第30話 野外演習 1

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前話より、時間が遡ります。

大競技会の優勝と、それにともなうパーティーも落ち着いたあとのこと。

なお、このパーティーは学園内のものなのでエスコートは必要なく、メリッサ、メロディー、ニアと4人で行きました。次から次へと人が来たので、妻妃の3人が分担して人をさばいてくれたことに大感謝。改めて「内助の功」の威力を思い知ったショウ君です。

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 6月に入った。


 学園生の全員が講堂に集められた。


 こういう時、クラスごとじゃないのは、文字通り「お家の事情」ってやつだ。この辺りは前世の「生徒は平等」ってことよりも、かなり現実に基づいてる。


 生徒はめいめいの思惑で座席を選ぶことになっている。


 ボッチ体質のオレが困ると思いきや、ちょー楽だよ。


 なにしろ、右にメリッサ、左にメロディーという安定の位置取り。新メンバーのニアはメロディーの左側。その代わりみたいに、オレが部屋まで迎えに行ってエスコートしてきたのはニアだ。


 この辺りの配慮は全部メリッサが考えてくれるからマジで助かってる。しかも、オレがいない時だって、三人で楽しくお話ししているらしい。


 すごぉく安心だよ。


 もちろん、女の子だけじゃない。


 当然のように、シュメルガー家やスコット家、そしてガーネット家の「子」貴族達はそばに集まってるし、ノーヘル様なんて、ちゃっかりオレの斜め前。


 2年生の仲間達を従えて、いかにも参謀っぽい顔をして自慢げに座ってるのが微妙に微笑ましい。

  

 それから、トビー達のように家と関係なく仲良くなった戦略研のメンバーもそばにいるし、当然のようにミチル組のみなさんと席を前後して、既に本格的に春の装いだ。っていうか、もう、春どころじゃないよね! 


 アツいよ、アツいよ! ピューピュー


 とまあ、それはさておき、オレが座っている下手側の席は、そうやってしっかりとグループになっているし、おかげで視線も雰囲気も超優しい。


 なんか学園ドラマだと「影のボス」っぽい立ち位置みたいだけど、将来、ウチに来てもらえないか欲を出してるオレにとって、実に嬉しいつながりだよ。


 一方で、入り口から見て奥となる上手側には二人の王子が、それぞれに取り巻きを連れて座っている。オイジュ君もミガッテ君もそこにいるから、余計にゴチャゴチャ見えて、人数だけだとそっちの方が多いのに、微妙に4区分されてるのが可哀想。


 そして前方に悠然と構えるグループがもう一つ。

 

 ただ、平民枠の子達は、そのあたりの「派閥争い」なんてわからないので「名誉勲章」のオレに付くか、やっぱり「王子様」だと思ってそっちに行くのかは微妙らしい。


 さすがの「王子様ブランド」、しかもあるせいなのか2年生の平民枠はあっち側、1年生の平民枠の子はこっち側って感じかな。


 まあ、学園内の派閥争いなんて興味は無いけど、仲間になっておくと、将来はウチに就職してくれるかもって欲が出てきたのは確かさ。


 おっと、校長からの発表だ。


「諸君。いよいよ夏である、日頃の鍛錬と勉学の成果を見せる時が来たのだ」


 「何」が発表されるのかも、ほぼ、みんなが知っている。それだけに、注目度は高いよ。これから発表するのは「夏の野外演習」という学園生活の四大イベントの一つだ。


 ちなみに「秋の行軍演習」と「冬のダンスパーティー」、そしてこの間の「戦略演習大競技会」が他の三つね。


 そして、これから発表される大事な人事。


「野外演習の将軍を発表する」


 パチパチパチパチパチと一斉に拍手。これは慣例通りに全員で拍手。


「北軍は2年生ドーン・サウザー=ドミナド」


 前方にいたグループの中心だったカルビン侯爵家の長男だ。

 

 パチパチパチパチパチと大拍手。主に上手側。ただし、これはほぼ予想通り。「将軍」役は、家柄と学年を加味して選考されるのが普通だからだ。


 ドーン君は去年も選ばれているらしい。

 

 立ち上がった長身のイケメン君は、慣れた仕草で、グルグルと周りのお辞儀をしてみせる。

 

 そんな挨拶の「間」を取るのも慣例なのだろう。


 イケメン君が座った頃合いで、紙を取り上げて読みあげた。


「南軍はショウ・ライアン=カーマイン子爵とする」


 うわぁああ

 わぉおお

 きゃぁあ

 すげぇえ

 ん? 何だと?

