第33話 野外演習 4

 一番近い、中央の泉に行った1年生達が血相を変えて戻ってきた。まだ、6時を少し回った時間だが、既に日差しがどんどん強くなっている。


「南軍のヤツらが水に毒を入れています!」

「馬鹿な。開始早々だぞ。それに、毒が入れられたというのはなぜわかるんだ」

「こ、これを」


 手に持っているのは白い紙。赤い文字で「毒 飲むべからず」と書いてある。


「この紙が、泉の周りに大量に貼ってありました!」


 真ん中の泉は途中から馬が使えなかったらしい。茂みをかき分けて走ったのだろう。暑さと興奮で顔が赤い。


「リーガル先生、規約違反では?」


 陣地にいる審判役のリーガルは法務と外務の教師である。神経質に首を捻った後「本部からの違反を認定したとの連絡は無い。続行だな」とにべもない返事。


「そんな! 毒は武器になります。武器は学園が用意したものだけを使う規則のはずです。毒を使うなんて規約違反な上に、卑怯です!」

「本当に毒を使っていれば違反だが、それをどうやって証明するんだね? 我々が手にしているのは『毒』と書かれた張り紙だ。張り紙一枚でルール違反だとは言えない。毒を使っているのだと証明することだな」


 まるで法理の授業でもしているかのように、冷静な話しぶりだ。ショウは知らないところで、偶然に助けられてもいた。


「あ……」


 すぐさま言われていることが理解できたのだから、やはりドーンの頭は悪くないのだ。


「わかりました」


 3つしかない水場で、しかも一番近いところを使えないのは大きい。代替策を考えなくてはならない。


『こういう時こそ上に立つものが落ち着いてみせるべきだな』


 エレガントな動きを計算しながら椅子に座ると、ティータイムを楽しむ印象を与えるべくカップを持ち上げたその時だった。 


 東側の泉に向かった2年生の部隊が戻ってきた。


「報告します」

「どうしたんだね?」


 嫌な予感がした。


「泉に毒が仕掛けられています!」


 手に持っているのは、さっきと全く同じ紙。


「ぐぬぬぬぬ。卑怯な奴めぇえ!」


 手に持ったカップを地面に叩きつけた。一口だけ手をつけた紅茶を入れたカップは、パリンと砕け地面を濡らした。


 本当は、それほどの怒りを持ったわけではないが、この程度の演技をして見せないと、周りが納得しないだろうという演技である。

 

 カップの砕けた音で、ドーン自身も落ち着きを取り戻した。演技で悔しがるのはともかく、将軍たる自分が動揺してはならない。


 ここは「上に立つ者」としての振る舞いを見せるべきだ。


「諸君は、よく任務を果たしてくれたな。頑張って、急いで戻ってきてくれたことを認めよう」

 

 将軍の鷹揚な笑顔を向けられて、先に戻ってきた1年生部隊はホッとした顔を見せる。


 そこに一番西側の泉に行った部隊も戻ってきた。こちらの泉は遠いが、逆にすぐそばまで馬で近づけたのだという。


「泉に毒が!」

「そこもか」

「一体どうなっているんだ? 開始早々に南軍が我々よりも先に北部まで来て、毒を仕掛けていったとでも言うのかね?」


 本陣にいる人間は顔を見合わせた。答えられるわけがない。


『ともかく、南軍が、ルールを破らない限り、開始早々に北部の泉に毒など入れられるわけが無いのだ。道すらわかってないのに、3つとも我々よりも早くだなんて不可能だろう。一体、どんなカラクリがある? それを突き止めないと。ん? いや、待てよ。その前に……』


