第9話 天網会本部にて

※DVDに映っていない部分です。


明子達と朝食を取った後

永山達は【天網会てんもうかい】の本部を訪ねていた。

っちゃん良く来てくれたね。」

広い座敷にて神原かんばら会長は

笑顔で迎えた。

周りには【若頭わかがしら】の松山まつやま

はじめとして幹部が並んでいた。

その中には前日活躍した桐原の姿もあった。

「会長、昨日はありがとうございました。

 そしてまずこちらをおおさめください。」

永山が目で合図をすると後ろに控えていた

飛島とびしまがアタッシュケースを持ち前に出る。

恵や明子の前での陽気な顔と打って変わり

真剣な表情だ。

「どうぞ。」

「お預かりします。」

受け取るのは【若頭補佐わかがしらほさ】の1人

杉野すぎのだ。

武闘派の桐原に対し頭脳派として

知られているが眼鏡をかけた

その温厚そうな顔はインテリヤ○ザと

いうよりは役所や銀行にいそうな

見た目をしている。

拝見はいけんします。」

そう言ってアタッシュケースを開ける。

「確認 いたしました。」

杉野はアタッシュケースを閉めると

神原会長と松山の前に移動し

その前で再びアタッシュケースを開ける。

中には現金が入っていた。

「一億です。

 お受け取りを。」

永山の言葉に神原会長は更に笑顔になり

「鉄っちゃんいつも本当にありがとう。

 ただこんなに良いのかい?」

「それがすじから実験に使う

 若く健康な体が欲しいと頼まれまして

 今回は丁度良かったんですよ。

 昨日捕まえたヤツらは薬もやってない

 健康な体だったので1人当たり

 2000万はいけるかと。」

「ほう、それは良い儲けだね。」

「まさにリサイクルですね。

 堅気かたぎに迷惑をかける

 ゴミ共がかねになるのはまさに

 一石二鳥ですよ。

 ただ金に換えるのに時間が

 かかりますので先に一億

 持ってきました。

 •••今、天網会は色々と物入りだと

 聞きましたので。」

流石さすが鉄っちゃん耳が早いね•••

 ウチは今金策に走り回って

 いたとこなんだ•••

 助かるよ•••」

隣にいた松山も口を開く。

「永山さん本当にありがとうございます。

 この商売、面子メンツがありますので

 金を貸す事はしても借りるのは

 難しくて•••

 本当に助かります。」

「暴対法が出来てからシノギも

 難しくなりましたからね•••

 極道とヤ○ザは別物なのを

 分かってないんですよ。

 道をきわめると書いて【極道】

 ですからね。

 ヤ○ザや暴○団なんてものは

 道を外れた【外道】ですよ。」

「鉄っちゃんありがとう•••

 今はもう【任侠】や【仁義】

 なんてものは時代遅れかも

 しれないけど

 ないと俺達はただの暴力集団に

 なっちゃうからね•••」

「もし天網会が堅気や弱者を泣かすような

 集まりだったらウチとは敵対関係に

 なっていたでしょうが

 皆さんは本来の自警団的な役割を

 キッチリ果たしていますからね。

 ヤ○ザや暴○団は大嫌いですが

 会長をはじめとして極道の方には

 敬意を払いますよ。」

「嬉しいよ鉄っちゃん•••

 ねぇ鉄っちゃん【会長】じゃなくて

 【おやっさん】って呼んでくれない?」

隣にいた松山が

「おやっさん•••

 前にも断られたじゃないですか•••

 さかずきわしてないから

 呼べませんって言われたでしょう•••」

「呼んで欲しいんだよ!

 会長ってなんか他人行儀じゃないか!

 嫌なんだよ!」

それまで黙っていた【舎弟頭しゃていがしら】の

高野たかのが口を開く

「兄貴毎回それ言ってますよね•••」

「鉄っちゃんとは身内になりたいんだよ!

 比奈子ひなこ(孫娘)とくっつけたかったけど

 比奈子は彼氏がいるからなぁ•••」

それを聞いた永山は

「比奈子ちゃん彼氏出来たんですね!

 良かった!

 以前大学の飲み会で酒飲まされて

 トラブルになったと聞いてましたから

 心配してたんですよ!」

「そうなんだよ酒に薬混ぜて

 襲おうとしたクズのせいで

 未遂とはいえ一時期落ち込んでたけど

 幼馴染みの男の子のお陰で

 立ち直ってくれたんだ。」

「最高じゃないですか!

 そんな話大好きですよ!」

隣にいる松山が

「おやっさん場所を変えませんか?

 そろそろ正座がキツくなって

 きまして•••」

「そうだな。

 もうすぐ昼だから

 鉄っちゃん昼飯一緒にどう?」

「いただきます。」

「決まりだ!

