第14話 新歓キャンプ 9

 ジョンと目配せし合った。


 ショウ様が「二人を守っていろ! 絶対に前に出るなよ」と言い残して、一人で立ち向かっていった。


 オレ達はどうするか。


 とっさに「オレだって一人くらいは相手をできる」と思ったけど、ショウ様には何か計算があるはず。


<トビー、ショウ様がああ仰ったんだ>

  

 たしなめる目だ。


<そうだな>


 ジョンが正しい。今は行くべきではない。


 それよりも、ここは女の子達を…… お二人を守らなきゃ。ショウ様が真っ先に仰ったことなのだから。


 伯爵家の秘伝まで教えていただいたボク達だ。与えられた大事な任務にしくじるわけにはいかない。


 ぷにゅ


 動こうとした瞬間、腕の中の柔らかい感触に気付いた。


 ヤバい。ダンスの最後での乱入だったから、無意識のウチにミルメェルを抱きしめてた。


 たぶん、向こうも抱きしめられているのを意識してないに違いない。騒ぐ場合じゃないんだし。むしろ、抱きついてくれて助かる。


 気付けば、少し震えているらしい。無理もない。年上と言ってもたった一歳差だ。むしろ「女の子」として怖いのは当たり前。


 耳に唇を寄せて、そっと囁いた。


「安心しろ。ショウ様がきっと何とかしてくれる。オレも必ず君を守るから」


 年上だけど、騎士たるもの女性を守らずしてどうするって感じだよ。


「ミチル組は、おふたりを連れて、一番奥へ行くんだ。目立たないようにゆっくりとだぞ」

「あなたたちは?」


 ここは少しでもかっこつけないとダメだよね。


 ウィンクして見せた。余裕のあるフリだ。


「そりゃ、ボクらは守る側だから。でも、ショウ様が心配なさっているを、お側で支えてあげてほしいんだ」

「わかった。そっちは任せて。でも、あんた達も無理しないで」


 そして唇が寄せられた「怖くないよ」と小さな声。


 どうやら、自分も震えていたらしい。


 離れ際にホッペに柔らかいモノが触れた。


「私の初めてだかんね!」

「あっ……」


 赤くなったミルメェルは、つつつと、おふたりのところに行った。ミチル組がさりげなく、そこに集合して、入り口とは反対の方向にゆっくりと向かった。


『キス、されたぁ!』


 なんだか、背が10センチくらい伸びた気がした。


『やるぞ。ボクだってヤレる! 伯爵家の秘伝を教えてもらった身なんだから!』


 さっきの金属の棍棒は、ケントが2本持って背中に隠しながら移動中。


 残りをオレとトビーで持って、ゆっくり、ゆっくり動いた。


 ショウ様は、ワザと派手な動きと、嘲るような声で相手を煽っていた。


『上手い。これなら注意はショウ様一人に向く、あとはお二人…… さすが!』


 メリディアーニ様とメロディアス様が流れを作った。


 完璧な動き。


 まるで、これから夜会のメインステージの中央へと登場するように、ゆっくりと、しかし堂々とした動きは、確実に回りの女の子達を巻き込んで、うねりのような流れを呼び込んでいる。