 ドーンは重大な事実に気が付いた。


『水が足りない』


 元々、水場があることが前提だった。泉に溜まった水を全て掻き出して使えば3日間の水としては十分だと計算できていた。


 途中で南西の池も奪ってしまえば、後半の「敵地」での補給線も問題なく構築できるはずだった。


 この時点で、ドーンは気付いた。水を節約させねばならない。


「各部隊に残っている水の量を報告させろ。それと各部隊に水を節約しろと伝えろ」


 同じ侯爵家の息子であるオイジュとミガッテに命じる。


「どうやって?」


 イラッとした。それを考えるのが副官の仕事だろう! しかし、同時に相手が1年生であることを辛うじて思い出したドーンは冷静な自分を密かに褒めた。


 自己肯定感の高いタイプなのである。


「早馬を出せ。とにかく、急ぐんだ。それと強行偵察の部隊に、南側での水場の確保を優先目標に変更させろ。防衛部隊がいたら排除して確保だ」

「はっ」


 既に朝7時を回った。完全に「夏の太陽」となって照りつけている。刻一刻と気温が上昇し続けていた。


 決意の表情で、戻ってきた1年生の方を向くと「お前達、確かめてこい」と命じた。


「何を?」

「本当に毒が入っているかだ」

「確かめるんですか? どうやって?」

「誰かが飲んでみろ。心配するな。避難所に行けば毒消しくらいは

「ええ! そんな」

「仕方あるまい。水場がなければ、人も馬も3日間保たんぞ。このままでは負ける。オイジュ!」

「はい」

「1年生を連れていって確かめてこい、重要な任務だぞ。もしも適当なことをしたら我が軍は戦わずして敗北してしまうかもしれん。身体を張って確かめてくるんだ」

「はい」

「後は、先発部隊の情報待ちだ。ほら、ぼーっと待っているのは時間がもったいないぞ。残った人間で陣地構築だ。かかれ!」

「おぅ~」



・・・・・・・・・・・


 本陣は、南北ともに、辺りを見下ろす高台になっていた。


 ブリッジ・ブルーを渡ってきた4、5、6番隊の隊長は、陣地を偵察しながら話し合っている。


「あの、青いシートのせいで中が見えないな」

「ここから真っ直ぐ登ったところだけ中が見えてるとかw アレはワナだな」

「あぁ、オレもそう思う。事実、その内側に木が生えているように見せかけてるけど、あれ、何かを木で隠してるんだろ」

「まさかと思うけど、大石落としとか?」

「まさか。そんなことをしたら、ケガじゃすまないぞ」

「でも、英雄君だろ? 多少のやり過ぎはあるかもよ」


 別に石とは限らない。重いモノを坂道の上から転がり落とすのは、高台に置いた陣地防御としては、珍しくないものだ。しかも相手は、たったひとりで1個小隊を片付けた英雄だ。今は仲間もいる状態だから、自分達3班くらいの人数を相手にするんだったらを図ってきても不思議はなかった。


 恐ろしい。


 革袋に残った水をグイッと飲む。喉がカラカラだ。


「それに、見張りだけがチラチラ様子を見てる分、あそこの影に隠れて罠を張ってる可能性が高いしな」

「話し声が聞こえないところを見ると、オレ達に気付いている可能性だってあるぜ」

「お前達の目は節穴か?」


 4番隊の隊長であるダニエルが、ニキビ面で他の二人をバカにしたように笑った。


「さっきから、鳥が陣地に降りてくると、すぐに飛び立っているのに気付かないのか?」

「そ、そうなのか」

「あぁ。二回も確認したから間違いない」

「ってことは、守りが薄いと見せかけて、どこかに隠れている?」

「だろうな。おそらく、地面に穴を掘ってるんだろう」

「穴? なんでわかるんだよ」

「鳥は、空から見て、誰もいないと思って降りる。地面に降りて初めて人に気付くんだ。としたら、穴を掘ってフタでもしているんだろう」

「な、なるほど。何も知らずに侵入すると、後ろから……」

「くそっ、さすが英雄君だな。オレ達を罠にはめることを狙ってるのか」

「くっくっくっ。だが、まさか、鳥でバレるとは思ってないだろうよ。英雄とは言っても、やっぱりガキだな」

「どうする?」

「さすがに、オレ達に気付いてるかどうかはわからないけど、近くに敵がいると思ってるから、隠れてるんだろ? 感づいていると思った方が良さそうだ」

「あぁ」

「どうする?」

「奇襲ができない以上、あくまでもオレ達は偵察だ。とりあえず、この様子を持ち帰ろう。戦力の小出しは兵学の禁忌だからな」

「そ、そうだな。よし。正面にワナあり。物見ハシゴが3箇所。中の様子は見えないようにしているところからみて、登る途中と砦の中にワナがある可能性が高い。そんな感じで良いか?」

「そうだな」

「よし、水の確保はアップルとチャーリーに行った連中に任せて、オレ達は撤収、報告するぞ」


・・・・・・・・・・・


 本陣前の森の中。高い木の上に登った見張り役から光の合図。伯爵家から提供された良質の鏡を使っているだけに、煌めきはまぶしいばかりだ。


 見張り役は、ハシゴの上で、鏡を見ながら自分の髪の毛を弄るという小芝居をしながら「了解」のサインを送ると、見上げているノーヘルに「行ったみたいです」と小さな声。


「よし、お疲れ。森の方には、引き続き見張れと指示だ。それと見張り役をヤッた後はを飲んでおけよ」

「やったっ。あれ、美味しいんですよね」


 無邪気に喜ぶ姿を見ながら、ノーヘルは「あれは砂糖が入ってるんだぞ。いくらすると思ってるんだ」と心の中で呟く。しかし、ショウから口止めされているし、絶対にケチるなと言われているため微苦笑で済ませた。


