第34話 野外演習 5

 陣地から一番近い、中央の泉。


 灼熱の太陽が照りつける酷暑だ。たどり着くまでに、革袋に残った水を全て飲み干すのは必然だった。


 手持ちの水はもうない。


 目の前で泉が綺麗な水をたたえている。


「どうするんだよ」


 オイジュは、誰に言うとでもなく声を出していた。


 泉の周りのここかしこにある立て札が圧を放っている。


 いかにも毒々しい赤文字で「毒」「飲んだ人は必ず死ぬ」「飲むな!」「泉の水を飲んで死なない人はいない」「飲んで死ぬか。飲まずに生きるか」「飲んだら危険」「死ぬまで飲むな」「飲む偽善より、飲む後悔」「死んでも恨むな」と煽るような立て札で埋め尽くされている。


「こ、これだけ、書いているってことは、逆に脅しに決まってるじゃん。ホントに毒を入れたらルール違反らしいし」


 オイジュは、ゴクリとつばを飲んでから、静かに命じた。


「おい、キッツ!」

「は、はい」

「ゲヘル様には、お前の貢献について、きちんと伝えておいてやるからな」

「え? あ、あの、それって、やっぱり、そのぉ」

「サッサと飲め! どうせ脅しに決まってる。ドーン将軍も仰ってただろ。確かめろって!」

 

 脅しだから、なんて言ってなかったと心の中で思ったが、親貴族の嫡男に逆らえないのが男爵家の跡取りというもの。


「わかりました。確かめます」


 恐る恐る泉の縁にしゃがみ込んだ。


『あぁ、ジェイミ。これで無事だったら、きっとデートしようね』


 頭の中でしっかりとフラグを立てているキッツだ。


 幼馴染みのソバカスだらけのジェイミが愛おしい。


『せめて手をつなぎたかったな』


 そんなことを考えていたせいだろうか。泉に手を入れていた。


 冷たい。最初はビックリしたが、気持ち良かった。


「ば、バカ! 飲み水にするんだぞ。手を入れるやつがあるもんか!」

「す、すみません。つい」


 背嚢からカップを取り出してすくってみた。


 クンクン


「ヘンなニオイはしません」


 全員の目がジッと注がれる。


「味を確かめます」


 飲む前に、ヘンな味がしないか、少しだけ確かめようとホンのひと舐め。


「わっ!」


 ぶぅーっと慌てて吐き出した。


「ど、毒か? 大丈夫? ね?」


 自分の命令で毒を飲んだと思えば、平気でいられるほどオイジュは冷血ではないのだ。おそらく、この瞬間、キッツよりも青い顔をしていた。


 ぺっぺっぺっ


 オイジュの言葉を気にする余裕もなく、頻りに吐き出して、水袋に残った最後の水をゴクゴクと飲む。


「これ、毒かどうかはわかりませんけど、ものすご~く塩っぱいです。飲めません」

「塩っぱい? 塩水なのか?」


 オイジュが泉の底を覗き込む。


「真っ白だ。これは塩なのか?」


 限界量まで塩が溶かし込まれ、それだけでは足りないとばかりに白いものが泉を浅くしている。砂糖ほどではないが、それなりに高価な塩を、まるで砂でも撒くような、こんな大量の使い方なんてありえない。しかし「泉の底から自然に湧き出してくる塩」なんてモノが存在しないのも確かだ。


 まるで、塩でできた泉になっている。


「塩を取り除いたら、どうにか飲めないか?」

「無理です。水は下から湧いてます。周りの地面にも溶け込んでるだろうし。全部を掘り返しても、飲めるようになるのに半日はかかるかと。それに、もともと湧き出る量は少ないはずなので、飲み水が手に入るのがいつになるか……」