 これなら、女子が後ろに回れる。


 そこに聞こえたのは、ショウ様の指示。


「戦略研! アナグマだ! ただちにぃ~ 動けぇえ!」


 返事はしない。穴熊。すなわちガチに守りを固めろということ。今の流れで大丈夫。


 いや、もうちょっとか。


 振り返ると、ミルメェルがこっちを見ていた。


 ハンドサインで「行け」を出して、ホールの片隅を指さした。

 了解のハンドサイン。


 ウサギの穴を探したときに決めておいたハンドサインが、こんな時に役に立つとは。


 ショウ様が注意を引いてくれてる。下手に騒いで、敵がこっちに来たら厄介だ。


 クラスにいる戦略研のメンバーは、ジョンとトビー、そしてケント、ビリーにサム。


 サムは見当たらないけど、ビリーはすぐに見つかった。


 手分けして、周囲に小さな声を掛けながら、二人を中心にして女子には隅に集まってもらう。


 静かに、ゆっくりと、でも着実にお二人を包むように女子は片隅へ寄った。同時に、集まった女性達を外から包むように男子が立つ。


 真ん中は「棍棒」を持ったオレ達ふたりと、途中で「よこせ」をしてきた2年生。


 腕に覚えがあるのだろう。だけど、自分から「戦場」に突入していかないのは賢明だと思った。


 相手は多数で、剣に槍を持ってる。この軽い棍棒は、ショウ様のように使いこなすにはコツが必要そうだ。


 それに、指示された陣形は「穴熊」だ。オレ達は守備を固める。そうすれば「戦うべき人」が安心して戦えるのだから。


 オレの目はケントがハンス先生と、そして堪えきれずに自分から受け取りに来たアルバート先生に棍棒を渡すのを見た。


 よし、これでいい。こっちの大駒だ! 攻めるのは今度はこっちの番!