 なにぃい!


 黄色い悲鳴の混じった歓声と怒声、そして驚愕の声が入り混じってこだました。


 何気にタテ読みの件w してないからね?


 一瞬遅れて、パチパチパチパチパチと大拍手。


 ありゃぁ、悪い予感があたったって言うか、情報通りだよ。


 仕方ない。選ばれてしまった以上、やらねば。


 立ち上がって、クルクルと挨拶だ。


「諸君が知っての通り、7月1日払暁、一番に上がるのろしを確認次第、北軍と南軍は戦端を開き、3日間の戦闘をもって勝敗を決する。軍旗を奪って自陣内に持ち帰る、焼失せしめる、敵将軍の死亡判定を取るかのいずれかをもって勝ちとなす。3日目の夕刻までに勝負が付かぬ場合は、引き分けとする。細かいルールは各自の手元にある指令書を熟読のこと。なお、慣例に従い、王族の方々は安全上の問題から不参加とされよ。では、質問はあるか? よろしい。解散」


 しかたない。慣例通りやりますか。


 オレはあらかじめ教えられていたとおり、立ち上がると、いちばん前に立ったんだ。


 向こう側には長身のイケメン君。170はあるよね? たった1歳しか違わないのに体格差は歴然だよ。


「英雄であられる子爵サマを破ることができるだなんて、心から名誉に思わせていただきますよ」


 ぜんぜん敬意のこもってない貴族式の挨拶をブチカマしてくるドーン君に、イラッとしながらも「伯爵家の小せがれですので、どうぞ、お手やわらかに」と笑顔を返しつつ、貴族式の挨拶を交わす。

 

 なんかモノ言いたげに近寄ってきたので、思わずイタズラ心。


「握手ってして見ます?」

「なんだね、それは?」 

「お互いに、剣の手を差し出して、握り合うんですよ。友好の証みたいな感じです」


 って右手を差し出すと、ドーン君も合わせて手を差し出してくれた。


 うん、思ったよりも良い人かも。


 そこで、ありがちな、ギュッと握りしめてくる手。まあ、そうなるよね。


 こっちも笑顔のまま、思いっきりに握り返してあげるw


「うぐっ、ぐっ、手、手を」

「あ、すみません。つい、力が入っちゃって。テヘッ」


 知らん顔をして、みんなの方を向いた。


「サスティナブル王国、ばんざーい バンザーイ 究極の統治に向けて、バンザーイ!」

 

 全員が、一緒にバンザイをするのが、仕来りなんだって。


 こうして、侯爵家の跡継ぎを敵に回して、オレの「将軍」様が始まったんだ。


 オレ達の学園内での本部として、中庭にテントを立てたよ。


 正面の奥には、学園から渡された南軍旗。コタツの天板ほどの白い布に「王立学園 南軍」と見事な刺繍が施されてる。ただ、布自体は安っぽい。消耗品扱いみたいだね。


 とりあえず、これが大事なんだ。なにしろ、将軍様のそばに常にあるべきものだ。部屋に持っていったら、メリッサ達にも見せないとだよw


 目の前には、いつもの戦略研のメンバー、それに、なぜか「右腕」的なポジションでノーヘル様が座ってる。


 ノーヘル様が「2年生の中では優秀なんだ」という仲間も5人ばかり来てくれてる。


 ま、メンバー固めは、この後で良いとして、基本を確認するよ。特に戦略研の子達は、平民枠の子が多いから、細かいことは何も知らないしね。


「じゃ、ノーヘル様、説明を」

「将軍にご指名を受けたので、私から確認をさせてもらう」


 テントの中には縦横100センチ×50センチの作戦板に「恩賜大演習林」の地図が貼ってある。縦20キロ、横10キロ。一番狭い所は真ん中で幅が5キロ。高低差もあり、自然林というよりも森と呼んで良いレベルの木が生えている、全体で見るとひょうたん型をした地形だ。


「この行事は学園の男子全員の160人が強制参加となっている。メンバーは、南北、それぞれの将軍が「士官」を15人まで抜擢できて、残りは学園が決めることになる。ただし、家の事情が配慮されることにはなっている」


