第12話 スチール


 面白いことに、スキル・レベル1の時の「ランダム」で出てきたゴミは、レベル2になったら、狙って出せるようになってた。どうやら、オレが存在を認識したかららしい。


 いつか出したリサイクルBOXの「ビン」は、その後、何度か出している。


 高値で売りさばけたし、ブロンクスを通じて王家と公爵家にも献上しておいた。そうしたら、リンデロン様が先触れもなく現れて、大事になったんだよね。


 とにかく「今すぐ、メロディーを娶れ」「家督を譲るから婿に来い」だとかなんだとか、誰かに聞かれただけでも大騒動が確実なセリフを口走ってくれちゃったから、後始末が大変だったよ。


 ともかく、毎日、MPを使い切るまで何かを取り寄せ続けてる。 


 リンデロン様の反応がスゴすぎたので、ビビったオレは、とりあえずビンを出すのをいったん中止した。


 けっこう良いカネになったんだけどね。


 で、ビンのことを考えているうちに、あの時に出した塊……は、使えそうだと思えてきた。


 空き缶を圧縮して箱型に成型したヤツだ。「缶パッケージ」って名前は、その時にスキルが教えてくれたこと。


「あれって要するに鉄の塊なわけだから、リサイクルすれば鉄の原料になるよね?」


 気付いたのは自領への帰り道だった。


 領地に早馬を出して探させたんだけど、以前、放りっぱなしにしていたはずの塊は消えていたらしい。もちろん、何を探すべきか具体的にわからなくて「無い」と言ってる可能性もゼロではないけど、伯爵家で働く人間が、そこまでヘマをするわけが無い。


『ってことは、あれを誰かが持っていったんだろ? つまり、利用可能ってことだ。価値があるから持ち出したわけなんだから』


 無いってことを知ってワクワクするなんて不思議だね。


『それにしても伯爵家の裏庭から勝手に持ち出すなんて、勇気あるよなぁ』


 いくら金になるとは言え、伯爵邸に不法侵入すれば軽めに見ても死刑。下手をしたら「一族抹殺」になるんだもんね。


 王都での感覚がおかしいだけで、普通だと「伯爵」って地位は庶民から見て「近寄るだけでも貴族」ってレベルの権力者だもん。王国法があろうが何だろうが、領内ではやり放題状態と言って良い。あ、もちろん、オレはしないよ? 


 たださ、王国法なんてザル法に近いんで、立法権を持っている領主が警察権も裁判権も、ついでに徴税権も持っているんだ。そんな「お貴族様」だから庶民に対して絶対的な権力があるんだぜ? 


 オレが庶民なら、絶対に関わりたくないよな。


 領内の治安を考えなければ、理屈上「今年の税金は有りガネ全部だ」って言っても通るし、強制的に徴収することだってできる。反対する奴は縛り首、なんて悪徳領主を理論上はできるよ。ま、そんな領主は民が逃げ出しちゃうけど。でも、理論上はできるんだ。


 そんな権力者の邸に泥棒に入るってすげぇよ。お前は石川五右衛門かよ。


 だって、24時間、複数の騎士や兵士が警備しているわけで、しかも、前世の警察みたいに、証拠がーとか、人権がーとかは一切無視できるわけだ。


 文字通りに「切り捨てOK」なんだよ? 間違って切っちゃっても、文句を言う人もいない。


 そんな世界の貴族の屋敷に忍び込むだなんて命知らずも良いところ。


『まあ、たぶん外部じゃなくて、庭仕事の関係者が持ち出したんだろうな。でも、それは不問にしておくとするか』


 だってさ、オレが中途半端にしか埋め切れなかった、あれとかこれを、ちゃ~んと埋め直してくれたり、上にくれたりした優しい人達だ。放置されていたを持っていったくらいで波風を立てるなんて可哀想だよね。


 重要なのは「無くなったスチール」という事実さ。


 缶パッケージが持ち去られたという事実が逆に可能性を考えさせてくれたんだ。持ち出したってことは、持っていくだけの「価値」があるってこと。


「リサイクル資源として使える技術がこの世界にはあるんだ」


 それは、ビックリするようなことでもなかった。


 歴史ヲタの大学生としては、人間の暮らしが「鉄」を連綿とリサイクルして使い続けてきたことって常識なんだよ。


「あれをリサイクルできるんなら、ウチの領地の売りモノができるんじゃね?」


 早速、手紙を付けた缶パッケージを、一足先に領地へと届けさせた。


 出入りの御用商人ブロンクスに、それをどうにかできるのか、可能性を探らせたんだ。


 返答は「鉄の塊として利用できる」とのこと。


 もう、狂喜したね。だって、鉄って文明生活には不可欠なんだよ。鉄鉱石から作らなくて良いなら、相当にコストが下がる。一から生み出すよりも、リサイクルの方が圧倒的にコストがかからない。