「ヤグラ 完成です!」


 オレが叫んだのとハンス先生が鮮やかに一人目を倒したのは同時。いや、叫び終わる前にハンス先生の2撃目が二人目を倒していた。


「強ぇえ」

「あぁ」


 ジョンと声が出ていたときには、相手の刀を奪ったハンス先生が無双を始めていた。


『さすが、近衛騎士団の最強』


 あまりにも鮮やかな太刀さばきに、怖々とみていたはずの女子も、思わず、小さく歓声を上げてしまう。


 でも、それを押しとどめる必要はもう無かった。


 アルバート先生が腰のことも忘れて、正面をねじ伏せていたからだ。


 そこにショウ様が、またしても見事な動き。


 どんなシカケなのか、手の中から「糸」を放ってヤリを襲ったのだ。


『ってことは、この事態を予想していたんだろ? さもなきゃ武器を隠し持っているはずが無いもんな。すげぇ。さすが天才』


 ショウ様の派手な動きは、直接の攻撃ではなかったらしい。


 しかし「糸」を避けようとしてヤリ使い達の体勢にスキができた。


 次の瞬間には、ハンス先生が、その間を駆け抜けていたんだ。


 血しぶきがハンス先生が通った後に飛んだ気がするほどに、速かった。


『そっか。ハンス先生を信頼して、自分はスキを作ることに専念したんだ。さすが伯爵家の跡取りだけに、ちゃんとんだ。すげぇ』


「あ! 逃げる!」


 誰かの声が聞こえた。


 しかし、入り口のところにいた二人が逃げ出そうとしたら、突然、何か見えない紐にでも引っかかったみたいに転倒。


 そこをアルバート先生がとどめを刺した。


 外の様子をうかがってから、ショウ様が初めてこっちを振り返ったんだ。


 その瞬間のショウ様は、さっきまでの英雄ぶりなど忘れてきたように、戸惑った微笑をなさったのをハッキリと覚えてる。


 そして、ハイヒールのまま飛びついていった赤とブルーのドレス姿。


 優雅で、高貴な微笑を浮かべていたはずのお二人は、オレ達の英雄に抱きついて、泣いていたのは、自分が殺されるかもしれないという怖さではない。


 愛する人が自分のために戦ってくれた感謝と、そして無事だったという安堵の涙だったことを、ここにいる全員がわかっていたんだ。


 オレは、三人に向かって拍手をしてしまった。気が付くと、それがみんなに伝わって、ホール中が拍手していた。


 さっき鬼神のような太刀さばきを見せたハンス先生も、アルバート先生も、心からの拍手をしていたんだ。



・・・・・・・・・・・


 拍手が鳴り響いた中で、教師達が率先して、まず敵の刀を奪って帯剣した。


 次に男子生徒が帯剣をし、ゲストハウスのあちこちにバリケードを作った。


 敵の襲撃が、この後に来ないという保証は無かったからだ。


 しかし、ピンチを切り抜け、全員が武装できたおかげで、生徒も教師も、表情は極めて明るかったのである。



・・・・・・・・・・・


 ちょうどその頃、王宮では、異様なまでに暗い男達が頭を抱えていた。


 異例の事態であった。


 今回の事態をもたらした国王自身と、親国王派とも言うべき重鎮は全て視線をあげられない。


 国王右手の最上席に座るノーマンが激怒しつつも、宰相として事態打開の策を考えているところだ。


 反対列の最上席にいるリンデロンは、凍てつく視線で見つめる相手から国王ですら例外にしていない。


 平たく言っても、その明晰な頭脳の中で「どいつから暗殺してやろうか」と考えているとしか思えない姿だ。


 唯一、近衛騎士団の副団長であり、国軍総司令の肩書きを持つエルメスだけは、テーブルから離れた窓辺の席に、放埒な姿で座っていた。


 そこから、戦場でもよく響くと言われた声でノーマンに話しかける。


「命令書など、もはやどうでも良いだろう。我に任せよ。賊と…… 小賢しいことを言ったヤツらの首を片端から撥ねてくれるわ。この手でな!」


 エルメスも激怒しているのがよくわかる。


 先ほどまで小賢しいことを言い続けた連中親国王派は震え上がった。エルメスならヤル。何を言っても絶対にヤル。誰も対抗できない圧倒的な力で、襲ってくる。


 全員が、秒の単位での死を連想していた。

 