 仕方がない。ここはあきらめるしかない。


 ここに至って、オイジュも気が付いた。


「となると、水がないじゃん」


 トボトボと戻ったオイジュに、素晴らしい知らせが届いたのである。



・・・・・・・・・・・



 ドーンは主だった人間を呼び集めると「読み上げてくれ」とオイジュに言った。



「ブ東基地有。水。将南西」


 鳥が運んできた単語だけの通信文を読み上げてから、頬を紅潮させたオイジュは叫んだ。


「ブリッジ・ブルーの横に基地がある。そこに水が置かれる。そして、敵の将軍は陣地から出て南西の方向にいるということだ! これはチャンスだ」


 ドーンは、いかにも、それが自分の手柄であるかのように上機嫌な顔をして、グルッと見回した。


「南軍は前進基地のようなものを密かに作ったらしい。今、斥候を出したところだ。そこに水などの補給物資を置いて精鋭部隊が身を潜めるつもりだろう」


 すごい情報だ。しかし、何でそんなことが、今、わかるのか。半信半疑の感嘆符の中でオイジュに発言を促した。


「スパイを送り込んであります」


 胸を張る。この時のために、をヘンな部活にムリヤリ参加させていたのだ。


「さすがトライドン家の跡取りということか」


 みんなが、一斉に納得した顔になった。侯爵家の力なら、そんなこともできるのだと知っているからだ。


 ドーンは続けた。


「先ほど三日月池で大兵力による奇襲を受けた意味がわかった。そこに南軍の将軍が隠れていたからだ」


 奇襲を受けた当人達は、ほぅ、と頷いた。


「これで連中の作戦が読めた」


 ニヤリ


「泉を潰すことで短期決戦にもっていくつもりだろう。そして、自分たちの陣地には罠を仕掛けてある。もちろん、こっちは既に罠があることを見破っているがね」


 ブルー・ブリッジを渡った隊、特にダニエルが得意そうに、周りへ笑顔を見せる。


 全員が水不足でへばりかけているが、良い雰囲気になっていた。


「こちらが総力を上げて相手陣地を攻撃した時に、陣地の罠を使って時間稼ぎをする。主力部隊がいない時を狙い澄まして、つまりは、で、こちらの軍旗を狙いに来るつもりだ」


 一同は驚愕の顔で見ている。確かに、それをやられたらヤバかったかもしれない。


「これが読めた以上、もう、勝ちを手に入れたようなものだ」


 ここで具体的な指示を出せば、人々は従う。侯爵家の跡取りとしての人心掌握術は叩き込まれていた。


「やつらは卑怯な手段で泉を潰した。向こうが水を余分に準備していたのは確かだ。現状で、そこはつかめないが、カウンターアタックをするつもりで補給物資を蓄えているなら、当然、水もそこにあるはずだ」

「なるほど。そこをいただく」

「向こうも前線への補給路が延びて、こちらの陣地攻撃がしにくくなる。一石二鳥というわけだ。水さえ手に入れば、こちらは急戦に持ちこむ必要など無い。じっくりと一つひとつ攻めていけば良い」

「なるほど」

「では、これより、敵の前線補給基地を襲撃する部隊を編成する。志願する部隊は、前へ」


 ザッ


 全部隊が、一歩前へ出た。


 もちろん、この結果を狙っていたが、やはり全員が志願したという事実が士気を鼓舞するのものだ。


 ドーンは、胸を張って命令した。


「さすがサスティナブル王国の未来を担う英雄達である! 諸君の強い意志を買おう。では、命じる。先ほどの復讐戦だ。1番隊から3番隊を主攻とし、7番隊から9番隊が橋の確保。残りの者の半数で物資を運ぶ準備として橋の手前で待機。半数は陣地の警備だ。ただし、敵がこっそりと攻撃に来る可能性がある。その場合は4番隊から6番隊が敵攻撃隊に対する主攻となる。準備に掛かれ」

「「「「「「おう!」」」」」」


 再び、勇ましい返答が返ってきた。


 しかし、ドーンは気付かなかった。


 出発前に、あちこちでヒソヒソと「どうしよ、あいつ愛馬に飲ませる水が、これだけしかない」「オレの分をやる。こっちも飲ませてやれよ」「でも、お前、さっきからぜんぜん飲んでないだろ」「なぁに。連中から奪った水をたっぷり飲ませてもらうよ」


 それに似た会話がそこかしこで囁かれていた。



・・・・・・・・・・・



「見ろよ。また、何かやってるぞ」


 エルメスの顔は、すっかり「悪ガキ」になっている。


 元々、各騎士団と国軍の長であるエルメスは「近い」存在だ。演習で何度も顔を合わせている。しかし、今日の半日、共通のオモチャで一緒に遊んでいたかのようにムスフスもトヴェルクも、すっかりエルメスとダチのようになってしまった。