「安い鉄製品を売り出せたら大もうけじゃん。しかも職人も商人も潤って、領内全体が活性化するに決まってる」


 ちなみに前世の人間の年間「鉄」使用量は、江戸時代が一人当たり300グラム。現代ともなると、ケタがまったく違って200キロにもなるんだよ!


 こっちの世界だと、統計は無いけど江戸時代に近い。


 現代の鉄が安くなったと言うべきかもしれないけど、とにかく、この世界での鉄は価値がムチャクチャ高いってこと。


 ちょっとした「鉄のナベ」や「包丁」は一生もののお値段だ。庶民だと、子孫に受け継ぐべき財産のひとつとして数えるレベルだ。


「出でよ、スチール缶パッケージ!」


 びよょよ~ん。


 オレの出す缶パッケージは1つ20キロ。一日分のMPを使い切れば、64個、つまり1トンを越えた量を出せるわけ。


 実家に戻って3日。


 御用商人のブロンクスは、呼び出した倉庫でポカンと口を開けて積み上がった缶パッケージを見つめたんだ。


「全部、普通の塊にして売ってくれ。お前の方で別の製品にして売ってくれても構わない。その分、納めるものをちゃんと納めろよ。オレの取り分は4割でいい」


 3日分で180個。


 3.6トンだ。


 オレンジ領の人口は、だいたい1万人ちょっとだから、1年分の使用量が賄えるはず。


「これを、私に扱わせていただけるので?」

「条件は3つ。原材料の出所を言わないこと。形を変えるまで他に流さないこと。働く人を大事にすることだな。これを守ってないと見なせることをしたら…… わかってるな?」


 証拠もいらないし、人権もないんだぜ?


 ブロンクスは、青い顔で返答した。


「そんな! 必ず守りますので! こんな宝の山を見たら、どんな商人でも、どんな条件でも必ず守りますから。えぇ、ぜひとも扱わせてください。この通り、お願いいたします」


 もう、這いつくばるようにしてる。


 さすが、三代にわたってウチのお抱え商人をやっているだけはある。


 貴族のお抱えを三代も続けて、ウチ程度の貴族に抱えられたままということは野望が少ないと言うこと。


 つまりは、比較的、良心的なはずだ。あこぎに儲けるよりも、地道に、堅実にやっていくタイプなんだろう。


 商人任せは、ベストではないとわかっているけど、細かいことまで監督できない以上、こういうタイプの商人に任せた方がぜんぜんマシなはずだ。


 ホントは「アルミ缶」を使えると、この世界での革新的な金属で、再現不能な宝物だ。使い道はいくらでもある金属だけに大儲けできるはず。実際、いくつかで試したけど、ブロンクスは大興奮して「こんなに軽いは見たことがない」って言ってたし。


 だけど、問題は、は見たことがあっても、アルミ缶プレスを見たことがないってことなんだよ。同じMP1を使ってスチール缶プレスを1つ出すのと、リサイクルBOX一つ分のアルミ缶を出すっていのは、コスパ的に微妙なんだ。金額的にはアルミが圧倒的に高く売れるけど、オレンジ領を発展させるには鉄を優先すべきなんだよね。


 ともかく、連日頑張って、さらに5トン分の缶パッケージを積み上げたところでブロンクスからギブアップ宣言。


「これだけでも、領内での加工に数年かかります」

「え? マジで? 溶かすだけだろ?」

「工程が全て手作業なので」


 あ~ そう言えば刀鍛冶さんかなんかの動画を見たことがある。鉄を溶かして別の形にするって、すっごく手間とエネルギーが必要なんだよね。


『転炉があればなぁ』


 近代工業の「骨」とも言うべき鉄鋼は転炉と呼ばれる仕組みが発明されてから一気に普遍化したと言っても良い。


 ん? まてよ…… この世界でもできるかも。


 歴史ヲタってこともあって、あっちこちの博物館にはよく行ったんだ。たいていは、広報用のパンフを出しているんだけど、最新号以外は、たいてい「ゴミ」にされちゃってるのが現実だった。


  ま、今はネットで何でも見られるから、陳腐化した資料が捨てられてしまうのは仕方ないのかもしれないけど、活字中毒のオレにとっては胸がチクチク痛んだのも確かなこと。


「出でよ、リサイクル資料!」


 びよょよ~ん。


 とにかく、出しまくった。


 日本には、けっこう「刀」とか「鍛冶」にまつわる博物館があって「鉄」そのものの博物館だって何カ所もある。


 オレは、その全ての資料のリサイクルコーナーで「ゴミ」となった資料を漁ったことがあるんだよ!