「でも、ホントにヤバいのは、陣地だよな。バレたらタダじゃすまないぞ」


 そっと見下ろすと、馬たちは草を食みリラックス中だ。林の入り口に緩やかにつながれている分だけ、涼しい場所を選んでいるのだろう。


 おかげで、ガランとした陣地。


「それにしても度胸があるよなぁ。いくら昼までは偵察止まりだと思っていても、普通は、こんなのできないぞ」


 陣地後ろで、セッセと「水桶」を満たしている6人を除けば、この陣地にいるのは自分と「交代する見張り役」の5人だけだ。


「それに指示がすごいよな。あ、いけね、これ! あっちいけ!」


 舞い降りてきた鳥がいたら、すぐさま追い払えという指示だった。一体それに何の意味があるのかは知らないが、ノーヘルの今の仕事は少ない。


 生来の真面目な性格だけに、将軍から指示されたことを忠実に実行している。


「ふぅ~ 何の意味があるのかはよくわからないけど、ともかく、鳥を追い払ったら、後は祈るだけか。ははは。これで勝てるんならショウ君のところに就職したいよ。頭が良くて、運が良くて、金回りが良い領主なんて最高だもんな」


 そして、数少ないもう一つの仕事。


 本陣前の広場に据え付けられたカマドに、そっと木を足すノーヘルであった。



・・・・・・・・・・・


 本部山。


 エルメスの爆笑が、止まるところを知らない。


「ぷぷぷぷっ、長い歴史上、砦を空にした奴がどこにいる? やっぱり小僧は面白い、面白すぎるぞ! しかも狙いは序盤のだろ? 戦力の集中運用で相手の人数を削るのは兵学の基礎だが、やり方がエキセントリック過ぎる。確かに序盤からいきなり相手の陣地を攻める馬鹿はいない。まずは偵察からだ。だが、そのタイミングを利用して、これはすごすぎるぞぉ」


 本部山から演習地全体が見渡せる。50人近い集団は、徒歩で着々と半包囲を完成させつつあった。


 狙いは「三日月池」まで水を求めてやってきた北軍の3班、15人。


 おそらく体格差を埋めるための人数投入だ。そして、森の中は視界がききにくい。包囲してしまえば袋だたきにできる分、殲滅皆殺しが可能だと計算したに違いない。


 いかに体格差があろうとも、包囲された状態で3倍の敵に襲われれば、タダではすまない。全滅は必至だった。


 1年生達は、包囲網をジリジリと縮めている。一方で、せっかく三日月池まで到着した北軍の一行は、そこで立ちすくんでいるのが見えたのだ。


 ムスフスは、堪らずに、ちょっと大きな独り言を言った。


「アレは一体何をしているんでしょうね? せっかく水場に着いたのに」

「あ~ あれは、絶対に何か仕掛けがあるぜ。なあ?」


 最後のセリフは、ノーマンに向けられたものだ。


「一体、何の話だね?」

「相変わらず、お前さんはとぼけるんだな。もう、そろそろ種を明かしてくれても良いんじゃねぇか? あの池だけは仕掛けが違うんだろ?」


 エルメスが、イタズラをする少年のようなワクワク顔で見つめている。それを見返したノーマンは、クククッと口元を歪めた後、ふぅ~とため息を下ろした。


「私はよく知らないが、なんでもショウ君はトライドン家のが、たいそうお気に召したとのことだ」と苦い顔。

「あ! あれか! ははははは。お前の所で働いている連中も、大変だったな」


 どうにもエルメスの爆笑は止まらないようである。



・・・・・・・・・・・


「もうすぐだな」

「あぁ。だけど、なんか、ヘンなニオイがしないか?」

「ん? あ、確かに。何か腐ったニオイだ」

「大方、どこかで動物が死んでるんだろ。とりあえず、水だ。水が優先。それで水を補充したら、2班の確保要員を残して、水を持ち帰ろう。その後の補給線の構築はドーン様の指示に従えばいい」

「あぁ、そうだな。とりあえずオレ達の水と、馬たちにもやらないと」

「ん? なんかニオイが、なんか、さ、池の方から臭わないか? 強烈な、うわっ、臭っ」

「まさか……」

「わぁあああ、こ、これは、臭ぇえ!」

「ヤバい、ここにも毒って書いてあるっていうか、これは書いて無くてもわかるぞ。あの名誉勲章の奴! マジで毒を使うのかよ! おそらく腐毒の一種だ」

「だ、だけど、ここで水を補給しないと」

「バカっ、こんな腐った水を飲むつもりか!」

「だけど水が無いんだろ? 腐っててもナベで沸かせば、何とかなるかも」

「このニオイの中で、水を汲むのか」

「しかし……」


「「「「「「「掛かったぁ!」」」」」」」


 わぁああああ!