「最初に展開しておいた部隊を使って、前進基地を作るわけですね」


 トヴェルクが楽しげに答えた。


「しかし、あそこは場所が悪すぎる。作るなら、チャーリーを渡った後で西に動くべきだ。あれだと、北軍が橋のこちらに展開して、すぐに見つかる可能性が高い」


 ムスフスも、楽しそうだ。


「運びこんだツボは、おそらく水だろ? アレを奪われると、ここまでの苦労が全部無駄になるわけだ。もちろん、物資の警備は南軍の最強部隊とされる2年生なんだろうな?」

「のようですね。物腰で、おそらくそうかと」

「お~ 水を入れた壺が、どんどん運ばれますなぁ」

「そうだな。最前線への補給基地なら、当然だ。あれならが飲んでも半日は保つ量になるってわけだ。クッ、クッ、クッ」


 エルメスが含み笑いをすると、すっかりダチになった二人は、いやぁ、実に面白いと合いの手。


 ノーマンは、割って入らざるを得ない。


「お前達だけで楽しんでないで、教えんか!」

「まあまあ、そう急かしなさんな、おふたかた」


 巻き込まれたリンデロンは、表情を消すが、視線はピタリと当該部隊に注がれている。


「あ、出ましたな。さすがにカルビン家のご令息。判断が速い。6班プラスで出したと言うことは、物資をぶんどるつもりだ」


 いち早く、ムスフスが指摘した。


「まあ、素早く判断しないといけないと追い込まれてるんだろうけどな」

「なるほど。判断の焦りを誘うのも、ここで大事なのでしょうな」

「おっと、南軍も気付いたようだな。これは残置斥候がいるぞ」

「残置斥候ですか? そんな実戦的なやり口を近頃は学園で教えているのですか?」


 ムスフスが驚きの声。


 上からも見えないが、おそらく、森の中に一人か二人、斥候役を置いてあるのだろう。万が一の場合、本当の戦場なら敵に発見され次第殺される危険な斥候役だ。


 しかし、見通しのきかない戦場においては極めて有効とされている。


 南軍は、2年生と思われる部隊を「警備役です」とでも言いたげに残しておいて、1年生達はサッサと引き上げている。


 引き上げていく1年生の姿を北軍の斥候は確かに見たハズだ。完璧なタイミング。


「これが終われば、戦闘停止時間だな」


 エルメスが独りごちる。


 夜の時間は危険性が高すぎるため「灯りに照らされた陣地攻略戦の」以外の戦闘は禁止されていた。


 移動のみなら許されるが、その際は灯りをつけて移動する義務がある。


 そして「相手の陣地へのは禁止」というルールが20年ほど前に追加された。


 これは、戦闘再開となる夜明け直前に相手陣地にムリヤリ押し入った上で、時間になった途端、相手陣地内を一人で殲滅し、将軍を屠った男がいたせいだ。


 当然のことながら問題となった。演習後に査問が開かれると男は言った


「相手の陣地で夜明けのティータイムを楽しみたかった。たまたま、戦闘再開となったため、周りを見ると敵だらけで、そこに将軍がいた。見敵必殺のを守っただけで他意は無い」


 堂々と言い切ったため、不問とされた。


 それ以後「相手陣地への移動禁止」が書き加えられたのである。


 リンデロンは言った。


「夜間の軍事行動はできないぞ。まあ、暴力と言えるまでの武力でも持たない限り、そうそう紅茶を飲みに行きたがる人間もいないが」


 リンデロンとノーマンは、既にテーブルを出して、紅茶を飲んでいた。


「まあ、若さゆえの過ちって奴よ。ただ、小僧は今晩中にキメにいくつもりかもな」


 カタンとカップを下ろした自分のマナー違反をリンデロンは気付かない。


「ショウ君が、ルールを破ると?」

「ん? 夜間戦闘のルールは破らないと思うぞ」


 ニヤニヤ


「「お館様、おそらく、このようなことかと推察しております」」


 顔色を変えた二人の公爵に、それそれの騎士団長が耳打ちをした。ジッと説明を聞いた後、二人は、それぞれがため息をついた。


「容赦ないな」

「だが合法だ……」


 唖然として、口を閉じられない両公爵をニヤリと見つめながら、教師ガーレフを「ちょっと」と呼びつけるのは、国軍トップの権利だろう。


「夜の間に、やっておいた方が良いことがある。もちろん、やるもやらぬも君たちの判断だが、やっておかないと、かなり可哀想なことが起きると予告しておくよ」

「一体何を?」


 内心は、可笑しくて仕方がなかったが、命に関わることだけに、疎かにする気持ちはなかった。懇切丁寧になすべきことを教えたのである。


「そんなに深刻なことになるのでしょうか?」


 ガーレフは唖然とする。


「私がムダなことを求めているとでも?」

「いえ! けっしてそのようなことは申し上げておりません。おっしゃる通りの手配をいたします!」

「ふむ。まあ、焦らなくて良いぞ。今は日が落ちるまでの一時を、きちんと見定めようではないか」

「ハッ!」


 まるで部下であるかのように背筋をピーンとしたガーレフは、騎士の礼をして答えていた。


 その緊張感と軌を一にして、ブリッジ・ブルーの南に、小さな戦闘が行われるのである。



・・・・・・・・・・・



 粛粛とブリッジ・ブルーを渡る13騎。


 その後から続く15騎は、橋を渡るやいなや下馬し、橋の確保と周辺警備の姿勢だ。「橋」などの拠点の確保術は、座学でも実習でもさんざんに叩き込まれた基本だ。貴族の子弟が中心でもあり、将来は、それぞれの騎士団、国軍での中核となるのだ。基本的なことを疎かにはしていない。