「すげぇ~ 貴族は、この年で大人の事情だらけなんだね」

 

 ビリーがボソッとつぶやいた。


「ほら、普段仲の悪い奴と一緒だと力が発揮できないこともあるからね」


 と合いの手を入れた後、ノーヘル様に、続きを促した。


「王都から西側へ150キロだ。なお、恩賜大演習林の横には崖地があって、そこからは全てが見渡せるようになっている。ここは『本部山』と呼ぶのが慣例で、常に人の動きも、ルール違反がないかも監視されてるぞ。それに、体調が悪いと判断されたら助けが入って「死亡判定」だな。それと1年生もいるんで一応見せておこう。ベグ、みんなに」

「おう」


 革の甲冑姿になったベグ君の胸と背中、そしてカブトの額の部分には支柱で浮かせてある薄い板があった。


「一応、矢も刀剣の類いも刃引きはしてあるけど、当たればケガをするので注意しろ。この板が割れた時点で死亡判定だ。割れたのに、割れてないように誤魔化したり、インチキをすると退学処分になるので注意してくれ」

「重っ!」


 トビーが仰天してる。


「仕方ないんだ。その辺りは公平だからな。基本的には南北同数で戦い、演習中は将軍に指揮命令権インペリウムが与えられる。無茶な命令はともかく、普通の指揮・命令には従う必要がある。そして将軍の指揮の下、先ほどの勝利条件を満たすことになる」

「旗を燃やしちゃえば勝ちなら、それが一番手っ取り早いのでは?」


 ケンの素朴な意見。


「これについては、ほぼ不可能。なぜなら、たいていは、最初に水につけ込むからだ」

「あっ……」

「また、我々が先輩から聞かされている限りでは、旗を自陣に持ち帰れた年もないらしい。奪うことに成功した年はあったらしいが、途中で全部追いつかれている。つまり、事実上、敵の将軍の死亡判定を取るのが勝利条件だと思ってくれ」


「それと念のために言っておくと、演習期間中、外部の者は一切の立ち入りが禁止だ。貴族が自家の手の者を使おうとして発覚した年もあるので、これも注意だ」

「見つかっちゃったら?」


 ビリーが小さな声で聞いてきた。


「ごっそりと、退学になったらしいぞ」

「わっわっわっ」


「武器だけは事前にチェックを受けたもの以外、使用どころか持ち込みも禁止だ。食料と水は学園指定の…… ということは王国標準の背嚢リュックに入る分なら、何をどう持ち込んでも良い。実際には水場が演習林内に何カ所かあるので、持ちこむべきは食料だな。それと野営用のポンチョなど。必要なものは、また直前に教えよう」

 

 ケンは何かを熱心にメモしていた。


「そして、事前に送りつける「設営本部」の道具一式は認められている。これは学園指定の馬車に積める範囲なら、武器以外に持ちこめる道具類の指定は無い。たいていは、このテントの中にあるようなものらしいぞ。ランプや簡単な手当の道具類、メモや事前に作っておく分隊用の地図などだな」


 このあたりは1年生には具体的なイメージが湧かないのだろう。


「トビー、トランプは持ち込み禁止な」


 わざとからかうと、トビーが口をとんがらかした。


「わかってら! そんなこと!」


 ははは と笑い声が響く。


「馬は不公平のないように、持ち込めるのは10頭まで。他は学園の馬が用意されるので、心配しなくて良い」


 ケン達が露骨に嫌な顔をした。


 まだまだ、乗馬技術が拙いからだ。練習あるのみだよ。


「ザッと、必要なことは説明したが、質問はあるか? もしも質問があったらいつでも来てくれ。それでは、これでよろしいでしょうか? ショウ子爵殿」


 チッ、気付きやがった。子爵本人って立場で選ばれたオレは、実はこの中で一番「エライ」人なんだよね。軍事組織は、何事も「縦割り」じゃないと上手く行かないことになってる。


「ご苦労だった。他の者は何か質問があれば、殿に後ほど自由に質問するように。では、後は個別に話をすることにする。解散」


 サッと一斉に「上官に対する敬礼」をして見せたのは、さすが学園生の切り替えだよ。もちろん、オレは肘の角度の甘い「答礼」をしてみせねばならない。


 今回の「夏の野外演習」とはに他ならないわけで、この辺りの組織作りから行動まで、全てを軍隊仕様にする必要があるってコトなんだよね。


 その辺りをわざとゴマカしていたのに、さすがノーヘル副官だ。サクッと見破って「将軍としての振るまい」を押しつけてくるんだから、やっぱり優秀だよなぁ。


「じゃ、他の人は解散。さて、ノーヘル副官? じ~っくりと、組織人事を詰めるとしましょうね」

「はい。閣下」

 