「やったあああ!」


 あったよ、あった。転炉の説明図。それに「韮山反射炉」の詳細図も載ってる。


 設計図とは言わないけど、鉄を扱える人間に、これらの図や写真を元に考えさせれば、最短距離で作れるかもしれない。


 もしも、転炉ができたらヤバいことになるじゃん!


 だってさ「鉄」とでは硬度と言うか、強度が根本的に違う。要するに炭素などの不純物の差なんだけど、それらを仕上げるためには、膨大な手作業を要するわけで。


 それを、数百キロ単位で一気に作れるのが転炉ってやつ。


 技術自体は18世紀にはできているので、必要なのは「こういうのを作ってね」って頼める技術者と、耐火レンガ、それに石炭ってわけ。


 石炭は、この世界にも存在するらしい。


 ブロンクスに聞いたら大量に取り寄せすることも可能だ。使い道が限定されているので値段も安い。


 確かに、暖房用にするにはニオイと煙がすごいもんね。


 となると、後は耐火レンガか。


 さてどうする?


 あ!


「ある」


 思いだしたよ。


 古~い造りのを見たことがあるんだ。もともとは戦前からのピザのお店だったところらしい。その解体工事のアルバイトをしたんだよね。


 あそこに使われていたのは……耐火レンガだ! しかも、現代の「なんちゃって耐火レンガ」みたいに高火力に耐えられない奴じゃなくて、明治時代以来の、素朴な作りの耐火レンガだ。


 これはいけるかも!


 早速、父上を説得した上でブロンクスを呼んだんだ。


「伯爵家の肝いりで、鉄を扱う新しい技術を開発する」

「さようでございますか。私どもは何をお手伝いすればよろしいでしょう」


 うん、さすが、御用商人だ。話が早い。


「人を集めてほしい」

「鍛冶職人と言うことでしょうか?」

「鉄は扱ったことが無くてもいい。新しい技術に関心のある頭の良い若手を10人くらい集めろ。ただし、家族とか大切な人がいること。独身の場合は、別に面談をする」

「鍛冶職人でなくとも、よろしいので?」

「見習い程度が混ざっても構わないが、鍛冶職人は必要ない」


 明らかにホッとした様子だ。領内の鍛冶職人は降って湧いた大量の「鉄材料」をなんとかするのに空前の忙しさらしい。それに「働く人を大切にしろ」という命令を律儀に守っているらしくて、職人達はウハウハだ(死語)


 作った製品を従来よりもかなり安く売り出して、飛ぶように売れ始めている。行商人は早くも目を付けて、ウチの領で仕入れて、よそに売りさばこうとする動きもあるほどだ。


 とは言え、原材料費がほとんど掛かってないから、それでもウチはボロ儲けなんだよね。


 売り上げの4割をもらう約束だけど、原材料費が含まれることを考えると、貴族が絡む商売にしては驚異的な「」なわけだ。


 ブロンクスがほくほく顔なのも頷けるよ。

 

 そして職人達は金が入るとバンバン使うタイプが多い。だから、もうすぐ空前の「鉄」ブームが来ることを願っておこう。


 さ~てと、産業革命に踏み出したら、もう一つは「緑の革命」も必要か。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

緑の革命とは、1940年代から1960年代にかけて品種改良や化学肥料の導入などにより穀物の生産性が向上したことを指します。ここでは、広い意味で、従来の農業からは得られないような収穫量の増大を達成することです。農業革命の1つとされる場合もあります。

オラはポテチが食いたいゾ 



すみません。作者のモチベーション維持のため★★★を入れていただけませんでしょうか?

評価とか、価値とか、どーでも良いんで、ひたすら星がほしーのです。

最後まで読んで「あ、こら、やっぱり面白くない」なら、★を減らすこともできます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る