 囲まれていた。ニオイに気を取られて周囲への警戒が緩んでいたのだ。


「わぁああああ!」


 大喊声をあげて襲撃だ。


 しかも多い。木に隔てられて人数はわからないが倍どころではない。下手をしたら、南軍の大半が襲ってきているのかも。


「ヤバい、逃げろ、ここでやられるわけにはいかない」

「突破口は?」

「後ろだ! オレ達が通ってきたところだけは、まだ包囲が完成してない」

「逃げろっ!」


 逃げた。逃げた。逃げた。必死に逃げた。


 取りだしかけた水袋も放り出し、背嚢ごと放り出して逃げた。


 全力だ。


 数倍の敵による森の中の包囲網。


 しかし、幸いなことに敵が奇襲に慣れていなかった。かなり距離がある段階から喊声を上げてしまったのだ。


 これなら逃げられるかもしれない。


 走りながら、逃げるのを優先。荷物をどんどん放り出して、手元の武器もヤリなど邪魔になる。


 捨てて、逃げた、捨てた、逃げた。何もかも放り出して逃げた。


「やれ! コイツだ! コイツを倒せ!」


 一番後ろが捕まったらしい。ヤバい、逃げ遅れれば、自分も。


 全員が必至になって馬の所まで戻った。


 ハア、ハア、ハア、ハア


「ヤバかったぁ」

「あぁ。どうだ、追いかけてきたか?」

「いや、途中から声が遠くなったから、深追いをしないようにしていたのかもな」

「何人やられた?」

「1番隊は二人やられた」

「2番隊は全員無事」

「3番隊は…… 全員無事」


 思った以上に被害が少なかった。一番隊が先頭だっただけに、逃げる時は最後尾。その後ろの二人が捕まってしまったのだろう。


 ともかく報告が必要だ。誰しも失敗を報告するのは嫌なことではある。しかし王立学園の生徒として「作戦失敗は、成功の報告よりも優先だ」というシツケを忠実に守ったのはさすがだ。


 彼らがドーンの元に戻ったのは、その日の午後2時を過ぎていた。


「申し訳ありません」

「いや、報告を急いでくれたことは評価する」


 さすがに、これで怒り狂うほど、ドーンも愚かではない。


 水場が腐敗物で汚染され「毒」の表示があったこと。それでも煮沸後に飲める可能性を考え水を採取しようとしたところを包囲され奇襲を受けたことをきちんと報告を受けたのである。 

 

 ふむ、と首を捻った後、ニヤリと笑った。


1年だな。それだけの包囲網を敷いておいて、損害が1割か」

「はい。被害と言えば逃げる途中に荷物を失ったものが大半だと言うことと、武器を…… 特に槍を持っていた者は逃げるのを優先いたしましたゆえに」

 

 ハァとため息をつく。


 損害が最小限ですんだことは僥倖だったが、武器を15人分喪ったのは地味に痛い。元々武芸を苦手とする平民枠の者から回すしかないだろう。


『水が限られているのに、革袋ごと手持ちの水を喪ったダメージは小さくないぞ』


 さすがに苦い顔。学園が準備した武器しか使えない以上、15人が非武装化したと言うことだ。


『何、そっちは専門の補給部隊にすれば良かろう。もともと主攻など半分もいれば十分なのだからな』


 あれこれ考えていると奇襲を受けた者達が頭を下げていた。

 

「申し訳ない」


 1~3番隊は、実は北軍でも最精鋭の部隊になっている。そこが序盤で奇襲を受け逃げ帰ってきたのだ。


 さすがにドーンもなんて声をかけるべきか少々迷う。しかし、まだ初日だ。損害だって「たった二人しか減ってない」と考えれば大きな問題だとは言えない。


 頭を切り替える。


「いや、仕方がない。おそらく南軍は最大戦力を割いたんだろう。序盤のだな」

「削り?」

「同じ人数だと、そもそも戦力差があるのを知っているんだろう。だから、こちらが少数なのを見つけたら最大戦力を投入して、少しずつ戦力を減らすつもりなんだ。これを削りという」