 エルメスは震えあがった一同の空気など知らぬ顔で、ふっと思いついたように言った。


「だがな、案外と、おぬしらの考えとは違う形になるかもしれんぞ」


 人々は、初めて顔を上げた。次の瞬間に自分の首がはねられているかも、という恐怖を三割ほど持っている目だ。


 しかし、エルメスの表情には、不思議なユーモアが浮かんでいた。


「幸いなことに、あそこには小僧ショウがいる。何かしでかすかもしれん」


 リンデロンが直ちに「無理だ」と否定する。


「一個小隊だぞ。いくらショウ君でも、30人を相手にできるわけがなかろう」

「いや、30人に勝つ必要は無いな」

「なんだと?」

「連中は任務の達成のために、ある程度の人数が残っている必要があるんだろう? こういう時、何人残っていれば誘拐できるんだね?」


 戦争に勝つ技術なら知っているが、人をさらうといった「陰謀」の類いなど、知ったことではない。


 リンデロンは、すぐさま「二人をさらうなら最低10人。ただし、さらうつもりが無いなら、大した人数はいらない」


 間もなく、あるいは、既に、娘がもう一人の公爵家令嬢と共に暗殺されるのは確実だった。


「であっても、あそこにはハンスがいる。あいつに剣を持たせられれば、1個小隊が3個小隊であっても、タダでは済まさんと思うぞ」

「だが、現実に、パーティーは始まってしまったんだろう?」


 第一報は「王立学園のゲストハウスが狙われている」という情報だ。


 パーティーが始まった段階で動き出したということが脅威だった。戦場でもない限り、パーティー中の剣は、例外なく別室にしまい込むのが作法なのだ。


 この襲撃をギリギリになって嗅ぎつけたリンデロンの手のものが「鳩」を使って急報してきたのが、つい、先ほど。


 襲撃された時、パーティーは始まっていたかもしれない。


 誰もうかつなことがしゃべれなくなった御前会議で沈黙が続き、そこにリンデロンの手の者から「火急」の知らせが入った。


 王立学園のゲストハウスに送り込んでいた者だ。


 暗号を訳せば「夜会中 1個小隊 誘拐 公」とあった。


 つまりはどこかの軍に属する1個小隊がパーティー中に襲撃し、公爵家令嬢の誘拐を企てている」という情報だ。


「ウソだ! 我々の決定に不満だから、ウソを吐いているんだ!」


 円卓の大臣であるロウヒー家当主、ジャン侯爵が、先ほど放った第一声はそれだった。


 しかし、国王は「謀略のリンデロン」の手腕も諜報能力も知っている。まして、ここでウソを吐いても、すぐに露見してしまうことだ。


 これが真実の連絡であることは痛いほどよくわかった。


 この連絡が正しければ、いや、正しいに決まっているのだが、今、ここにいるふたりの公爵の娘が、誘拐、あるいは殺害されるのは確定なのだ。


 ここまでのいきさつ上、国王の責任が大すぎた。結果の重大さを考えてみれば「ごめん」で済ませられるほど、甘い人間ではないことを知っているのも国王だったのである。


 何があろうとも、自分も、そして三人の王子も、さほど時間をかけぬウチに「病死」するであろう未来が見えていたのである。


 打つ手がない中で、最善手を打つべく、ノーマンは脂汗を流して考えている。国境封鎖の手配はした。王立学園のゲストハウスがある王領を封鎖する命令も発した。


 もちろん、騎馬隊による救援部隊を出すようにとの命令書も出した。


 問題はそれらの手配が間に合うかどうか。


 誘拐が無理だと思えば「暗殺」に切り替えるかもしれない。


 一方で、誘拐が成立してしまえば、その後にいくら救出しても悲劇しか待っていない。というのは、体面を極めて重視しなければならない貴族家にとって「誘拐された令嬢」というのは、命が助かれば良いというモノでもなかったからだ。


 無事に救出されても、当主は涙を呑んで、辱めを受けた娘に「自害」を命じなければ、あるいは選ばなければならなくなる。


 したがって、ゲストハウスから、二人が連れ出された時点で令嬢の命は確実になくなり、そして王の命運も、そこで尽きることになる。


 しかも、そうなる前に、さっきからエルメスが言っているとおり、円卓の大臣達の命は、この瞬間に終わる可能性が極めて高かった。


「あ、えっと、と、ともかく」


 何かを言わねばならない。しかし何も思いつかなかった。


 特に、リンデロンの研ぎ澄まされた刃のような目を見てしまうと、もはやこれまで、と言われている気がしてしまったのだ。


 カンカンカンカン

  

 伝令官による「火急」のノックだ。


 大事な会議でも「割り込む必要がある」と判断したときのみに使えるノックだ。どんな場合であっても割り込めるが、代わりに、それが「くだらない用件である」と判断された場合、伝令官は職ではなく、命を喪うことになる。


 チラッとリンデロンが目を合わせてきた。もちろん、と頷き返す。


「入れ」


 作法通り「火急」の情報が載せられた盆を頭上に差し上げながら、伝令官がつつつつつーとつま先立ちで、床だけを見ながら入室した。


「リンデロン様宛にございます」

「うむ」


 配下からのものからであろう。そして、このタイミングで送られてきた「火急」となれば、おそらく王立学園のゲストハウスが襲撃され、甚大な被害を、しかも、娘が連れ去られたという知らせに違いなかった。


 誰かが「ヒィイ」と小さく悲鳴を上げた。エルメスは、おもむろに剣を取りに立ち上がりかけた。


 この時だけは、自分の立場を呪ったリンデロンは、盆に載せられた小さな紙片を取り上げた。


 veni vidi vici 

 

 リンデロンは、信じられない思いだった。紙片を持つ手が震える。


「すまぬ」


 国王が、かつて臣下にこれだけ深々と頭を下げたことなどなかっただろう。


 ハッと我を取り戻すと、盟友でもあり、国の政治責任者であり、そして、現在、国王に対して、今にも殴りかからんばかりの怒りを自制しているノーマンに対して「無事だぞ」と一言。


「何!」


 反応したのは国王が先だった。

 