 その15騎に馬を預けた13人は、待ち構えていた斥候物見役の誘導で森の中に消えていった。


 この戦いの帰趨を決めるかもしれない奇襲だ。その重要性を誰しもがヒシヒシと感じ、緊張していた。


 それだけに、夕焼けに染まった空をグルリと眺める余裕など誰にもなかった。だから、一番星にも似た光がほんのわずかな間、煌めいたことに誰も気付かなかったのである。


 それから30分後。勝負は付いていた。さすが2年生の最精鋭部隊である。


 同じ学年ではあっても圧勝である。


 今度は北軍が奇襲する側である。しかも、人数が倍いた上に、使命感が強かった。


 汚名返上、名誉挽回と言うこと以外に「自分たちの勝利が北軍を救うことになる」という意識が少年達の剣も槍も普段以上に強烈なものとしたのだ。


 南軍の2年生は決して弱兵ではなかったが、全員のカブトの割板をたたき割られるまでに、3合もいらなかった。


 もともとノーヘル副官の友人達だけに武闘派ではないというのは言い訳かもしれない。


 倍以上に奇襲されて、使命感の強烈な相手だ。一人が相打ちにもっていったのは逆にすごいとも言えるだろう。


 そして……


 勝負が付いてみれば、もともとが「仲間」でもある。


「やられちゃったか〜」


 南軍2年生部隊のリーダーであるベグは、カブトを脱いでポリポリと頭を掻いた。


「ふぅ~ これで、オレ達の負けはなくなったな。怪我は無かったか?」


 1番隊の隊長でもあるエインがホッとした顔で剣を納める。


「あぁ、大丈夫だ。せいぜい痣くらいだろう」

「すまん」

「お互い様だよ」


 そばにあったベグの剣を拾ってやりながら、エインは言った。


「それにしても、2年生が全員、ここにいたんだ?」

「ノーヘルは、陣地だよ」

「いや、そりゃ、副官だろうから当然だけど。でも、これでチビ達1年生の主攻が無くなっちまったわけだろ?」

「まあ、けっこうヤル子もいるみたいだよ」

「と言ってもなぁ。さすがにちょっと気の毒だよ」

「ははは。まあ、我らが英雄さんがどうするか、楽しみにしてるさ。じゃあ、ここから、まだ大変だろうけど頑張れよ」

「あぁ。まあ、これで決まったけどな。明日にでも北軍の勝ちで終わるさ」

「そうだな。明日には決まる」


 死亡判定となった者は、最寄りの「裏口」から真っ直ぐ退出するのが決まりだ。


「じゃあ、またな」

「あぁ。またな」


 去りかけたベグ達は、そこで立ち止まると「あのさ」と気安い声を出した。


「ん?」

「負けた側がこんなことを言うのはヘンだけど、一杯ずつ、飲んでって良いかな?」

「え? 水を?」


 貴重な物資だ。しかし、どう見ても、全員が明日いっぱい飲むには十分な量だ。束の間、考えたが、よく考えたら「毒味の意味がある」と気が付いた。


 ひょっとしたら、婉曲に「これには毒は入ってないよ」と言いたいのかもしれない。


 さすがにベグ達は、真面目で気の良い奴ばかりなのを思い出す。


「わかった。でも、一口だけで良いかな?」

「あぁ。十分だ。で、どのカメから飲めば良い?」


 やっぱりだ。なんて良いヤツなんだとエインは感激する。


「あ、えっと、じゃあ、これと、これ、それにあっちのヤツだ」

「わかった。おい!」


 南軍の2年生達はてんでに分かれて、それぞれのカメに取りつくと、もう、遠慮などしてないと言うかのように、次々とカップで直接すくって無造作に飲んでいる。

 