「さすがドーンだ。将軍様だけはあるな。なるほど。ヤツらは、これを最初から狙っていたと?」

「おそらくな。しかも、だ」

 

 ドーンはニヤリと笑う。


「やつらは、戦力の半分近くを投入したんだろ? ってことは、こっちへの全面攻撃をあきらめて、すこしずつ削る作戦だ。しかも絶好の機会を捉えておきながら1割しか削れなかったんだ。ヤツらからしたら作戦が大失敗したことになる」

「な、なるほど」

「いや、よく逃げてきてくれたな。おかげでヤツらの作戦が読めた。これも強行偵察の役割でもある。諸君は見事に役割を果たしたんだ。胸を張れ。とりあえず陣にいた人間から水を受け取って、少し休んでくれ」


 ドーンの顔には確信に満ちたものが見えている。 


「あぁ、助かる。正直帰り道も走らせたからな、馬もオレ達もへばり気味だ」

「新たな作戦を立てるまで、しばし休憩だ。北部の水場も、今確かめ中だからな。しかもおかげで、北部の池がおそらくブラフだというのも当たりが付いた。三日月池のように腐臭がした泉は報告されてないんだからな」

「あ、そ、そうか。よかった。じゃあ、少し休ませてもらう」

「今回の分は、この後で取り返してくれることを期待してる。頼むぞ、友よ」

「あ、あぁ。期待してくれ」



・・・・・・・・・・・


「お~ のは2名ですんだの! すごいじゃん。大成功」


 報告を受けて、オレはガッツポーズ。


「ホントに良かったの? 言われたとおりにやったんだけど。ノーヘル様がずいぶんと心配しているみたい」


 伝達係はサムの仕事。自分から名乗りを上げてくれたらしい。


 ふむふむ。正直ちょっと意外だったけど、それならそれで、頑張ってもらおう。作戦っていうのはダメ元で打つ手もいっぱいあるからね。


 でも、とりあえず、今回の奇襲の報告は、ありがたかった。


「いーの、いーの。とりあえず、2名しか削れなかった上に、連中の荷物の大半を鹵獲できた。もう、大成功だよ」

「そう言ってくれるなら、みんなもホッとすると思うけど」

「じゃあ、次の段階だよ。そろそろ前進基地の方に水を配置するように伝えてくれないか?」

「前進基地? 別に作ったの?」

「あ、そうか。みんなには教えてなかったよね。後で逆襲する時用に、水を進路に蓄えておくんだ。一番近い橋はブルーだからね。そこの東側に秘密備蓄をするよ。ノーヘル副官に言えば、それでわかるから」

「わ、わかった。きっと、それって大事なコトなんだよね?」

「うん。これが漏れるとマジでやばい可能性がある。相手から水を奪ってるからね。ここでダメ押しは大事なんだ。とりあえず、夕方までに。頼むね」

「わかった。じゃ、戻るね」

「頼んだよ!」


 

・・・・・・・・・・・


 まだ夏の日差しが照りつけている夕方。


 一羽の鳩が三日月池の近くから飛び立ったのを、エルメスの目は見逃さなかった。


「ふふふ。単純に序盤で削りを入れるとは小僧らしくないなとは思ったが、それにあんなにひどい包囲戦もありえんと思ったら。クックックッ。なるほどな。だったのか。ってことは、もう一波乱あるのだろう? なかなかに楽しませてくれるが、どうやら明日の昼で終わりのようだな。せっかくウチの連中の訓練が…… まあ、訓練は訓練だ。無駄にはならなかろう」


 夕方になった山頂には、涼しげな風が吹き出していた。


 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者から

さんざん、伏線にしていた「毒のように見える食べ物」の登場です!

あらかじめトライドン家のライザー様から納豆菌をいただいて、量産していました。

1日目は、まだ終わりません。


歴史オタクだった記憶を保つショウ君は、秀吉のやった「鳥取城攻め」を知っています。今回は「兵糧」ではなく、狙いは「水」なんですけどね。


それと、毎回おねだりしてしまってすみません。


みなさま★★★評価へのご協力に、とっても感謝しています。

本当にありがとうございます。

お手を煩わせていただいたおかげで、順位アップできると

作者のやる気は爆上がりです! お願い30位以内!

応援してくださるみなさまに作者は大感激しております。

評価って言うか応援のつもりで★★★をお願いします。

ショウ君も新川も褒められて伸びる子です。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





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