。では、アマンダ王国でのオノマトーペの話はご存じかね?」

「え? オノマトーペが? いったいどんな、あ ……まさか聖戦ですか? そんな、そんなことになったら、壮絶なまでに血が流れることに」

「最重要な情報として届いた知らせだからね。おそらく、貴殿を追いこしてきた情報だ。ただし、それが出されたからといって、すぐにになるとは思えないのが辛うじての救いなんだがね」

「お言葉ですが戦いはもう始まっているはずです」

「なんだと? まだ、枢機卿会議も開く時間は無いはずだぞ」

「国がどうするかではないのです。オノマトーペが出されたとしたら『シードを』とでもなったハズです。それを知ってしまった民は、間違いなく神の御心にそのまま従おうとするでしょう。国が何をどうすると決める前に、戦いを開始するに決まっています。勝てるかどうかとか自分の命がどうか、と言うことよりも神の御心に従おうとするのです」


 オレはっていうか、おそらくノーマン様ご自身も、決定的な過ちに気付いたんだと思う。


 オメガさんが蒼白になってるけど、ノーマン様もっていうか、オレも慌ててる。


 国同士のことしか考えてなかったよ。


 それぞれの信徒が個人的に聖戦を始めてしまう可能性があると言うことを、今の今まで考えもしなかった……


「宰相閣下。オノマトーペのことを国で父はわかっているでしょうか?」

「あぁ、それは確実にご存じのはずだ。主立った家には通知したし、それぞれが周りに伝えていくはずだから。すくなくともハーバル家には必ず伝わっているはずだ」

「よかった。父がわかってさえいれば、必ず対応は考えるはずです。今すぐの危機にはならないかと。しかし、1年いや、半年後まで持たせられるかと言えば、自信がございません」


 しばらく顔を両手で覆った後「すまないが」とノーマン様が声を出した。


「大至急使者を立てる。またとりあえず騎士団を派遣しよう。卿も心が逸ることとは思うが、できる限り現地の情報が欲しい。もちろん、今回の提案についても検討するが、譲ることに関して、現時点で私は否定的であることはお伝えしておく」

「はい。今回、すぐに受け入れていただけるとも思っておりませんので。ただ、現地の者からするとグレーヌ教に関することはグレーヌ教徒に任せてしまった方が、お互いに心が安まるのではないかと考えております」


 ふむ、とため息のようなモノを吐き降ろしてから「そなたは、かの教徒のことをよく存じているようだな」と皮肉のように言ったのは珍しいことだった。


「はい。西部ではグレーヌの信徒であることは珍しくありません。なにしろ教え自体はとても正しいものですから。基本は『誠実に生きるべし』なわけですし。すべからく、人はそうありたいと思います」

「ははは。それでは、まるでそなたも信徒のようではないか」


 自分が話を振ったからだろう、否定もできず苦笑いをするノーマン様だ。


「はい。私は母からの影響で生まれた時から入信しております。生粋のグレーヌ教徒です。これに関して、信徒はウソをつけないことになっておりますので」

「そなたが信徒?」


 横で聞いていたオレは、その言葉が頭でリフレインしていた。確かに言った。「母からの影響で」と。


 じゃあ、ニアは?


 背中を嫌な汗が流れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

ショウくんは、まだニアちゃんの裸は見たことがなかったんですよね~ だから、腕に入れ墨があるかどうかをまだ知りません。


そして、お母さんとお兄ちゃんのオメガさんは信徒です。お父さんは信徒ではないというのは裏設定。そりゃ、国境線として何かの壁があるわけじゃない以上、普段から人の交流はあるわけで、そうなったら宗教を共にするのは珍しいことではないわけです。


王都内を異動する際、警護の人数も階級と当主や嫡男か、それ以外ということで制限が付いています。要するに「警護の名の下に戦力を集団運用させない」という意味です。もちろん、許可を得ればその限りではありません。


なかなか、甘々回にいけないよ~


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










 

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