 そこに向き直ったリンデロンは、薄笑いを浮かべつつ言った。


「鳥の運んできた知らせです。ウェーニー・ウィーディー・ウィーキーとあります。すなわち、敵が来た、見た、となっています」


 この瞬間エルメスが、ドスンと椅子に腰掛けたのを見て、円卓の大臣達は一様にホッとした。


「して、その詳細は」

「残念ながら、そこまでは」


 聞くまでもないことかもしれない。


 孤立無援で丸腰の教師と生徒が武装した1個小隊と戦ったのだ。


 一番楽観的な見方でも「教師は全滅、生徒が半分ほど生き残ったという感じになるだろう」と思わざるを得ない。


 願わくば、サスティナブル王国の誇りを掛けて、貴族の子弟がどこかに隠れて生き延びたということがないように、と思わずにはいられない。


 しかしエルメスだけは、満足げな顔だ。


 ノーマンとリンデロンの胡乱げな視線に気付いたのだろう。


「ぬし達は、まだ麒麟児を信じてないのか? この状況で勝利という言葉があるなら、小僧が何かをやったに違いないんだぞ。それなら、よりよき結果を生むに決まっておろうが。やつなら教師はまだしも、生徒全員を助けるくらい、平気でやってのけるかもしれぬぞ」


 ノーマンは「いくら何でも、そんな夢みたいなことを言うのはやめてくれ。手紙を書くのはオレの仕事になるんだぞ」と苦い顔だ。


 この事件で犠牲者が出れば、遺族へのお悔やみを述べるのはノーマンの仕事になるのは間違いない。


 それが何十通になるのか。手間はともかく、憂鬱になる手紙を書き続ける日々は、嬉しくないのは当然なのだ。


 そこに、再び火急の用件のノックがした。


「入れ」


 国王自らが答える異例の対応に、親国王派の貴族達も目を丸くした。


 そこには商人風に見せかけた男が、薄汚れた身なりのまま、膝を突き、息も絶え絶えに待っていた。


「学園の件だな? 申せ。直答を差し許す」


 取り次ぎ官は、国王の慌てぶりに、度肝を抜かれる。


「敵は一個小隊。侵入してきた敵は全て殺害、あるいは捕らえました。現在、付近に潜むはずの監察役を捜索中とのこと」

「ええい! 敵のことなど良い。被害だ、被害、何人犠牲になったのだ!」

「はっ。おそれながら、申し上げます」


 ゴクリ


「生徒、教師ともに全員無事。生徒のケガ人はゼロ、教師のケガ人は、腰痛者1名。被害はそれのみでございます」


 全員が、あんぐりと口を開けて、しばらく口を閉ざせなかった。


 最初に立ち直ったのはエルメスだ。

 

「生徒の一人が注意を引いて、その間にハンスが剣を取って戦った。そんなところだな?」

「おおむねその通りかと。一人の生徒が他の生徒を下がらせ、敵を何人も殺傷し、派手な立ち回りを演じてスキを作り出したようです。また、ハンス騎士団員と並び、アルバート元騎士団員が奮闘したよしにございます。その際、アルバートが古傷の腰を痛めたとのこと」

「注意を引いて戦った生徒の名前はショウ・ライアン=カーマイン。違うかね?」

「確かめておりませぬが、ショウと呼ばれた1年生です」


 エルメスは「小僧」っと一言つぶやいたきり、黙り込んでしまった。


 本来、喜ぶべきことだ。歓声を上げるべきだろう。


 しかし、喜ぶべきレベルを通り越して、一同は反応に困ったのだ。こんな結果はのだ。


「エルメス」

「国王、いかがいたしましたかな?」

「そのショウと言う者が、お前の言う麒麟児なのか? 今年のデビュタントで三人の令嬢を手にした、カーマイン家の令息。父親はガルフ卿だったな」

「御意」

「誰か、説明してもらえぬか?」


 あまりにも意外な結末であり、そして心からの安堵で、ガクンと背もたれに身体を預ける国王の姿を、臣下の者達は初めて目にしたのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

「円卓の大臣」とは、サスティナブル王国独特の制度です。無任所の大臣であり、身分が高くて、ほどほどに使える人間に与えられる地位です。上位の大臣に何事かがあった場合、この中から選ばれることになっています。誰が一番偉いのか決めなくて済むように、上位席ができない丸いテーブルに着くことから呼ばれるようになりました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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