 ノー・ヘルなんて名前のワリに、第一印象は、あんなに真面目そうだったのに……


 この、いかにも「人の悪い笑み」を見る限り、シュメルガー家の血筋は、やっぱり食えない奴が多いんだろうなって感じだよ。


 全員が出ていった後で、オレは密談モードに入ったんだ。


 あ、ウチの手の者を使って「このテントの監視」はお願いしてあるよ。もちろん「妻達の実家」の力を使うのもオレはためらわなかった。


 え? 外部の手を借りちゃダメだろうって? いいんだよ。だって、さっきノーヘル副官がちゃんと説明してたでしょ。「演習期間中、外部の者は一切の立ち入りが禁止」って。オレ自身も今回の演習の「指令書」を改めて熟読しておいたけど、ノーヘルが言ったことは、全面的に、そしてんだよ。


 演習期間は7月1日で、今は6月。そして、ここは学園内だしね。全く問題ないんだよ。


 ともかく、ここは実家の関係からも、性格上も絶対に裏切れないノーヘル様を巻き込んで、どれほど卑怯な手であっても絶対に勝ちに行くよ!


 え? なんか手回しが良すぎるだろうって?


 これもまた、リンデロン様からの情報だったんだけど、今回の指名は、ほぼわかってたんだ。

 

 そしてロウヒー侯爵家が何かを企んでいるのも確かだってこと。細かいウラまではわかってないらしいんだけど、とりあえず「上がりすぎているカーマイン伯爵家の株を落とすのが最優先」と言うことは確かなんだよ。


 父親に迷惑を掛けるわけにもいかないじゃん?


 ってことで「何があっても勝ちに行く」っていうのがオレの目標になったんだ。


 そして、遅くまでノーヘル副官と「士官」候補を決めて学校に提出したんだ。


 それから一週間後、北軍と南軍のメンバーが発表された。


 北軍の士官候補については、ほぼ想定内。1年生からはミガッテ君とオイジュ君、そして、キツネ君だっけ? それぞれ2名の取り巻きが入っているは想定内。やめとけば良いのにぃとは思うけど、それは、あちらの勝手だ。


 だけど、何がどう忖度されたのか、あるいは策謀があったのか。メンバーを見て誰もが仰天したんだ。


「ええええ! なんだよ、これ、敵は2年生じゃん!」

「北軍に入ってる一年生が誰もいないんだけど」


 悲鳴のような声が上がったんだ。


 1年生の平民枠の子なんて、森の中で馬に乗れるのか怪しいレベルだ。


 一方で12歳と13歳の体格の差は平均するとデカい。同じように鍛えてある貴族の子弟は、お誕生日の差が、そのまま差になりやすいんだ。


 一対一で2年生と戦える1年は、ほとんどいないだろうというハンデキャップ。


 よし、やってやろうじゃん。


 王国「夏の野外演習」史上、例のなかった、事実上の1年対2年対決だ。


 これ、ますます、負けたらヤバいニオイがプンプンするよ!



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作者より

今回は、スキルを使ってないように見えますが、レベルアップの恩恵で、握力がシャレにならない状態です。手の骨を砕かないように、手加減付きでした。しかも、こっそりと大量に「出して」ます。


女子は、男子の移動の日を含めて10日間のお休みです。


さて、今回の「卑怯だけど勝ちに行く」方法については、読者のみなさまに公平にお示ししています。もちろん、スキルは使いますが、この条件下で、どう勝ちに行くのか。少しシリーズで続きます。お楽しみに。なお、応援メッセージに予想を書いていただいても構いませんが、その場合、作者としては、お返事無しにさせていただきます。(反応でバレを防ぐためです)


みなさま★★★評価へのご協力に、とっても感謝しています。

本当にありがとうございます。

お手を煩わせていただいたおかげで、順位アップできると

作者のやる気は爆上がりです!

応援してくださるみなさまに作者は大感激しております。

評価って言うか応援のつもりで★★★をお願いします。

ショウ君も新川も褒められて伸びる子です。

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