 とてもではないが、仕掛けがあるとは思えない。


「あ~ 美味い。これクセになるよなぁ」

「あぁ。もっと飲みたくなる味だよ」

「美味い。あ~ こんなのが飲めるなら、伯爵家への仕官を真面目に考えようかなぁ」

「おれも~」

「あ、ごめんごめん。じゃ、これで」


 口々に「美味い」を連発してから去って行った友達を振り返ることなくエインは、さっそくカメを確かめた。


「うん。特に変わったところはない。毒味もしてくれたわけだし」


 さりげないが、確かに5人が違うカメから水をすくうようにしていたのは、おそらく、特定のカメに毒が入っているようなトリックはないよ、と言いたかったのだろう。


『なんだかんだで、あいつら真面目で、良いやつだもんな』


 友人に敬意を払いつつも、並々とたたえられた水を見つめるエイン。気が付くと襲撃部隊の面々はジッとこっちを見ていた。


 実に美味そうに飲んでいた姿が目に焼き付いている。


「味見。いや……オレ達も毒見だな。うん。物資を奪い取った者の使命だ」


 柄杓まで用意されている。至れり尽くせりだ。


 そっとすくった。


 ゴクリ


「美味い! なんだよこれ、甘いじゃん!」

「え? 甘いのか?」

「あぁ、飲んでみろ。ヤツらが飲みたがったわけがわかったよ」


 ぐびっ、ぐびっ、ぐぃ


「美味い」

「甘いぞぉ」

「甘露」


 柑橘系の香りがついていて、甘かった。ほんのわずかな塩味があるが、甘みがあって十分以上に美味い。普段飲んできた水なんてメじゃないほどに美味い。


「おぉ。南軍のヤツら、こんな美味いものを飲んでやがったのかよ」


 しかし、友人達が待っているのを知っている。最初の一杯を飲み干すと手分けしてカメを運び出す準備だ。


「重い」

「これだけあれば、みんなが十分に飲めるな」

「あぁ、これで、やっと普通に戦える」


 勝利を確信したメンバーは、後からやってきた輸送部隊と一緒に、まだ残る暑さの中を、汗びっしょりになりながらも、嬉しげにカメを運び出したのであった。



・・・・・・・・・・・


「ドーン将軍」

「なんだ?」


 1年生が馬の世話を任されている。その責任者に抜擢されたミガッテは、怖ず怖ずと申し出た。


「戦利品の水ですが、馬たちが飲もうとしません。正確に言えば最初は飲むのですが、すぐに飲まなくなってしまうのです」

「ひょっとしたら、あの柑橘系のニオイが気になるのかもしれないな」

「あぁ、なるほど。良い香りだけど馬たちにとって初めてなんで警戒したかな?」

「しかたない。オレ達が始めからもってきた水を馬に回して、あの水は、オレ達が飲もう」

「そうですね。じゃあ、みんなに水袋に残っている水を全部提供するように言います」

「あぁ、そうしてくれ」


 夜間休戦のルールが破られるとは考えてない学園側は、リーガルを呼び出して会議となっていた。


 ドーンは『南軍の規約違反が取り沙汰されているのか?』とも思ったが、むしろ、今、判定勝ちはありがたくないと思った。


 水が手に入った今、自分たちの勝利は確定したも同然だからだ、


「勝って当然だからな。勝つかどうかではない。問題はどういう勝ち方をするかだ」


 戦闘のドサクサで「英雄の死亡判定」を勝ち取るよりも、歴史上、いまだ満たされたことのない勝利条件である「敵軍旗の持ち帰り」による勝利を手にするべきだろう。


 ドーンは、南軍旗を手に、人々の賞賛の拍手の中でポーズをつける姿を夢に見ながら横になったのである。


 リーガルは、まだ戻ってきてなかった。


 それから2時間後、北軍の陣内で地獄が生まれていたのを誰も知らなかった。



 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者から

本日の展開が遅くてすみません。

ここを丁寧に書かないと、夜の地獄がウソっぽくなってしまいますので。


ショウ君は「毒」を使っていません。それを使うとルール違反で負ける可能性があるからです。


人は、苦労して勝ち取ったものに価値を見いだし、信じるもの。

戦場経験の豊富な三人はショウ君の目論見を知っているようです。


生理食塩水と呼ばれる水は、人間の身体とほぼ同じ塩分濃度0.9パーセントとなっています。2リットルのペットボトルに18グラムの塩が溶けています。(食塩だと小さじ3杯) スポーツドリンクは塩分がもっと少なくて2リットルで2,4グラム程度です。意外とお塩が入ってますけど、感じませんよね。スポーツドリンクは、糖分がすごく多いため(5パーセントなので、同100グラム!)塩分を感じにくいみたいです。


それと、毎回おねだりしてしまってすみません。


みなさま★★★評価へのご協力に、とっても感謝しています。

本当にありがとうございます。

お手を煩わせていただいたおかげで、順位アップできると

作者のやる気は爆上がりです! お願い30位以内!

応援してくださるみなさまに作者は大感激しております。

評価って言うか応援のつもりで★★★をお願いします。

ショウ君も新川も褒められて伸びる子です。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



  

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