 行こう行こう!」

神原会長に誘われて永山達は

昼食を取るために別の部屋に移動する。


テーブルには【肉じゃが】や【卵焼き】

【きんぴらごぼう】等の

家庭料理が並んでいた。

神原会長の奥さんの文子ふみこさんが

作ったものだ。

極道のおんなという感じはなく

年齢相応の優しそうな女性だ。

「鉄さんいつもウチの人が

 お世話になっています。

 鉄さんが来ると分かっていたら

 もっと豪勢にしたんですが•••」

「何をおっしゃいますか!

 こういった家庭の味こそ

 自分の求める料理ですよ。

 商談や会合で高級レストランやら

 高級中華やら行きますが

 自分にはどうも•••

 会長もそうでしょう?

 文子さんの作る家庭料理は

 ホッとしますよ。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。」

なんで文子は名前呼びなのに

 俺は会長•••」

「おやっさん、まだ言ってるんですか•••」

【若頭】松山は呆れていた。


神原会長の「いただきます!」の号令で

食事が始まる。

さっきまで真面目な顔をしていた飛島とびしま

いつもの顔に戻り

「美味い美味い!」

と食事を楽しんでいた。

「飛島さん良い食べっぷりね。

 おかわりいかが?」

「いただきます!」

「おいとびもう少し遠慮を•••」

なに言ってんだい鉄っちゃん!

 遠慮しないで食べてよ!

 文子の飯は美味いだろ?」

「すいませんじゃあ自分も

 おかわりをお願いします。

 確かに凄い美味いです!

 どれも美味いですけど

 この【鶏肉と大根の煮物】!

 飯が進みますねぇ!」

「俺もこれ大好物なんだよ!

 •••さっき鉄っちゃん言ってたろ?

 高級料理じゃなくこういう家庭料理を

 求めてるって。

 俺もそうだよ。

 は格好付けるのも

 仕事だから若い頃は

 【美味いもの食って

  い女を抱く

 その為だけに生きてる】なんて

 言ってたけどさ•••

 【美味いもの】は文子の作る飯で

 【良い女】も文子がいればそれで良いと

 つくづく思うよ。」

「羨ましいですねそんな相手がいるのは•••

 本当に大切なものは無くしてから気付く

 なんて言葉は自分は好きじゃないです

 本当に大切なら今の会長みたいに

 無くす前から大切にしていますよ。

 無くしたから大切だったと勘違い

 しているだけですよ。」

「そうだね•••

 【文子】も【文子と過ごす時間】も

 本当にとうといよ•••

 本音を語らせてもらうとさ

 こんな稼業だろ?

 何時いつくたばるか分からないから

 俺も文子もお互い生きているうちに

 隠居しちまおうかと思う事も最近

 多くなったよ•••」

それを聞いた【若頭】の松山

そしてその場にいた

他の幹部もギョッとした顔をする。

「おやっさんそんな弱気な事を!」

「まぁ考える事も有るって事だよ。」

静かに食後のお茶を飲んでいた

【舎弟頭】の高野が口を開く

「俺は兄貴の考えよく分かりますよ•••

 血気盛んな頃はとうに過ぎて

 俺も兄貴も60代ですからね•••

 カミさんと晩酌しながら

 誰もいない田舎に2人で

 引っ越そうか、なんて話す事も

 ありますよ•••」

叔父貴おじきまでそんな•••」

「まぁそんな事も考えるって話だ。

 兄貴や俺が引退したら

 松山、次はお前達の時代だ。」

「いやもうすでに松山達の時代だろう。

 天網会はこいつらが回してくれてる

 俺なんておかざりのトップさ。

 だからいつでも引退出来るよ。」

「おやっさんや叔父貴の口から

 そんな言葉を聞くなんて•••

 褒めていただくのは嬉しいですが•••

 正直自分にはおやっさんや叔父貴の

 ような男の貫目かんめはまだ•••」

「お前こそなに弱気な事言ってやがる!

 お前はカシラにまでなった男だぞ! 

 それに立場が変われば貫目も

 上がるもんだ。

 •••まぁ今すぐじゃねえが

 いつかはお前が頂点てっぺん

 立つ日がくるんだ。

 松山だけじゃねぇ!

 【親】である俺より先にお前ら【子】が

 死ぬんじゃねぇぞ!」

「「「「「「「はい!!!!!!!」」」」」」」

その場にいた舎弟衆以外の

組員全員が答える。

文子さんは慣れているのか微笑んで

その様子を見ている。

わりぃね鉄っちゃん食事中に

 こんなとこ見せて。」

「いやぁ良いもの見せていただきました。

 まだまだ【周三郎しゅうざぶろう親分】の

 天下は続きそうですね。」

「えっ!

 今、周三郎親分って呼んでくれた?

 もっかい(もう一回)呼んで!」

「おやっさん台無しですよ•••」

そう言いながら松山の顔は

嬉しそうであった。

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